到着!!秋葉原・神田基地!!
現在の時刻は朝7時、俺たちは秋葉原から程近い、いやほぼ秋葉と言っても過言ではない神田明神の社内の駐車場に車を停めていた。
「恵、着いたぞ!起きろ!」
俺は車内で爆睡する恵を起こそうと肩に手を当て体を揺さぶった。20秒ぐらい続けていると、目を擦って眠そうにゆっくりと瞬きを繰り返し、欠伸をしながら背伸びをした。
「あ〜歩。おは……よう……着いたのかい?」
彼女はまだ寝ぼけているようで話し方がどこかぎこちない。所謂朝ボケって奴だな。俺も似たような経験はある。授業中、夢から覚めた事に気が付かず盛大に……いやこれ以上はやめておこう。
車内の自分の荷物をまとめ移動する準備を済ませると、いまだぼんやりとして寝ぼけたままの恵を車に残して一足先に外の空気を吸いに出た。
美麗も既に車を降りて体のストレッチをしている。朝のラジオ体操をしている人のように彼女も日課にしている事なのだろうか。
朝の冷たい空気を目一杯吸い込み伸びをした後、俺は近くにある自動販売機でホットコーヒーを購入して近くの階段に移動して腰を下ろし、恵が慎一郎さんと車から出てくるのを待つことにした。
ふと規則的な音が気になり座ったままで後ろへ体を向けると、巫女服を着て凛とした雰囲気を纏った透き通りそうな程綺麗な黒髪ロングの身長160センチぐらいの女の子が箒を使って境内の掃除をしていた。
俺はそんな彼女をぼっーと眺めていた。もちろん特に嫌らしい理由などはではないぞ、例えるのは難しいが……簡単に言うのならば物珍しさ、そしてアニメ等でしか見ないであろうワンシーンを前にして思わず……といった所か。
そんなふうに頭の中で自分語りをしていると突然彼女が俺のいる方向に振り向き、視線がぶつかってしまい彼女は目を細めてこちらへ近付いてきた。
逃げようとしてももう遅かった。彼女がしゃがみ込んで睨みつけるような視線で、俺の目をじっと見つめていた。おそらく彼女の事を眺めていたのを嫌らしい目で見ていたと勘違いされていると察しがついてしまう。
「さっきから何ですか……私の事をじっーと後ろから見つめて、嫌らしい目で見てたんでしょう?」
予想通りの容疑が俺にかけられていた。しかし、誤解を解こうにもこの状況で君を見ていたわけじゃない、と言ったところで彼女が信じてくれる筈もない。やむ負えないと俺は表情を一瞬諦めるようなものからキリッとした決め顔に切り替え咄嗟に彼女へこう言った。
「フッ……貴様なんぞに興味はない!俺には泉菜 栞という大切な女がいるからな!!!」
さすがに別に好きな女がいるという事を理解すれば、勘違いから憤りを感じている彼女も俺がボッーと見つめていただけと理解するはずという確信の元、厨二病魂を全開にしながら立ち上がり言い放った。
それを聞いた彼女は……再び目を細めながら今度は蔑むような目で俺を見つめて、ズザザッと2メートルほど距離を取った。完全に引かれているようだ。
「うわっ……完全にやばい人ですねあなた。泉菜 栞ってあのレジスタンスの栞ちゃんですか? それにそのコスプレ……ではなさそうな自衛隊の制服……もしかして恵ちゃんの仲間?」
彼女は俺に対して困惑の表情を浮かべながら、俺が話題に出した泉の名前からレジスタンスのメンバーと判断したようだ。ヤバい奴と思われたのは変わらないみたいだが、不審者扱いされるのは回避出来たらしい。俺にしては上出来だろう。
「ああ、いかにも……恵はまだ寝ぼけていて車の中だがな」
「全く恵ったら……あの子朝は弱いからなぁ……じゃあ一緒に起こしに行きましょうか」
彼女は恵の友達なのだろうか。まあ今はそんなことはどうでもいい。俺は彼女と共に駐車場に恵を呼びに行くことにした。
裏口にある駐車場に戻ると、丁度支度を済ませていたらしい恵と慎一郎さんが車から降りた所だった。トランクいっぱいの荷物が3つ並んでいる。長旅になる事を見越して沢山荷物を詰め込んで来たのだろう。
彼女は恵を見るや全速力で向かっていき、勢いよく抱きついた。
「恵〜遠くから遥々よく来たね~!半年ぶりかなぁ……」
久しぶりに会えたのが嬉しい様だ。ストレッチを続けていた美麗もそれに気づき、こちらに来て丁寧に挨拶を交わした。一方の恵は彼女に抱きつかれるのが苦手なのか必死に振りほどこうとしていたが、その表情からは会えた事への嬉しさは隠せていない。俺はその微笑ましい光景に頬を緩ませ和んでいた。
挨拶という名のスキンシップが終わると恵は表情を真剣にして俺達の身に起こったことを詳細に説明し始めた。まとめると、泉がウルフの切矢に殺された事。これ以上被害者を出さないためにも新宿のアジトを抑えたい事。そのための戦力がこのままでは足りないため秋葉原にこの作戦に協力してくれる仲間を募りに来た事。
最後まで話を聞き終えると彼女は、泉が亡くなった事に涙を流し俺の目を見て、事情を知らずに取った先程の態度について頭を下げてきた。俺だって逆の立場なら当然そうしただろう。俺は気にする事はないと何度も言い聞かせたがショックが大きかったようで何度も何度も頭を下げてきた。と、同時に爪が皮膚に食い込みそうな程に拳を固く握り締めて「切矢……許さない」と何回も呟いていた。俺には彼女の怒りが容易に想像がつく。
「申し遅れました。私は早乙女さおとめ 八重やえといいます。黒歴史犯罪総合対策組織の秋葉原エリア統括役兼チーム〝萌え萌え桜〟のリーダーです。」
丁寧に挨拶をしてくれて悪いが、チーム名の〝萌え萌え桜〟というネーミングセンスに思わず笑ってしまいそうになり、先の暗くなってしまった雰囲気は霧散していた。彼女は頭を下げたままだったので笑いを堪えてプルプルしていた姿は見られずに済んだのは幸いだった。見られていたらきっと俺は今頃打首獄門だろう。
その後、俺達は境内の裏口から社内を案内され祠のような場所で彼女は足を止めた。疑問を浮かべていると、祠の後ろに手を伸ばし何かボタンのような物を押した。
すると突如祠が振動音を起てながら、少しずつ右にずれていき、下に隠されていた階段が出現した。それはいかにも秘密組織のアジトのそれだった。
俺達は彼女に案内され、地下に存在するその建物に足を踏み入れた。階段を降りると、長い廊下のような道が続いておりたくさんの部屋が並んでいた。神社の地下とは思えない作りで最近の会社のオフィスなどを想像してくれればわかりやすいかもしれない。
俺達はその中でも1番奥の扉の中の会議室案内され、そこで今後の話を手短に済ませた。今は別件が進行中のようで、19時に会議をしたいから再度その時間にこの部屋に集まるようにと伝えられた。
寝泊まりする部屋は空き室があったようで暫く貸してくれるとの事だ。時間までは自由に秋葉原を回ってもいいし休息に使ってもいいとの事。
一旦解散したその後、早乙女さんが用意してくれた部屋に荷物を置き、館内にある大浴場で汗を流して、慎一郎さんが用意してくれた青いジャージに着替えた。男用の服が姫野原邸に慎一郎さんのものしか無いため、昔着ていたジャージを持ってきてくれたようだ。正直外を、しかも秋葉原で歩き回るには中々勇気がいる格好だが、自衛隊の制服では要らぬ誤解を生むということで不本意ながらも了承した。
俺は食堂で朝食を頂き、部屋で少し休憩をしたあと今日が〝血染めの龍と秘められし竜爪〟の最新14巻の発売日ということを思い出し、町中へ赴くことにした。