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紅のレヴァーテイン

「我が求めに応じ顕現せよ! レヴァーテイン!」


 災華がそう叫ぶと頭上に亀裂が走り異空間が開いた。


 その空間から剣の柄だけが出ており、彼女はその柄を右手で握り、力を込めて引き抜いた。


「ほう……神器レヴァーテイン……君の信じた物語の最高位武器のようだね」


 剣を握ると同時に彼女の背から真紅に輝きを放つ不死鳥のような双翼が姿を現した。


 そう彼女の黒歴史のルーツは大人気深夜アニメ〝紅のレヴァーテイン〟。世界の支配を企む悪魔たちを倒すため、レヴァーテインの封印を解き放ち戦う。これも王道のファンタジーアニメの一つと言えよう。能力は紅の翼による飛行とレヴァーテインから繰り出される攻撃。作中の敵キャラ達はこの剣によって何度も葬られてきた。


「貴様は一体何をしようとしてやがる! 話を聞いた感じじゃお前のしようとしてる事は世界に対しての冒涜じゃねえか!」


「冒涜……フッ……君は何も理解出来ていないようだね。エデンを創りあげる事は君達の為でもあると言うのに……全く愚かだよ」


エニグマは呆れたように肩をすくめ笑みを浮かべて彼女達を嘲笑うかのように言い切る。


「何であろうと貴方がなそうとしている行為は見過ごすわけにはいきません。平将門の怨念が具現化されてしまえば秋葉原の街どころか都内全域が飲み込まれることになってしまう。それぐらい凶悪な呪いなのだと先祖代々語り継がれていますので」


「それにしても君達、僕のやろうとしてることが分かるなんて……勘が鋭いね?そう、エデンの創造の最初の実験台が平将門の怨念の解放だ。そして僕はそれを可能とする力を授かった選ばれし者なのさ……っと!」


 エニグマが話を終えるより早く災華は地を蹴り紅の双翼を羽ばたかせ空中へ舞い上がると急降下でエニグマへ焔を纏った紅の剣を振りかぶり切り伏せようとする。しかし、彼女の攻撃は意図も簡単に避けられてしまった。


「まだ話は終わってないというのに……君は正義感が強過ぎるようだね……いいだろう、少し遊ぼうか」


 そう言うとエニグマは横に手をかざすと空間に裂け目が生まれ異空間が開いた。そこから三つ首の巨大な犬が唸り声をあげて勢いよく飛び出してきた。


「冥界の番犬、ケルベロス。君達も耳にしたぐらいはあるだろう?」


 

ケルベロスと呼ばれるその異形の怪物は呼び出されるやいなや、災華のいる空中へ向かって猛然と走り出した。どういうわけか奴にも彼女と同じく空中を飛べる力が備わっているようだ。


「ガルゥゥゥゥゥゥ!!!」


 大気を震わすような雄叫びをあげ、ヨダレを垂らしながら襲いかかってくる。しかし、彼女の戦闘経験は伊達じゃない、最小限の動きで攻撃を躱しレヴァーテインの一振りでケルベロスの三本の首を一刀両断にする。


「フッ……この程度か! こんなんじゃあたしには傷1つ付けられないぜ」


そう思ったのも束の間、たしかに切断したはずのケルベロス首が生えだしたのだ。


「な、なんだって! そんなのありかよ」


「あなただけでは少々厳しいようですね……加勢すると致しましょう」


光明はそう言うと袖から式札を取り出し、唱え始めた。


「陰陽師、安倍晴明の血族。安倍光明がかしこみかしこみ申す! 悪しき者を払い給え、清め給え、急急如律令! 青龍! 朱雀!」


彼は聖獣の式神を2体呼び出し直ぐさま青龍に跨り、朱雀と共に空中へと飛び立つ。青龍と朱雀は咆哮を上げながらケルベロスにむけてブレスを放った。しかし、いくら浴びせ続けても焼尽くしたそばから首を再生し攻撃に移られてしまう。


「そろそろお遊びも終幕の時間だよ」


 そう言うと先程とは反対の手を翳すと、エニグマの真横に裂け目が大きく走ったかと思うと、面が3つ、6本の腕にそれぞれ刀を構えて禍々しいオーラを放つ化け物が現れた。仏教の阿修羅像で見たことがある姿だ。


 阿修羅は辺りを睥睨へいげいすると最初に朱雀に狙いを定めて斬りかかった。朱雀は火のブレスで応戦するも阿修羅の攻撃は素早くて手数も多いため、容易く切り刻まれて元の式札のに戻り地面に落ちていった。それを見届けることは無く即座に光明の跨る青龍に襲い掛かる。青龍は樹木を大量に出現させそ体に絡みつかせてその動きを止めようとしたが、6本の腕から繰り出される刀の連撃によって切り刻まれ拘束するには至らなかった。


 更に全て切り伏せられると同時青いブレスを放つが阿修羅に致命傷を負わすことは出来ず、ここは危ないと直感した光明は青龍から飛び下りて地上に着地した。


 光明の判断は正しく、青龍がいるはずだった空中を見上げると既に切り刻まれ撃破された後の式札が地面に落下してきていて阿修羅は次に狙ったのは……。


 その頃、災華とケルベロスの戦闘も決着を迎えようとしていた。


「これでトドメだ!!!」


災華はレヴァーテインに力を注ぎ真紅の炎を轟々と燃え盛らせる。彼女はその状態の剣でケルベロスの首を再び全て切断した。するとこれまでのように首が再生されることはなく、力を失ったケルベロスは地面に落下していった。しかし。


「……え?」


 気を抜いたその一瞬、ドスッと背後からの衝撃と胸から生えてた血に塗れた刀を認識し首を後ろへ向けると、そこには阿修羅がいて背後から彼女の心臓付近を刺し貫いていたのだった。


「カハッ……」


 口から血を溢した彼女は阿修羅が振り抜いた剣から投げ捨てられるように地上へ落下した。


「よし、これで邪魔者は排除できたね」


 そういうとエニグマは右手の先から黒いエネルギーの塊のようなものを出現させ要石に向けてビームの様に一直線に解き放ち、要石を破壊してしまった。


「目的は果たしたよ。撤収だアリス」


「はいエニグマ様」


「暗奈……それに勇人、そちら側に付くなんてやはり愚かだね……まあいいさ君たちも何れ僕が正しかったと気づく……必ずね」


 そう言ってケルベロスと阿修羅へ向けて手を翳して生まれた裂け目の中へと回収し、エニグマの横にここに現れた時と同様の空間の亀裂が発生してそこに浮かぶ門を開いて、2人はその中に消えていった。


 俺たちは追うことは諦め、空から落ちて傷を負っている災華さんの傍に駆け寄り必死に声をかける。


「災華さん! しっかりしてください」


「災華、君はこんな所で死んでいいような人じゃない!」


俺と恵は必死になって災華さんに声をかけた。


「那月、あなたのホーリー・ヒールで災華さんを回復させて……っ!」


 光明は那月に魔法による回復を指示を言いかけるが、あることに気が付き言葉を途切れさせてしまった。そう、先の戦いで那月の魔力は既に底をついてしまっていたのだ。


「隊長……災華さんっ……すみません……! もう魔力が……」


「いいさ。どうせあたしは直に死ぬ。自分で分かんだよ……もう長くないってな」


 そう言って那月に責任を感じさせないように気遣う彼女を見ながら恵は涙を流して可能性を口にする。


「災華、災華、そうだ……僕の能力で……泉と同じく結界で今すぐ封印すれば……」


「やめろ……それは泉ちゃんの為の結界だろ……あたしは知ってるぞ……お前が結界を1つしか作れないことぐらい」


「僕にっ! ……僕に力がないから……」


 恵は爪が喰い込み血が出てしまうほど強く拳を握りしめ、涙を流し続けながら地面に何度も何度も打ち付けた。


「龍ケ崎 歩くんだっけか……すまねえなあ……この作戦が終わったら協力するとか大見得を切っておきながら……このザマだぜ」


「あんたはよく戦った……謝る必要なんてない!」


 初対面の俺にはそれくらいの言葉しか浮かばなかった。また目の前で人が死んでいく……。何も出来ない事に悔しさが込み上げる。


「歩君……君は炎の力が使えるんだっけか……ちょっと手ェ出しなぁ」


 そう言われ横たわりいよいよ言葉を口にするのすら辛そうになっている彼女の前に手を差し出した。そうすると彼女は自分の手を握り、かすれ気味にボソボソと何かを念じて唱え始めそれに合わせ熱を持った何かが握ったてから俺の中に流れ込んでくる。10秒ほど経つと俺の手を離して言った。


「もう死ぬあたしには……こんな事でしか力になってやれねぇからな……我が求めに応じ顕現せよ! レヴァーテイン! ってちゃんとイメージして言ってみてくれ」


彼女の言われるがままその言葉を宣言すると俺の頭上に亀裂が走り、出現したレヴァーテインの柄を引き抜くと俺の背から真紅の輝きを放つ双翼が姿を現した。


「そいつはレヴァーテイン。あたしの力さ……せめてもの置き土産だ……自由に使ってくれよ……そして恵、みんな今まで……ありがとうな……」


そう言い残し彼女はゆっくりと瞼を閉じた。恵の涙はそれから暫く収まることは無かった。

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