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交差する2人の運命

 時は少し遡り、美麗が修業をして居た20時頃。同じ様に出発前夜にも拘らずこの少女、夜舞暗奈も又メンバーとの力量差を埋めるべく山奥の森の中で鍛錬に励んでいた。練習方法は奇しくも美麗と同じでいくつもの木の中央に的を貼り付け、それに向けて「ポイズン・アロー」を撃ち込み狙撃の命中精度を上げるというものだ。


今の暗奈には闇の力「ダーク・オーラ」も堕天使の力「ルシフェル」もない。そして那月のように「黒現」の能力者でもなく唯の「黒歴史」。力の差を少しでも埋めるためには自身の能力の戦い方を極めるしかない。それに彼女は泉から歩のことを任された責任の重みを感じていた。いつもはおどけたような雰囲気を出す彼女だが今日この時は違った。真剣な表情と眼差しで的へ向けて何度も「ポイズン・アロー」を放つ。


暫くその練習を続けていると正面から一人の男が歩いてきて驚きの声を上げる。


「あ、暗奈ではないですか。何故こんな所に?」


そう質問する男の名は怪鬼妖。かつてエニグマの支配下にあった彼女は「レジスタンス」のメンバーの足止めの命令を受け、その時に共に戦った協力者だ。だが、今の暗奈はエニグマの手先ではない。それが何を意味するか言わなくても分かるだろう。暗奈はそう質問する妖に対し矢を構えた。正気を取り戻し「レジスタンス」の一員となった今、妖は敵対する勢力「ウルフ」のメンバーである。故に戦うのは必然であり避けては通れない。


「妖、ごめんね。暗奈は全て思い出したの。エニグマの手下だった時とはもう違うの。だから今のあなたは暗奈の敵、侵入者は排除しないといけない」


そう宣言する暗奈の表情は目の前の相手への複雑な心境が少し浮かんでいたが、それ以上に覚悟の決まっている眼をしている。妖もその様子を見て察したのだろう。彼女は倒すべき敵、そう頭の中で繰り返して覚悟を決め戦闘態勢になる。


「暗奈はそちらについたのですね。短い間でしたが協力者として接していましたが貴方と共に戦った時間、存外嫌いではありませんでしたよ」


妖は一瞬悲しげな顔を浮かべ暗奈の目を見た。恐らく心の中では暗奈は良き仲間として認めていたのだろう。だが2人はいまや敵同士となった。ならば己の成すべきことのためには倒すしかないのだ。


「さあ、行きますよ! 暗奈! 憑依・妖狐!」


妖が憑依と宣言すると、狐のような尻尾が9本背に出現し耳からも狐の耳が生え、別の姿に変身した。


そして左右に掌を(かざ)すと狐火が生まれ、それは瞬く間に尻尾が3つのこちらへ敵意を容赦なく向ける狐へと姿を変化させた。そして弾かれるように暗奈へ向かって飛び出してくる。その狐の目つきはまるで獲物を狩る獣のそれでを牙を剥き出しにして唸りながらこちらに迫ってくる。


「グルルルルッッッ」


「ポイズン・アロー」


暗奈は向かってくる狐に対し「ポイズン・アロー」の攻撃を何度も撃ち出すが、素早い動きで避けられてしまう。


「妖あんたにはまだ暗奈の別の能力をみせてなかったわね、ポイズン・インパクト!!!」


狙撃を諦めその詠唱とともに自身からも狐に距離を詰めるように飛び出し、毒のオーラを腕と拳に纏わせて殴って弾き飛ばしていく。昨今ではある意味お約束となりつつある魔法少女(物理)な技だ。攻撃を受けた狐達は毒の侵食を受け飛ばされながら煙のように姿を消す。


「ほう、これが貴方の本来の能力という訳ですか……ではこちらはどうでしょう、憑依・鵺!」


そう宣言すると、顔が猿、胴体は狸、手足は虎、そして下半身から蛇の尻尾が生えた鵺の姿に変化を遂げる。


変身した妖は大きな牙を剥き出しにして暗奈に素早い身のこなしで襲いかかる。暗奈は咄嗟に近くの木の枝上に飛び乗りその攻撃を避ける。


「ポイズン・シャワー」


即座にそう詠唱してステッキを掲げると上空から大量の毒液が妖のいる場所に降り注いだ。毒の雨を受けた彼は身体の表面から煙をあげて呻きながら動きを止めた。


「……っ!さすが暗奈。ではこれならどうでしょう! 憑依・鴆!」


そう宣言すると妖の背中から羽が生え始め体が鳥のように変化した。


妖が憑依した妖怪。鴆とは中国の古文献に記述が現れている猛毒を持った鳥。大きさは鷲ぐらいで緑色の羽毛、そして銅に似た色のクチバシを持ち、毒蛇を常食としているためその体内に猛毒を持っており、耕地の上を飛べば作物は全て枯死してしまうと言い伝えられている。


「唯の鳥じゃない! さっきより弱そうね! キャハ♡♡ ポイズン・アロー!!」


飛行する妖に対し、その妖怪についての知識など無い暗奈は「ポイズン・アロー」で撃ち落とそうと連続で撃ちまくった矢は、妖にたしかに命中していたが効いている気配が全くない。


「な、何であんたまだ動けんのよ!?」


予想外の状況に焦りを見せる暗奈。それもそうだろう。毒攻撃を先程浴びさせた上に今度は矢を直撃させたのだ。本来ならば毒が回って行動が取れない状態になるはずなのだ。しかし妖は動きを止めることなくこちらに向かってきた。


「残念でしたね暗奈、私が憑依した鴆は、毒を持つ妖怪! 故に貴方の毒による攻撃は一切効かなくなったのです! さあ観念しなさい!」


「毒無効っ!個人メタとかやめてほしいんですけど!あんたも本気って訳ね…… なら暗奈も全力で答えないといけない! ポイズン・レインフォースド!!!」


その詠唱と共に若干色が異なった「ポイズン・アロー」を放つときに生み出される注射器が6本暗奈の周りに出現したかと思うと、彼女の体に一斉に注射された。


「なんの真似です! 暗奈!?」


自分の体に毒を打ち込むという彼女のその行動に、妖は動揺を隠せずに思わず声を上げる。それもそうだろう。普通に考えればその行動は自殺行為にも等しい。しかし彼女は毒を司る魔法少女、調整した毒を体に打つことで大幅な身体強化も可能にしているのだ。


「へへ……暗奈を誰だと思ってるの! 魔法少女てぃんくる9の秋桜 蝶花がルーツの毒を司る魔法少女よ! あんたはこの番組見てないと思うけどね……暗奈のルーツのキャラは作中でもかなりの強キャラ。なんたって最初は主人公の敵として出てくるんだからね。あまり舐めないでくれる?」


そう言い終えると空中から見下ろす妖の前に飛び出した。


「ポイズン・インパクト!!!」


毒による攻撃は効果はないが打撃によるダメージは問題なく与えられる。と判断した暗奈は強化された身体能力を生かし妖に直接攻撃を図る。


「クッ……」


攻撃を受けてしまった妖はダメージを受けて憑依状態の維持が出来なくなり、元の姿で地上に着地した。


「まさか……あの暗奈がエニグマの力に頼れずともここまで戦いに長けていたとは!私も楽しくなってきましたよ! ですがこれで終幕としましょう! 憑依・雪女!」


そう宣言すると妖の服装が白い着物、髪色も真っ白に変化した。その格好は日本の昔話で語られる雪女だ。


妖は変身を終えると口から氷の吐息を辺り一帯へと放ち凍らせてゆく。暗奈は身体能力を上げているため簡単に躱すことはできたが、地面は凍ってしまい木の上に逃げることを余儀なくされた。


「ポイズン・シャワー」


暗奈は再度毒の雨を降らし妖の動きを鈍らせようとしたが、その攻撃は氷の吐息で凍らされて防がれてしまった。


「暗奈、貴方はここまでよく戦いましたよ! 共に戦った者としてもとても喜ばしい。 しかし惜しむらくは経験の差と貴方の能力が私とは相性が良くなかった、といった所でしょうか。これで幕引きです! 最大出力!」


妖は先程よりも広範囲へ強力な氷の吐息を放った。咄嗟に攻撃を避け地上に着地して逃げようとするが足場が凍っており、案の定思うように動けずに滑って転倒してしまった。その隙を妖は見逃してはくれず、四肢を凍らされ身動きが出来なくなってしまった。


「暗奈これで分かったでしょう! 私との力量の差を。まあ、今回の目的はあなた達を殺したり、足止めをすることではありません。 故に貴方を殺す理由もない。しかし、邪魔されたら面倒なのでね。暫く大人しくしておいてもらいます。時機に氷が溶け動けるようになりますよ」


やはり妖も心のどこかで暗奈に思い入れがあるのか命までは取りたくなかったようだ。妖はそう言い残して暗奈へ背を向けて歩達のいる屋敷の方向に足を進めた。

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