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小人たちの家で

 森を馬に乗って歩きながら、何故こんな事態になっているのかを考える。


「あの、どこに向かっているのかしら?」

「姫を守るためには仕方がないのです。お分かりください」


 先ほどからこればかりだ。今朝、突然父から城を出るように言い渡され、この狩人に連れられて森の中を進んでいる。供の者もなく、ひっそりと隠れるように出発したのも気になっていた。


「はぁ。守るって一体何から…」


 呟いて、ふと一つ思い当たったのは義母の事だった。まさか、自分を疎ましく思っている彼女から、父は守ってくれようとしているのだろうか?


「考えても仕方がないわね」


 弟が出来たときに、いずれは王国を出る日が来るだろうとは思っていた。その日が少し早めに来たと思えばいい。

 しばらく歩き続けると、森の奥深くに小さな家が現れた。その前で狩人は馬を降りると、扉をノックした。どうやら目的地はここらしい。


「はーい」


 現れたのは、小さな人だった。


「小人?」

「お嬢さんは小人は初めて見たの?」


 少し離れた場所で馬を降りた姫の足元で声がした。吃驚してそちらを見れば、小人が数人こちらを見上げている。


「えっと、そうね初めてよ」

「そっか。それで、こんな森の奥に何の用?」


 また違う小人が問いかける。


「私はよく知らないけれど、彼が知っているわ」


 指し示した先の狩人が丁度、家から出てきた小人に書状を渡しているところだった。


「なんだ、なんだ?」


 わらわらと小人達が扉の前に集まっていく。それについていくと、どうやらここにしばらく姫を滞在させてもらいたいと言うことだった。


「お嬢さんを?」

「王様から?」

「面倒じゃないのか?」

「料理はできる?」

「掃除は?」

「増えちゃうねぇ」

「どーする?」


 口々に話し始めた小人達を呆気に取られながら、眺めているとどうやら結論が出たらしく一斉にこちらを向いた。


「良いよ。でもここに置く以上は働かざる者、食うべからず! それで良い?」


 リーダー格なのだろう小人の一人が言った。その言葉に狩人は表情を曇らせる。その顔は、姫にそんなことはさせられないとでも言いそうな顔だった。


「分かったわ。私に出来ることなら…」


 しかし、姫の取り柄と言えば馬を操ることと弓くらいなもので、家事などしたことがない。はたして上手くやれるかどうか…


「姫、良いのですか?」

「良いのよ、ここに置いて貰わないと帰る場所が無いんだから」


 少し寂しげな姫の表情に、狩人は口をつぐむ。狩人自身も詳しい話は聞いてはいないが、これだけは伝えておかなければと姫に向き直った。


「しばらくたった頃に、必ず迎えに来ると伝えよと王様より伺っています。どうかそれまでお元気で…」


 ペコリと頭を下げて、狩人はもう一度小人達に姫をよろしく頼むと、再び馬に乗って来た道を戻って行った。

 それを見送ると、姫と小人達は家の中へと入った。小人の家という割には大きく、人間の家とあまり大差はなかった。強いて言うなら家具が少しずつ小さい位だ。


「ここがリビングで、二階が寝室」

「二階の一部屋を使うと良いよ」

「ベッドも人間用があるから心配無用だよ」


 小人達の説明にありがとうと返しつつ、キョロキョロと部屋を見渡す。二階の部屋に案内されると、廊下を挟んであと二つ部屋ある。


「あっちの部屋が貴方達の寝室なの?」

「うん。こっちが俺達で、あっちがリックの部屋なんだ」

 ん? リックとは誰のことだろうか? 疑問が顔に出ていたのか、小人の一人が答えてくれた。

「もう一人の居候だよ~」

「それは人間の?」

「そう。人間の子だよ」

「ほら、噂をすれば帰って来たよ?」


 階段を上がってくる音に、そちらに視線を向ける。現れたのは、焦げ茶色の癖毛に碧眼の一人の精悍な青年だった。


「皆して集まってどうしたんだ? って、あんた誰?」


 訝しげな表情を隠しもせず、彼はこちらに歩み寄ってきた。


「お帰り~、リック」

「おう。で、これ誰?」


 中々に失礼な青年に、姫はムッと顔をしかめる。


「白雪姫だってさ」

「は? 白雪姫ってあの?」


 どの白雪姫と言うのだろうか。まぁ、良いが白雪姫は名前ではないのだけれどね、と表情には出さずに苦笑する。


「それが本当なら、何でお姫様がこんな森の中にいるんだよ」


 もっともな問い掛けである。が、理由などここに居る誰にも知らされていない。当の姫本人でさえ解りかねているのだ。


「知らないけど、ここが安全なんだって~」


 のんびりした雰囲気の小人の一人が言った言葉に、リックは首を傾げた。


「ふーん。あんた、命でも狙われてるのか?」

「さぁ? 私が知りたいわ」


 心当たりが無いわけでもないが、そこまでするとは考えたくない。仮にも義母を疑いたくはないのだ。そもそも、冷たい態度はとられているものの、特に害を与えられた記憶もないのだから。


「ふーん」


 じーっとこちらを見つめてくるリックの視線は、何もかも見透かそうとするようで居心地が悪い。


「な、何よ…」

「いやぁ、噂通りの美人だなぁと思って。だけど…」


 ニヤリと笑うと続けて一言。


「あんた、噂と全然違うのな」

「噂通りの人間なんて、そうそういないものよ」

「確かに。噂はあくまでも噂でしかないもんな。ま、これからヨロシクな」


 そんなこんなで、二人と七人の小人たちとの奇妙な同居生活が始まったのだった。

まさかの過保護隔離政策で小人たちの家へと追いやられた姫でしたが、それを送り届けた狩人さんは報告のために城へと戻ってきました。


「無事に姫を小人達にお預けして参りました」

「うむ。ご苦労であった」

「これでひとまず安心ね」


ニコニコと妙に上機嫌な国王夫妻に、更なる疑問を抱かざるを得ない狩人さんなのでした。

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