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秘められし竜の力

「フゥ……フゥ―ハハハ! 貴様の物語もこれで終わりだ!」


 俺は切矢に向け指を突き出し香ばしいポーズをしながら、決めゼリフを言い放った!


 俺の右手には、厨二病設定にすぎなかった筈の竜爪が、轟々と燃え盛る炎を纏い、凄まじい熱気を放っている。


 その竜爪はまさに相棒のライトノベルや、神話に語り継がれる炎竜の腕となんら相違なく、鱗までも細かく繊細で美しかった。


 「ハッ!これで終わり? 面白いこと言うなぁ? だったら終わらせられるか試してみろよぉ!?」


 そういうと男は喜色を浮かべながら武器を銃から刀に戻して先程と同様に展開すると、俺に向けて刀を殺到させた。


 竜の血の力なのか身体能力が上がり五感も研ぎ澄まされているようで、最初に頬を裂かれた時とは違い、今は相手の攻撃がハッキリと見えている。


 そして、俺自身が高速で動き回ることが可能になった以上、この身に食らう道理は無いということだ!


「ちょこまかと……! 逃げてばかりじゃ俺は倒せねぇぞ!? 〝オルター・チェーン〟!」


 今度は泉の時に使った鎖での攻撃に切り替えてきた。


 男はこの短時間で刀から変化させた鎖をより正確に操れるようになっていて、俺が避け続けてもしつこく追い縋ってくる。


 俺はいつまでも逃げ回っていては埒が明かないと判断し、技の発動に移った。


「〝紅蓮拳〟!」


 そう厨二病の時に設定していた技の名称を叫ぶと、俺のイメージした通りに発動し撃ち出した紅蓮の炎の拳が相手の鎖を一瞬で溶かした。


 その勢いのままドッ!と音を大きく響かせて地面を蹴り、かなりの速度で男の目の前に飛び込んでいく。


「真正面から向かってくるとは自殺志願者なのかなぁ!」


 正面から向かってくる歩に男は一瞬で刀を手元に展開し直し、一斉に刀を操り斬りかかると同時に


「〝オルター・ダイヤモンド〟」


刀の材質をダイヤモンドに変化させる。


 あれを直接体に喰らえば、さすがに一溜りもないだろう。


 けれど、俺は向かってくる複数の刀に怯むことなく、纏う炎を更に燃え上がらせて右手拳を振り上げた。


「馬鹿め! 死ねぇ!」


 男は勝ちを確信したかのように笑みを浮かべた。


 しかし、その表情はすぐに困惑と悔しさに歪んだ。竜爪から放たれる超高温の炎で、男の刀は次々と真っ赤に発光し、白い煙を上げ瞬く間に焼き尽くされていった。


「グゥ……! ば、馬鹿な! クソ! クソ! てめえ何をしやがった! 鉄をダイヤモンドに〝オルター〟の能力によって材質変化させ、炎への耐性はあげたはずだ!」


 男はダイヤモンドで形成された刀が消滅したショックと、高熱の炎の余波を食らって片膝を地面に突いてしまっていた。


「鉄が熱に耐性がない! そう判断し即座に能力で材質を変える。そこまではいい! だがお前はとんだ思い違いをしている! ダイヤモンドは炎によって燃えるのではなく、焼けて二酸化炭素となり消滅する! 人を殺すことしか脳のないお前には知識がなかったみたいだな!」


 俺は心の中でガッツポーズをとった。この調子に乗っている外道に一泡吹かしたのだ。俺はこれなら勝てると確信し、つい余韻に浸ってしまった。


「やってくれたねぇ歩君!! この俺様をここまでコケにしてくれるとは」


 男は再び立ち上がり戦闘態勢に入ろうとしている。全然諦めてくれていないようだ。


「こうなれば奥の手だ! まだ隠しておきたかったけど仕方がねぇ!俺様に力を貸せぇ! 魔剣グラム!」


 その掛け声とともに、男の横に謎の亀裂が走り、謎の異空間が開いた。


 その空間から剣の柄だけが出ており、男はその柄を右手で握り、力強く引き抜き始めた。


 剣は抗うかのように周りに強い光を放ち、イナズマが迸った。


「クソッ! やはり抗ってきやがる! まだ制御がイマイチうまくいかねえなぁ」


 男は左手で自分の頭をガリガリと掻きながら、酷くイラついた顔をしていた。


 俺は男が剣を呼び出すのを目の当たりにし、ある可能性が頭に過った。


 あれを試してみるとしよう!


 「〝 コート・オーダー〟ファイアー・ドレイク!」


 俺の契約している眷属召喚の詠唱だ。


 しかしなぜか技は不発に終わってしまった。


 それと同時に男も空間から剣を完全に引き抜いて反撃の準備を終えてしまい、こちらが追撃をかける隙を失ってしまった。


 魔剣グラム。色々な神話で語り継がれているが、大まかな伝説は同じでファフニール討伐に使用されたとされている。


 実物をこの目で見るのは当然はじめてだが、剣は黒く染まっていて禍々しいオーラを放っていた。


 ファフニールとおなじ、竜の血を引いてる俺は狩るべきモノだと剣が判断したらしい。


「泉ちゃんと同じところへ送ってあげるぜぇぇぇ! 歩くんよおぉぉ!」


 男はそう言い放ちながら一気に加速して俺の目の前に肉薄し、これまでとは違い自身で直接剣を振るってきた。


 俺は男の素早い連続攻撃を辛うじて避け続けているが、それも長くは続かないと判断して、意を決して右手の竜爪の爪の先で受け止めた。


 しかし、グラムの威力は思った以上に凄まじく、身体が吹き飛ばされそうなほどの力が俺の右手にのし掛かった。


 魔剣グラムは数瞬の膠着の後ジワジワと俺の爪の先へ食い込み、ついに俺の爪を切断した。


 咄嗟に飛び退さり致命傷は防いだが爪の先を持っていかれてしまった。痛みはさほど感じないが俺は攻撃の術を1つ失ってしまった。


「おいおい、ご自慢の爪が足元に転がっているぜぇ! ギャハハハハハハ!」


 男は勝ち誇ったかのように高笑いをあげている。


「これならどうだ! 出力最大! 爆炎!」


 爪が剥がれても炎の主体の攻撃は可能と考えた俺は、右手の炎を瞬間的に凝縮させて、横薙ぎの一閃を全力で空中にジャンプして躱し、男に向けて右手を突き放出した。


「フッ! 愚かな野郎だ!」


 男もそれを読んでいたのか空中にジャンプし、俺の攻撃に対して真正面から剣を振り上げ向かってきた。


「くたばりやがれぇぇぇ!」


 お互いにこれで戦いの決着がつくと考えていた。が、次の瞬間正面に黒いフードを被った少年が出現し、2人の攻撃を両手で受け止めた。


「はい、そこまで〜。これ以上の戦いは僕が許さないよ」


 俺はこの少年を知っている。昨日の夕方に校門の前で声をかけてきた子と同じ格好、容姿をしている。


「エニグマか! 邪魔するんじゃねぇ! 俺はこいつを殺す! 殺す! 殺す!」

「だーめだよ切矢。歩くんを殺したら! 僕言ったよね? 歩くんは他の能力者と違って生かしておいてって!」


 少年は叱りを入れながら、何の動作も感じさせずに鎖を出現させ、男を拘束した。


「あと切矢! あれを使ったね? あれは使うなと何度も言ったよね!」


 少年は男を蔑む目でみて呆れている。


 おそらくあれとは魔剣グラムの話だろう。制御ができてないという男の言葉にあった通りまだ不完全だったのだろうか。


「どちらにしろ時間切れだ。一旦引くよ」

「……チッ!分かったよ」


 そういうと男は武装を解除した。


「あ、そうそう初めまして…でもないかな。僕の名前はエニグマ。歩くん! 切矢が悪いことしたね。」


 少年は手を合わせておちゃめな表情で謝ってきた。


 正直、泉を殺されたことに相当の怒りを持っているが、この少年に言ってもしょうがないと思った俺は無言で返した。


 謝罪が済むと、奴らの後ろに魔剣グラムがでてきたときと同じような空間に亀裂が走ったような門が現れた。


「ではでは歩くん、またいずれ会う日を楽しみにしてるよ!」

「てめえは俺がいつか絶対殺す!」


 そう言い残すと空間の中に消えていき、一瞬にして異空間が消え去った。


 さてこれからどうしたものか。

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