到着! 名古屋 大須基地!!
時刻は午後14時半を回った頃。僕達は本来の予定より2時間ほど遅れてようやく名古屋大須支部に到着した。大須の街は様々な文化が融合している。故に能力者の幅が広いと界隈で話題になっている。
この支部の外観は中国的な作りで正面に10メートル程の龍の置物が置かれており秋葉原のように隠れ家みたいな感じではない。基地に入るとまずは雷さんと暁さんの案内で大須支部の会議室へ通された。
この支部のリーダーを呼びに行ってくるので僕達には先に座って待っていてほしいとの事。暫く4人で今後のルートについての大まかな話をしていると、一人の男が室内に顔を出した。
「すまない。待たせたな」
その男の名は鮫島 奏汰。黒髪ロングで、端整な顔立ち。立ち居振る舞いにも上品さを感じる。服装は真っ白な着物と羽織の姿で、右手に刀の収まった鞘を取り付けている。僕は世の女性達と比べると男性の容姿への感覚に疎い自覚がある。だがそんな僕ですら、女性のおよそ8割は彼を見ただけで心をときめかせてしまうのだろうとわかるくらいに整った顔立ちをしていた。
彼は最初に先の一件で2人を助けた事に対してのお礼を丁寧にしてきた。その後は僕達がそれぞれ手短に自己紹介をした後、この地に訪れた経緯と僕らを取り巻く状況を説明し、作戦のために力を貸して欲しいという旨を伝えた。
力を貸すことに関しては吝かではないとの返答を貰ったが、今はカラミティという犯罪集団を追っていてその一件で手が離せないらしく、早く片を着けるために協力をしてほしいとお願いされた。僕達はその申し出を承諾し、しばらくはこの大須支部で部屋を貸してもらい寝泊まりするという運びにはなった。
僕は部屋を離れる前に鮫島さんに頼んでカラミティについての詳しい資料を頂いた。協力する以上は敵について可能な限りの情報を知っておかなければならない。敵を知り己を知れば百戦危うからず、と孫子の兵法にも書かれていることからも情報というのはいつの時代も重要だ。
僕は部屋に戻り、私服に着替えてから早速貰った資料に目を通した。カラミティ、日本語に訳すと災厄という意味だ。リーダーの名は殺神 俊哉。能力は鬼神刀を使った鬼化による剣技。
この能力は、あくまで推測だが人気漫画の「神狩」という作品の敵キャラの鬼島 嵯峨根がルーツになっていると思われる。血に染ったような赤い刀。それによって体を斬りつけられると、ヴァンパイアに吸血されるかのように刀によって血液を吸い取られていく。そして血を吸収すればするほど刀身が伸び力も強力となっていく。極めつけは刀が吸った血を使い手が身体に流し込むことによりその体を一時的に鬼化し、身体能力を強化する鬼神化という能力だ。僕も作品には目を通しているのでこの能力については重々承知している。これが発動すると、この作品の主人公ですらこの男の動きを見切ることはかなり困難だった。しかも再生能力も異常。現実でこのキャラと戦闘をした事は当然ながら経験はないため、まだ僕では判断しきれる事ではないが鮫島さんが手こずっているのも分かる。
恐らく、僕達がこいつを倒すことができる可能性があるとしたらキーパーソンとなるのは八重だろう。作品こそ違うが、能力はベースは刀剣からくるものだ。神経を研ぎ澄ました極限状態の彼女ならば奴の攻撃を見切れるかもしれない。それに僕の強化魔法によるサポートで身体能力の向上、先の戦いで新たに手に入れた草薙剣だってある。決して勝てない戦いでは無いはずだ。
他にもその組織に属する色々な能力者の情報が書類には記載されていたが、お昼をまだとっていなかったこともあり、僕は那月と八重を誘い食堂でランチを頂くことにした。この支部の食堂には神田支部とは打って変わって大量の自動販売機が設置されていた。隣の自販機にはおでん缶やお雑煮缶などの目を引く商品がならんでいたが、目の前のこちらには焼売やハンバーガー、牛丼などがあり、とても自販機で販売するとは到底思えないようなラインナップだ。
勿論ここでも神田支部と同じように定食などの提供もしているようだが、僕らが食堂に集合したのは16時。子供ならおやつを食べ終わる時間だ。ランチを食べるには明らかに遅い。当然ながら時間外通告を受けてしまい、各々が自販機から食べたいものを購入して席に着いた。僕らが選んだのはハンバーガー。僕は魔女のようなその格好と眼鏡をかけている所からはイメージが違うのだろうが、かなりジャンクフード好きなのだ。姫野原邸を居候先にしていた時も本を読む時以外では、ピザを出前してコーラやポテチをつまみながらネトゲに勤しむ、というよくあるニートのそれになりかけていた。
食事を終え時刻は16時。僕は名古屋大須の街に赴く事にした。知識とは日々更新し続けないといけないものだ。いつ何時も新たな能力者が生まれるか分からない。そして僕の能力は本から知識やそのイメージを吸収して日々能力の幅を広げることができるのが唯一のアドバンテージだ。そのためには知識の元になる情報が必要不可欠。僕は美麗から託されたクレジットカードを持ち本屋に行く事にした。先に言っておくが僕は歩のように極度のオタクではない。しかし、アニメやゲーム、ライトノベルは大好きでもある。それに加えて文芸小説や日本の歴史など一般的な方にも触れているので幅広く読んでいるのだ。
そう、これこそが僕の能力が特殊な理由。分け隔てなく物語を信じる力。故にこの能力には制限がされているのだろう。
僕は書店に着くと、お店の人がびっくりするくらいの大量の新刊をレジに積んでいく。会計は2万円程になった。
本の購入を終えた僕は部屋に戻り早速、読書に没頭していった。ドラゴンブレイカーをやりたい気持ちもあるが、今はとにかく知識が欲しい。新たな能力への扉、そして未来に現れる能力者の詳しい情報。初級・基礎となる魔法しか使えない僕はこういった方向でしかみんなの力になることができない。自分に与えられた役割を全うしなければ。
没頭し続けてふと気が付けば時刻は21時。その直後、部屋に内線で連絡が入った。
「あ、恵くんか? 鮫島だ。カラミティに動きがあってな。至急会議室に来てほしいのだが大丈夫だろうか?」
それは鮫島さんからの緊急招集の連絡だった。僕は大至急で私服から着替えて会議室に急いだ。部屋に着くと既にこの支部の沢山の人が席についていて鮫島さんが指示棒を右手にモニターへ指しながら状況を説明してる最中だった。
「あ、恵くん。いきなり呼び出してすまない。空いてる所に座って聞いてくれ」
僕が席に座ると、後から来た人のために説明を再度始めからしてくれた。
説明された現在の状況をまとめるとこうだ。カラミティは銀行を襲撃して現金を盗んだ後、見張りの隊員と遭遇し戦闘を開始。こちらの隊員8人の内6人は殺されてしまったという。そして生き残った2人は逃げたと見せかけて追跡して現アジトの特定に成功。そのうち1人は今も監視を続けていて、もう1人は支部へ大急ぎで戻り、事のあらましを報告してくれたという。鮫島さんは仲間を6人も殺されたという報告を受けても、動揺は一切みせず冷静に状況を分析して敵アジト襲撃のための班の編成、確認を行っている。
今はやっと居場所を特定できたカラミティを確実に抑えることが最優先だ。仲間の死を無駄にしないためにも早く行動を起こすしかないという事なのだろう。それなりに実力のある8人ですら2人を生き残らせるので精一杯だったという事実を踏まえ、僕たち3人では班としては今回の作戦を遂行させるのは危険だと判断し、鮫島さんの指示で昼間案内してくれた雷さんと暁さんの2人が同行してくれる事になった。
2人の能力は別荘の件で実際に目にしてるので、こちらとしてもとても頼もしい限りだ。ある程度の説明が終わってから僕達はこのメンバーで最終確認を行い、カラミティが身を寄せているアジトに向けて出発した。




