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縁談を破談へ

 そんな白雪姫にも縁談が来た。隣国の王子のお妃に是非にと、内々に打診があったらしい。


「王妃よどう思う?」


 王様の問いに、王妃は頭が真っ白になっていた。白雪姫がこの国を出ていって嫁いでしまう! そうなれば、魔法の鏡の力は及ばなくなり、もう(鏡からこっそり)見守ることが出来なくなってしまうではないか。


「は、反対ですわ!」


 それだけ言うと、脱兎のように自室に駆け出した。そんな王妃の後ろ姿に、王は苦笑をしながらどうしたものかとため息をついた。


 一方、王妃は自室でどうすれば白雪姫をこの国に置いておけるかを考える。


「あの子は跡継ぎではないのだから、いずれはこの国を出ることになるのよね…」


 しょんぼりと項垂れる王妃の側に、とてとてと歩み寄る幼い男の子が一人。艶やかな黒髪に、王に良く似た凛々しい眼差しを宿した、青い瞳の可愛らしい少年だ。


「母様、悲しいの?」

「ええ。貴方の姉様が結婚してこの国を出ていってしまうのよ」

「…やだ! 姉様が居なくなるなんて、絶対やだ! 父様に言ってくる!!」


 そう言うや否や、少年は脱兎のごとく部屋を飛び出していった。こういうところは、この母に似たようだと王妃は微笑ましくその背を見送った。


「あの子が嘆願したら、何とかなるのではないかしら?」


 母とは違い、白雪姫ととても仲良しな我が子に少しの希望を見いだしつつ、鏡の前に立つ。


「鏡よ鏡。何とか姫を他国に嫁がせない手段はないかしら?」

『それを私に聞かれましても困りますが、一つだけ。隣国にバレぬように姫を隠してしまえばよいのでは? 時間稼ぎくらいはできるでしょう』


 その間に何か良い案を考えて、破談に持ち込めばいい。というこの鏡による助言が、後に大きな問題となることなど今は誰も予想だにしていなかった。




「父様! 姉様がお嫁に行くと言うのは本当!?」


 バンっと扉をぶち破るように入ってきた息子に、何事かと王は目を見張った。その後を追うように、侍女や侍従らの声が聞こえてくる。


「で、殿下! お待ち下さ~いッ!! あぁ。も、申し訳ございません、陛下」


 可哀想に年配の執事長が追いかけていたらしく、顔を真っ赤にさせてゼェハァと扉にすがり付いていた。汗だくの顔は、今にも倒れそうな形相になっている。


「よい。お前たちは下がっておれ」

「は、はい」


 不憫に思った王がそう声をかけると、静かにパタンと扉が閉められた。それを確認して、ちょこんと足元にすがり付く息子を抱き上げる。


「一体どうしたのだ?」

「母様が、姉様がお嫁に行っちゃうから悲しいって! 姉様どこかに行っちゃうの?」


 うるうると瞳を揺らがせて見上げてくる息子に、王はうっと言葉を詰まらせた。王とて、前妻の忘れ形見である可愛い姫を他国になどやりたくはない。

 しかし、王としては隣国との縁談を簡単には破談にするわけにもいかず、どうしたものかと頭を悩ませているのだ。


「そうだな。まだ決まったわけではないが、そうなることも有るかもしれないということだ」


 そんな父の曖昧な答えに、少年はうーんと考えて一言。


「やだ!」

「そうですわ! やだ、ですわ!」


 いつの間にか部屋に現れた、王妃も加わり二人での説得が始まった。


「お前まで…」


 自分とて嫌なのだが、隣国の()()の申し出を無下に出来るわけもなく、仕方がないではないかと王は頭を抱えた。


「陛下だって、姫を他国になどやりたくはないのでしょう? だから、私考えましたの!」


 白雪姫の縁談のはずが、本人不在のまま彼女を溺愛する3人によりなんとかこの縁談を破談にしようと話は進み…


 よし。とりあえず、姫を隠してしまおう! と結論が出たところで、姫に話してあっさり嫁ぎますと言われてしまうことを恐れた3人は、こっそり事を実行に移すことにした。

 そこで呼び出されたのは、腕利きの狩人だった。王国の深き森の事を全て知り尽くした彼に、誰にも見つからない隠し場所は無いか聞くことにしたのだ。


「それでしたら、王国の森の奥に小人達が住む家があります。あそこなら、人目には触れないかと」


 それを聞いた国王と王妃はさっそく狩人に書状を託し、姫と共に小人のもとに送り出す事にした。


「くれぐれも姫を頼むと小人達に伝えてくれ(ちょうだい)」


 ずいっと身を乗り出して凄んでくる国王と王妃に、狩人はコクコクと頷く。そうして姫はしばらくの間、森の小人達に預けられることとなるのだった。

狩人さんは何も知らされないまま、国王夫妻に呼び出されているので内心オロオロしてます。


(え、姫を隠すの!? 何から? まさか、厄介払い?)


という割には王も王妃も真剣なので、ますます混乱しちゃってます。


「最後にこの事を口外したら、分かっているな?」


そう王妃から凄まれてコクコクと青い顔で頷いたのは、言うまでもない事ですよね。

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