レイド戦!! VSヤマタノオロチ!!
ーー忍者の里近辺森中ーー
夜舞暗奈は先程の妖との戦闘で四肢を凍らされ身動きが取れない状況が続いていた。
「こ、これで……うわ、やっぱりキツいわね。ハァ、氷を溶かすために一時的にとはいえ、フゥ、毒の能力を体内で調整して体温を上げてそれを維持するのは……」
彼女は先程の「ポイズン・レインフォースド」の能力によって体内に取り込んだ毒を調整し自身の体温を上げ氷を溶かす作戦を試行していた。一時的とはいえ身体の体温を上げるのは自分で風邪をひいて熱を出しているような状況だ。その辛さは皆様ならお分かり頂けるだろう。さらに毒の調整をミスするわけにもいかないので精神力が削れる作業だ。
努力の甲斐もあって何とか氷を溶かす事に成功した。しかしその直後、とてつもない地響きが森中へ響き渡る。動物達も何かを感じ取ったかのように各々が鳴き声をけたたましく叫んでいて、地響きの発生源と思われる方角とは正反対の方向へと逃げてゆく。その動きから考えると発生源は屋敷の方向だという事がわかる。つまりは歩たちに危機が迫っている。そう考えた暗奈は疲労が残る己の心身に活を入れるように両の頬をパシッといい音が響かせた後、急いで歩達の元へ向かった。
ーー忍者の里ーー
「あれはなんですの!?」
最初にこの地響きが発生した後に俺達の元へ戻ったのは美麗だった。俺と恵はその質問に対し無言で奴のいる方向に指を指した。
奴と呼んでいるのはウルフ達が謎の輝石の力で復活させた「ヤマタノオロチ」の事だ。かっこいい? 生の伝説の生き物? 絶賛厨二魂全快である俺も今日この時は流石にそんな風に喜べるような余裕は一切湧かなかった。ただそこにあるのは絶望、恐怖といったマイナスの感情ばかりだ。そんな事を考えている傍らで奴は急激に体を巨大化させている。
皆も騒ぎに気づき俺たちの元へ集まったが目の前で起きている事態に驚きの表情を隠せていない。そんな中、恵が口を開き話し始めた。
「皆、今僕が知り得る目の前の奴。ヤマタノオロチの情報をみんなに伝える。後は皆次第だ。心して聞いてくれ」
恵の話によると奴の名前は「ヤマタノオロチ」
まあそれぐらいなら誰でもわかるだろう。日本書紀に描かれる伝説上蛇の怪物。八つの谷と八つの峰を覆う八首八尾の巨龍でかつて「スサノオ」によって撃破されたと言われている。どうやら奴の力はまだ全て戻っておらず今はこのサイズに収まっているが、これのまま放っておけばやがて本来の力と大きさを取り戻し、取り返しのつかない事になるだろうとの予測。
まあつまり、ここで倒すなければもっと大変な状況になり被害が計り知れない。しかし、あのスケールの敵だ。勝てるかどうか……と考える俺に恵が杖を強くにぎりながら話しかけてきた。
「ねえ歩。怖いのかい? いや……怖いよな。僕だって当然怖いさ。あんな巨大な化け物の相手なんてしたことないしね。でも聞いてくれ。今僕達には仲間がいる。レジスタンスのメンバー3人だけじゃないんだ。ほら周りをみてごらん?」
そう聞いて俺は集まっているメンバーを見回す。そこには覚悟を決めた表情で俺を見つめるみんなの姿があった。そうだ。皆で力合わせれば必ず勝てる。
「皆、覚悟はいいか? 相手はヤマタノオロチ! 相手にとっては不足なし! 必ずや俺達の手で奴を撃破するぞ! 全員戦闘態勢!」
俺の宣言で皆が戦闘態勢に入る。やるしかない。俺達が今まで積み上げてきた全てを奴にぶつけてなんとしてもここで止めるのだ。
「全員攻撃開始!!!」
その掛け声とも皆が一斉に駆け出してヤマタノオロチを囲むような配置になる。
「強化魔法〝ボトムアップ〟-フィジカル!」
先ずは、皆に恵の強化魔法が全体にかかる。
「続けて重ねがけだ! 加速魔法〝アクセラレート〟!」
相手するのは「ヤマタノオロチ」という化け物だ。恵も最初から出し惜しみなどする気はなく強化魔法を二重にかけて皆を支援する。
その直後に飛び出したのは暗奈と那月ちゃんだ。
「那月、練習してたあれやるわよ」
「あれっすね。了解っす!」
「暗奈の足引っ張らないでね?」
「そっちこそ頼むっすよ!」
そう言葉を交わしお互いニッと不敵な笑みをした後、2人は空中にジャンプしハイタッチをしたあと、ステッキを前に構え重ねて叫ぶ。
『合体技! ポイズン・ホーリー・バースト!!! 』
2つのステッキを交差させビーム状に放たれたそれぞれの魔力が螺旋を描くように交わり奴の首の1つへ一直線に向かっていく。これは本来の「魔法少女てぃんくる9」にもあった設定だが、まさかこの2人が知らぬ間に連携技の練習をしていたなんて……俺は驚きと感動に目を奪われていた。
攻撃は「ヤマタノオロチ」に命中。致命傷にはならなかったが奴は唸り声をあげている。ダメージは与えられたはずだ。
「次はわたくしですわ!」
今度は美麗だ。手の先にいきなりロケットランチャーを出現させ肩に構えるとやつに向けて連続で発射した。こちらも致命傷にはならなかったが奴の目を狙った連射によりもくろみ通り視界が崩れ、唸り声を上げながら暴れている。30メートルの巨体が暴れるその余波だけで屋敷は簡単に壊れていき木々もなぎ倒されていく。こんなの一発でも食らったら致命傷というレベルでは済まなそうだ。
「次は俺だな。こいつを街中で呼び出せば騒ぎになることを恐れ躊躇していたが……とっておきを見せてやろう!皆ももっと離れておけよ~」
そう言って少し距離を取っていたジュランは内ポケットから化石を取りだしD-watchを起動した。
「D-watch!Restoration 〝ブラキオ〟!!! 」
ブラキオサウルス。約1億5080万から約9350万年前中生代ジュラ紀後期から白亜紀後期初頭セノマニアンの約5730万年間を、当時のローラシア大陸とゴンドワナ大陸に棲息していたと言われている。巨大な草食性恐竜。その体長は26メートルから30メートル。確かにこんな巨大な恐竜を呼び出せば、街で騒ぎになるのは間違いない。こいつなら今の大きさの「ヤマタノオロチ」ともしばらくは互角に渡り合えるかもしれない。俺は「ジュラン! でかしたぞ!」という声を心の中で張り上げる。
奴は突如目の前に湧いた「ブラキオサウルス」との対面に、威嚇するような叫び声を上げながらその8つの頭を使って噛み付こうと覆い被さろうとする。ブラキオもそれに呼応するように雄叫びを上げその巨大ごと尻尾を振り抜いて奴へ叩き込み吹き飛ばす。こんな状況だが、目の前で起こっているまさに大怪獣バトルそのものと化している光景に思わず興奮してしまう。これにより俺の中に眠る厨二病魂が目を覚ます。
「……フゥーハハハハ!! 面白い、面白いぞ! 次は俺の番だな! 見せてやろう、 これぞ授けられし俺の新たなる力!! 顕現せよ〝コートオーダー〟青龍!」
俺の渾身の痛いセリフと共に腕に付けている光明さんから貰った腕輪が輝きだし、青龍がその姿を現した。
青龍は出現と同時に敵を見据えると咆哮を上げながら奴に青い超高熱のブレスを放ち首の1本を容赦なく襲う。 続いて風ちゃんが自分の首にかけているペンダントを強く握りしめ、目を閉じた。そうするとペンダントについてる碧色の宝石が光を放ち彼女を包み込んだ直後、体が瞬く間にドラゴンの姿へと変化していった。
彼女は咆哮とともに刃のような風のブレスを奴に向けて放ちこちらを狙っていた首を牽制すると、俺と八重さんを背中に乗せて飛び立った。
その間にも美麗の狙撃による牽制、那月ちゃんと暗奈による魔法攻撃が続いている。
俺はジュランが呼び出したブラキオの背中に飛び乗るとその背を全速力で走り出した。俺も奴の正面からレヴァーテインでぶちかましてやろうじゃないか。体も恵の強化魔法のおかげでかなり動きやすい。俺は走りながら「ドラゴンスケイル」を発動し全身を龍化させ、この身の炎の力もレヴァーテインに集中させて向かって来る奴の首元に斬りかかる。
「燃え盛れ! レヴァーテイン! フレイム・クリムゾン! 」
その厨二病臭いセリフとともに奴の首を2つの炎が交じり燃え上がるレヴァーテインで見事一刀両断にした。攻撃により首を失った奴は怒り狂い咆哮を上げながらブラキオの胴体を強靭な牙で噛みちぎろうとする。さらにその上で動き回っている俺も複数の首が狙ってくる。
余談だが俺の「フレイム・クリムゾン」っていう厨二臭い技名のようなセリフは即席麺の調理時間なんと100分の1。何と1.8秒で考えたもので滲み出るその技名のダサさは俺に免じて許して欲しい。
俺に続くように今度は早乙女さんが刀を居合いに構えながら風ちゃんの背中から飛び降り、奴の首に斬りかかった。
「桜閃一刀流 捌の太刀・八重咲」
早乙女さんの居合い斬りから始まる8連の斬撃は目にも止まらぬ速さで奴の首を切り刻み、幾重にもなる花弁を削ぐようにしてその1本の首を削りきる。しかし、それによって奴の怒りは倍増し、更に攻撃を激化させる。
「今度は私の番っすよ! エレメンタルバースト! ホーリー・ランス!!! 」
今度は那月ちゃんが周りに光の槍を8本展開させ、奴の首元向けて放った。その攻撃は奴の首周りから全てが交差するように突き刺さり、首はその‟ホーリー・ランス”の威力に耐えきれず千切れ飛ぶ。これが那月ちゃんの本来の大技!!! どんだけ強いんだこの女の子は……。
「これで終わりと思ってるっすか! 〝メイクアップ〟ウォーター・オーラ」
今度は泉のステッキの力を吸収したのか、魔法少女イズミの状態に衣装を変化させた。
「エレメンタルバースト! ウォーターランス! 〝メイクアップ〟アイス」
今度は周囲に水の槍を出現させると瞬時に氷の状態に変化させ、一気に奴の首元に向けて発射する。こちらも見事に奴に命中。ついに奴の首を半分切断するに至った。