エデン
俺達は基地を出て神田明神へ直行し、現在は館内の要石が祀られている祠の前にいた。新メンバーであるジュランを恵と美麗に紹介しながら、まさか親父がこの事態に関わっていたなんてなぁ……と改めて知らなかった事実の連続について考えていると、一人の女性が俺達の傍に近づいてきた。
「恵、元気か~? 大阪作戦以来か相変わらず小さいな~」
そう言いながら腕を恵の肩に回してからかっている。早乙女さんの時と同じくめんどくさそうな表情をしているが嫌がってはいなさそうだ。彼女は紅色の美しい長髪で銀色の光沢を放つ厳つい鎧を身に纏っていて、体も相当鍛えているのがわかる。恵にじゃれついている今は雰囲気が柔らかいがそれでも強者の風格というのは滲み出ていた。身長は170後半くらいだろうか。
「よう!お前らがレジスタンスの新入りか?あたしは御騎 災華だ。よろしくな!」
そう言われて俺とジュランは挨拶を返すと恵と同じく腕を肩に回され「よろしくな!」と挨拶された。とても気さくで好印象だ。……鎧を着ている状態でこれやられると割と痛いな!?
「恵、そういえば今日は泉ちゃんはいないのか?」
そう聞かれて恵はこれまで俺達の身に起こったことを彼女に説明した。その話は聞いて彼女は悲しみよりも怒りが勝ったようで強く拳を握りながらこう言った。
「切矢の野郎め、よくも泉ちゃんを……一発ぶん殴らないと気が済まないねぇ……! よし分かったあたしはこの作戦が終わったらお前らに手を貸すぜ!」
どうやら災華さんは俺達の本来の目的であるウルフのアジトへの襲撃に協力してくれるようだ。彼女はかなりの手練れだろうと想像できるし頼もしいかぎりだ。
今度はチーム‟萌え萌え桜”の皆さんが挨拶に来てくれた。早乙女さんに関しては既に挨拶を済ませていたので俺は魔将院さんに挨拶をすることにした。
「俺は龍ヶ崎 歩だ! よろしく頼む!」
「ああこちらこそ、魔将院 刃だ! よろしく頼む」
魔将院さんの服装はまるで魔王が着ていそうな黒いロングコートに骸骨の形をした装飾品が至る所に付いている。……この人は俺が言うのも何だがガチの厨二病だろう。ちなみに髪型は黒髪ショートだ。身長は俺より少し低いくらいだ。
時刻は深夜1時。要石を囲む形で周囲を警戒していると突如俺達の頭上に空間の亀裂が走り門が現れた。そこから黒いフードを纏ったエニグマがグレーのフードを被った三人の仲間を引き連れて現れた。その三人のうち一人は服装に見覚えがある。
「各員、戦闘態勢に移行してください!」
八重からの号令で全員が臨戦態勢に。
「これは……手厚い歓迎だね……」
「エニグマ……あなたの行おうとしていることは正に禁忌。放っておく訳にはいきません」
「君たちは僕たちエデンの邪魔をするという事か……愚かな能力者達だね」
俺はここで始めてエニグマの組織名がエデンだと知った。
「エニグマは私と災華で相手します。皆さんは他の方々の制圧をお願いします」
光明さんからの指示を受け俺たちはエニグマ以外の3人と向かい合う。
「あんた達この前はよくも暗奈の事をコケにしてくれたわねぇ?」
やはり仲間の1人は暗奈だった。先日の件で那月と光明さんにやられた事に酷く憤りを感じているようだ。
「何度やっても同じ事っすよ」
那月ちゃんはそう言うとステッキを振りかざし変身セリフを唱える。
「輝き照らすは悪しき心!遍く闇を打ち払う希望の光! 魔法少女ナツキ!」
「〝メイクアップ〟ダーク・オーラ」
既に変身して来ていた暗奈が〝ダーク・オーラ〟による強化状態に体の衣装を変化させた。
ナツキちゃんは変身完了と同時に空中高くに飛び上がると攻撃を仕掛け、すかさず暗奈もそれに応じる。
「ホーリー・インパクト!!」
「ダーク・インパクト!!」
那月ちゃんの光を力を纏うステッキと暗奈の闇の力を纏うステッキから放たれたエネルギーがぶつかり合い火花を散らす。
「……!! 前よりもパワーアップしてるっすか!!」
どうやら暗奈の攻撃がついこの間よりも格段にパワーアップしてるらしい。そもそも一昨日の戦いでは那月ちゃん″ホーリー・バリア″による反射で浄化されかけ変身が解除されるほど力に差があったはずなのだ。……恐らく再度エニグマによって手を加えられてしまっただろう。
「強化魔法〝ボトムアップ〟-フィジカル!」
恵による強化魔法が俺たちにかかる。しかし、強化を受けた那月ちゃんでも暗奈を抑える事で精一杯だ。
「まだ暗奈の攻撃に耐えてくるなんてやるわね……キャハ♡♡。でももう終わりよ! 〝メイクアップ〟堕天使・ルシフェル」
そう宣言すると暗奈の背から左には神々しさを、右には禍々しさを纏う12枚6対の翼が顕現して尋常じゃないオーラを放っている。……もはや魔法少女の原型をとどめていないじゃん! というツッコミを口に出す暇は無い。彼女は変身が終わるとステッキの先に禍々しいオーラを集めて那月ちゃんに向けて解き放った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
ステッキから放たれた闇の力は那月ちゃんを飲み込み、かなりダメージを負わせ更に変身状態すらも解除するほどの凄まじいパワーだった。俺は、変身が解けて空から落ちてくる彼女は受け止めると用意していた救急キットを使い彼女の傷の手当てをした。
「大丈夫か!? 那月ちゃん……」
「心配してくれて感謝っす、致命傷は避けれはしましたが今のでステッキに力が残ってないっす」
状況は最悪だ……美麗も先程からスナイパーライフルによる射撃を続けているが暗奈にはオーラに阻まれて一向に当たる感じがしない……かと言って俺のドレイクを呼び出したとしても今の暗奈には太刀打ちできるかどうか……。そう考えを巡らせていると、ある可能性が頭をよぎった。
「恵、一か八かだ! 結界内の泉のステッキだけを呼び出すことはできるか?」
「……そう言う事か! 了解だよ」
恵はそう言うと杖を大きく震わせた。泉の時と同じく空気が渦を巻くようにして発生しステッキが目の前に現れた。
「那月ちゃん!それは僕たちの仲間である泉のステッキなんだ! 一か八か変身を試みて欲しい」
そう言いながら彼女にステッキを渡す。別の魔法少女に変身するなんて〝てぃんくる9〟本編でも聞いたことはない。だが試す価値は充分にある。
「分かったっす! 私もこんなことは始めてでもしかしたら泉ちゃんの水の力と私の光の力が反発しあうかも……でもそれで暗奈ちゃんを救える可能性が生まれるんだったら……その可能性にかけてみたいっす!」
そう言い終わると彼女はステッキを祈るように掲げて詠唱を始めた。