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蛇石

--長野県山田神社社内--


時刻は正午過ぎ。切矢は両腕を壁に押付け逃げ道を塞ぐように神主と思われる坊主のお坊さんを鋭く睨み付け脅していた。


「ここに祀られている蛇石……一体どこにやりやがった!……命が惜しいなら答えやがれ!!」


お坊さんは余りの恐怖に体を痙攣させるようにピクピクと震わせ、脅しに負けた彼は少しずつ口を開きはじめた。


「それが……数日前に何者かによって盗まれてしまいまして……今も捜索中なんです……」


「……チッ使えねぇな。お前は地獄行きだ……」


そう言って右手に刀を出現させ悲鳴を上げる事すら許さず瞬く間にその男を切り刻んでその命を奪う。骸がバラバラに刻まれ肉塊となって転がって血が広範囲にまき散らされたその光景は常人ならまともに見ていることなど、とても正気ではいられないような惨状となっていた。


そうこの男、切矢遼は自分が気に食わなければ容赦なく人を殺すという残虐な行動を何度も繰り返してきた。それこそが能力者界隈で恐怖の象徴として危険視されている理由なのだ。


「おめぇら……県内の他の神社に移動されちまった可能性が高い……面倒くせぇがしらみ潰しだ!」


「御意」


「了解」


この場に切矢と同行している人物は2人。そのうち1人は怪鬼妖だ。先日レジスタンス一行と戦闘を繰り広げ追い詰めるも、ギリギリで現場に駆けつけてきた光明に手酷く返り討ちにされてしまったが、今は傷も回復し作戦を共にしている。もう1人の女性は神咲かんざき れい、ウルフ所属の部下のひとりで身長は170後半、服装は黒いジャケットにジーンズ。ジャケットの下には黒いTシャツを着ていて、髪の毛は後ろで纏めている。煙草をよく吸うらしい。


彼らが狙うのは蛇石、日本書紀の記述によるとスサノオが倒し封印されたとされるヤマタノオロチの魂がその石には宿っているとされるものだ。エニグマから授かった輝石を蛇石に翳してそれを復活させるのが切矢達に課せられた役割だ。その後は長野県内にある神社をしらみ潰しに捜索し続け、時刻は夜19時を過ぎる頃、ウルフ一行はある場所に到着していた。


その辿り着いた場所とは歩達が身を匿ってもらっている戸隠山、忍者の里麓にある戸隠神社だ。切矢は本殿の祭壇の襖を強引にこじ開けて中へと侵入し蛇石を探す。


「妖、何か感じるか?」


妖は妖怪の力を憑依させる能力者であるため、妖力を感じる事ができる能力を持っている。もしかしたら蛇石から漂う妖力で位置を特定できないかと考えていた切矢は妖にそう尋ねた。


「たしかに微量ですが感じます。おそらくこの妖力の大元は戸隠山の方向が怪しいのではないかと……」


その答えを聞いた切矢は躊躇なく戸隠山に足を踏み入れた。しかし、切矢達にとってもやはり道は険しいものだったようで登り続けるだけでも切矢は額に汗を浮かべ、妖と怜は息を切らせていた。暫く歩き続けていると何かに気が付いたのか妖が途中で足を止めた。


「ここから先は幻術がかかっています。恐らくここで当たりかと……」


そういうと妖はある妖怪を自分に憑依させた。名称はしん。蜃気楼を作り出すという伝説の生物。古代の中国と日本で伝承されている。人に幻影を見せることを得意とする妖怪だが反対に見破ることも可能だ。妖は、その能力を発動させ切矢達を案内する。


「どうやらここから先には幻術はないようです……恐らくこの森の何処かに蛇石が隠されているのだと思われます」


「そうか……ならここからは各自別れてさっさと蛇石を探し出す。何か想定外のトラブルがあったらこれで連絡しろ」


そういうと切矢は懐から2台のトランシーバーを手渡した。場所が山奥とのこともあり、当然ながら携帯電話の電波は届いておらず圏外なのだ。用意周到さはさすが組織のトップといったところか。


「じゃあ作戦開始だ。一刻も早く蛇石を見つけ出すぞ!」


その言葉を合図に3人散り散りに山奥の捜索へと移行した。


--忍者の里近辺森中--


時刻は午後20時、レジスタンスメンバーである姫野原美麗は先日の戦闘で皆の力になれなかった事に悔しさと申し訳なさを感じ、厳しい鍛錬に励んでいた。基礎体力を上げるためのメニューの他に、美麗は森に生える木々に的を貼り付け、それを素早く移動しながら狙撃して更に命中の精度を高めるというものだ。既に彼女の狙撃の精度は並の自衛官よりもはるかに高く十分に誇っていい技能だ。しかし、彼女にとっては違った。これからの旅、当然ながら先の能力者に匹敵する者に遭遇する可能性は非常に高い。しかも、相手の保有する能力は様々で銃撃では通用しない相手も出てくるだろう。それに加えて彼女は「黒現」ではなく「黒歴史」。歩や那月ちゃんの用に新たな能力を開花させることは出来ない。それが故に彼女は皆との力量の差に悩みはじめていた。


「まだ、まだ足りないですわ。皆と一緒に戦うにはまだ……」


そう独り言を呟きながら的に向けて何度も何度もスナイパーライフルで狙撃を繰り返す。静けさを放つ森の中に銃声音だけが響き渡る。


「バーン!!!」


彼女が狙撃を続けていると聞こえるはずな無い銃声音がこちらへ聞こえてきた。咄嗟に狙いが自分ということに判断し咄嗟に身を屈め転がるようにして木陰に身を潜めた。


「チッ……外しちまったか」


その声とともに拳銃を片手に持ちもう片側の手で煙草を吸う1人の女性が姿を現した。彼女は美麗よりも10センチほど背が高く黒いジャケット姿。そうウルフのメンバーの一人、神咲 怜だ。彼女は煙草が吸い終わったのか吸殻を地面に捨てて踏み潰した。


「おいそこに隠れてるあんたちょいと聞きたいことがあってなあ、蛇石って言う代物に聞き覚えはないか?」


美麗は心の中で「そんなもん知りませんわよ!」と思いながらも何処に身を潜めているのか特定されないよう口を噤み続ける。


「なあおい!人の質問にはちゃんと答えるのが筋って言うもんだろ?」


沈黙を続ける美麗に対してそう言いながら彼女は手に持っている拳銃を消したかと思うとその手に新たにロケットランチャーが出現し、それを肩に乗せ構えた。美麗は危険を察知し、木陰から全速力で地面を蹴り走り出した。姿勢は屈んだ低さのまま姿を捕捉されないよう細心の注意も払う。ロケットランチャーの威力をもってすれば、森の木々など簡単に破壊されてしまうだろうし、爆発により吹き飛んだ木々がこちらへ運悪く当たれば致命傷になる可能性がある。


美麗が走り出した音を頼りに彼女の移動している場所を把握した怜は手に持っているロケットランチャーを能力によって消滅させて両手に二丁の拳銃を出現させ全力で彼女を追いかけ始めた。そう彼女、神咲 怜の能力は美麗と酷似しているものだったのだ。


走り出した美麗は状況を打開する策を考えようとするが逃げる事に精一杯となっていて思考がまとめられずにいた。その間にも徐々に距離を詰められていき、美麗は逃げる方法への思考を諦め二丁拳銃を両手に出現させ近くの木陰に隠れて迎え撃つことにした。木陰の間を素早く移動しながら射撃を何度も繰り返す。しかし、彼女の方も相当の手練れらしく射撃への反応速度はピカイチだった。こちらの攻撃も簡単には当てさせてはくれないようだ。その後は暫く射撃の応酬により膠着状態が続いた後、怜の持つトランシーバーに切矢から連絡が入った。


「目的は果たした。撤収だ」


その音声を聞いた彼女は「了解」と返すとポケットから何かを取り出し美麗との間の転がし背を向け手を振ると忍者の里の方向に向けて走り出した。


「悪ぃな嬢ちゃんこの続きはまた今度絶対な!」


そう言い残す彼女を追撃しようとした瞬間、強烈な閃光が目の前で放たれ美麗は視界を潰されてしまい追いかける事は叶わなかった。それと同時に山全体に強い地響きが起こった。緊急事態と判断した彼女は視界が回復するのを待って射撃の練習に使用していた銃が収納されたトランクを先程までいたポイントから回収し、歩達のいる屋敷の方向に全速力で走り出した。

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