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四神乱舞! 光を司りし魔法少女!

「妖力を感じて来てみれば、これは緊急事態ですね。」


 (うつむ)き頭を垂れるように諦めかけている俺の頭上で、何者かの声がした。


 ゆっくりと顔を上げて、声の聞こえる方向に目を向けると、そこには赤のラインが入った白い狩衣に黒い立鳥帽子をした男が浮かんでいた。いわゆる物語で語られている陰陽師の安倍晴明の様な服装をしていて神聖な雰囲気をその身に纏っていて一目で只者ではないと直感する。


「た、隊長〜置いてかないでくださいよ〜」


 その声とともに汗をかき、ぜーぜーと呼吸をしながら1人の女の子が空中を浮遊しながらこちらに向かってきた。彼女は、その男の横に着くと深呼吸をした後、正面に列を成し並び立つ妖怪達を目の当たりにし、手を口元に当てる仕草をしながら驚きの表情を隠しきれずにいた。


 彼女の服装は白がメインで黄色のラインが入ったワンピース、胸には白色のリボン、頭には白色のカチューシャに黄色のリボンが左に1つセットされている。右手には9の形をした真ん中に黄色の結晶が埋め込まれたステッキをもっている。身長は150センチ前後といったところか。髪型はショートで泉にそっくりと言ってもいい。


 その姿は、〝てぃんくる9〟に登場するキャラクターの1人、西園寺(さいおんじ) (めい)にそっくりだ。恐らく彼女の〝黒歴史〟のルーツも〝魔法少女てぃんくる9〝で間違いないだろう。


「あわわわわわ、これはなんて言うかその! とんでもない状況っすね……」


 彼女は涙目になりながら、どうしましょう?と判断を求める表情でその男の顔を見つめた。


那月(なつき)、貴方はとりあえずそこに倒れている者達と車の中で倒れている一般市民の手当に集中しなさい。奴らは私が1人で何とかします。」

「了解しました! 隊長ー!」


 那月と呼ばれる彼女は敬礼をすると、ふわっと空中から地上に着地し、俺達の方に急いで駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか〜? あちゃー……これは随分生命力奪われちゃってるっすね。待っててください今すぐ手当しちゃいますんで!」


 そういうと彼女は、ステッキを振りかざし呪文を唱え始めた。



「〝ホーリー・ヒール〟!!!」


 詠唱した瞬間、俺の身体を光が包み少しずつ倦怠感が回復していくのを感じた。それに加え、先程暗奈を庇い傷ついた銃弾の傷口も少しずつ塞がっていった。さすが〝てぃんくる9〟の光を司る魔法少女の力だ。俺の回復の確認が終わると、周りにいるみんなにも次々に同じ魔法を掛けていった。

みんなも彼女に魔法を掛けてもらい倦怠感が解消されたのかゆっくりと立ち上がった。


「那月ちゃんだっけ。ありがとうな。君がいなければ俺たちは全滅だった……本当にありがとう……」


「いえいえお礼なんて全然いいっす! 自己紹介遅れました! 私は九光(くびかり) 那月(なつき)。どうぞ宜しくっす!」


 そう元気よく自己紹介をしながら握手を求める彼女に、俺も手を差し出し握手を返した。


「にしてもこの状況どうしたものか……」


 俺は向かってくる妖怪達に目を向けながら、心の声が思わず出てしまった。でも無意識に本音が零れるのも無理はない。回復したとはいえ、依然状況は最悪だ。目の前には100を超える妖怪達が連なり、大行進してこちらに向かっている。今の俺達の力じゃ到底太刀打ちできない。


「あ、それなら大丈夫っすよ! 隊長が何とかしてくれますから!」


 彼女は、打開策が浮かばずに再び気持ちを沈ませる俺に元気よく、大丈夫と声をかけてきた。彼女の声に漲る自信、信頼で満ちた眼差しから察するに隊長と呼ばれるその男はかなりの手練のようだ。


「やれやれ……私の妖力でお呼びではないお客人を呼んでしまったようですね……」

「あんたら誰なの? まじムカつくんだけどー? 暗奈達の邪魔しないでくれないかなぁ! 妖、そのままこいつら事葬っちゃってー!」


 敵の刺客達は、予想していなかった邪魔に酷く怒りを隠せない様だ。しかし、退いてくれる気は微塵も起きてはいないようだ。助けに来てくれた人たち諸もろとも俺たちを葬るつもりだ。


 いくら隊長と呼ばれる人が強いからといって100を超える妖怪達を相手にどう対処する気なのかと俺困惑を浮かべたまま、しかし今は隊長と呼ばれる男の実力を信じるしかないことに、掌に爪がくい込みそうなほど固く拳を握りしめ自分の弱さを悔やんでいた。


「これは警告です。今すぐその玩具(おもちゃ)を片付けて帰りなさい。良い子はお家に帰る時間ですよ。……しかし、貴方達がこれを拒否すると言うのなら、私は貴方達の命は保証してあげることは出来ません。これだけ暴れてくれたんですからね。さあどうします?」


 男は妖怪の軍勢と刺客たちを空中に浮いたまま上から見下ろし、最後の警告をした。それはまるで神が裁きを与える前に最後の慈悲を与えるかのような神々しさをと威圧感を伴っていて、俺が逆の立場なら玩具と称されたそれらを片付けて思わず逃げ出すだろうと想像してしまった。


「バカじゃないの!? 逃げる訳ないでしょう? あんた達はここで地獄へ送ってあげるんだから♡♡♡ねぇ妖?」

「ええもちろんですよ、言われなくとも。」


 まあ予想はしていたが、玩具をバッグに仕舞って引き返す気はないようだ。その間にも妖怪達の大行進は続いており、俺達の目前に迫っていた。


「分かりました……実力行使も致し方有りませんね……陰陽師、安倍晴明の血族。安倍(あべの)光明(こうめい)がかしこみかしこみ申す!」


 男はそういうと袖から人型の形をした式札を狩衣の袖から4つ取り出し呪文を唱え始めた。


「悪しき者を払い給え、清め給え、急急如律令!〝白虎〟!〝玄武〟!〝青龍〟!〝朱雀〟!」


 その詠唱と共に空中から眼前に投げた4つの式札は瞬く間に光明が読み上げた四神へとそれぞれ姿形を変化させると、禍々しさを纏う妖怪達を滅するべく咆哮を上げながら向かっていった。


「あ、あれは!安倍晴明が使役していたと言われる〝十二神将〟の内の4体!生きている間に本物を見られる日が来るなんて!」


 恵は〝神獣〟達を見上げながら目をキラキラさせている。本を読むことが好きって言っていたからな。これだけはしゃいでいるということは安倍晴明が登場している本もきっと読んでいたのだろう。


 〝白虎〟は、白く輝くような毛並みにいくつもの黒い稲妻が走ったような模様があり、口の両側から覗く尖った牙と敵対する者を容赦なく引き裂くであろう強靭な四肢と鋭利な爪を携えている。神聖な雰囲気を持ちながらも荒々しい獣性を感じさせる。


〝玄武〝は、その身の大きさと山を連想させるような何事にも動じないと思わせる重厚な圧を纏う碧色の亀に、見続けていると意識が吸い込まれしまいそうな漆黒の躯をした2匹の蛇を体に巻きつかせており、妖怪達をまるで獲物を見る目をしてその身と舌を蠢かせている。


 〝青龍〟は思わず目を奪われてしまいそうな程の暴力的な深い蒼色をしており、鱗の一つ一つの淡い輝きで一層美しさを強調している。細く長大な胴体と獰猛さを象徴するように伸びた角と黄金にたなびく髭、その姿はまさに天空の王と言ったところか。ドラゴン好きの俺の心をとてつもなく滾らせる。


 そして〝朱雀〟は、……一言で言うなら不死鳥、いわゆるフェニックスといったら分かるだろうか。


 ……いや決して頭の中で細かく特徴を挙げるのに疲れたとかでは断じてないぞ! と誰にではないが言い訳をしてしまった。


 〝白虎〟と〝玄武〟は地上から、〝青龍〟と〝朱雀〟は空中へ舞い上がり、後ろにいる俺たちも思わず身震いするほどのプレッシャーを解放し妖怪達に対して距離を詰めていく。


「っ!僕達もできるだけのサポートをしよう!歩、美麗!」


 いち早く意識の硬直を解いた恵の言葉に俺達も我に返り、目の前に迫る妖怪達に向かっていった。


「〝ドレイク〟、悪いが〝神獣〟達のサポートをしてくれ!」


「御意」


 〝ドレイク〟も空中の2体に続き妖怪達に炎のブレスで攻撃を始めた。雪女から飛んでくる氷の吐息を燃え盛る炎で返り討ちにしていく。


「加速支援魔法〝アクセラレート〟」


 恵は〝ドレイン〟の影響で途切れていた身体能力強化の魔法を神獣達、那月、光明と範囲を広げ再度掛け直してくれた。


 美玲も銃を両手から消し、新たにマシンガンを出現させ神獸を射線に巻き込まない位置まで駆けていき、妖怪達に向けて掃射を始めた。大軍の敵にマシンガンを放つのが余程爽快なのか口元には笑みを浮かべている。


「〝ドラゴンスケイル〟」


 俺も竜爪に加え〝ドラゴンスケイル〟により全身を竜化させ、襲ってくる妖怪達を紅蓮拳と爆炎弾を駆使し返り討ちにしていく。


 〝神獣〟はというと、〝白虎〟はその四肢と爪で薙ぎ払い切り裂いていき、〝玄武〟は片足にその身の重量を限界まで乗せて叩きつけるように降ろし、正面の大地のみを波立たせて揺らし妖怪の行軍を止め、漆黒の蛇はその身を滑らせるように這い寄り次々と相手の身体に巻きついては絞め殺していく。


 〝朱雀〟は空中を縦横無尽に舞いながら炎のブレスによる範囲攻撃、迫る天狗などの妖怪の攻撃も巧みに躱していく。


 〝青龍〟も大空を自由自在に飛び回りながら青い高熱のブレスによる範囲攻撃。更に樹木を身体の回りから出現させ、空中で襲ってくる妖怪達を縛りつけ、大きな牙で噛み砕き蹂躙していく。


 妖力を失い活動できなくなった妖怪達は煙のように立ち消えどんどんその数を減らしてゆく。


「お、おのれぇぇぇぇ!!」


 妖は酷く怒り狂いながら叫び声をあげて、髪の毛を掻き毟り憎悪に満ちた顔で光明を睨み付けている。さぞ悔しいはずだ。あそこまで大見得をきって発動した〝百鬼夜行〟による妖怪達の軍勢が圧倒的に蹂躙されているのだから。


「憑依〝妖狐 〟」


 妖は、残りの妖力を注ぎ込み先程憑依した妖狐に再度姿を変えると、今度は9つの狐火を作り出し、9体の狐に変化させた。と同時に空中に浮遊し神獣を維持するために力を注ぎ続けている光明へ、葬るように命令し向かわせる。


「我が下僕達、奴を噛みころせ」


 その顔は先程の美しかった顔が見る影もないほど歪んでいた。


 指示を受けた狐達は空中に向け、勢いよく飛び出し歯を剥き出しで唸りながら一直線で光明のいる方向に向かっていく。しかし、行く手を阻むように那月が狐たちの前に飛び出した。


「〝ホーリー・バリア〟」


 そう彼女が詠唱すると、光のバリアが展開された。狐たちはバリアを突き破ろうと何度も体当たりを繰り返すがその度に跳ね飛ばされ、繰り返すうちに妖力が切れたのか一匹残らず煙のように消滅していった。


「あんた達!好きに暴れてくれっちゃって!〝ダーク・インパクト 〟」


 今まで姿を隠していたのか横転していた車の影から暗奈が飛び出し、ステッキに禍々しい闇の力を集中させた全力の一撃を光のバリアに向けて放った。しかしバリアを破壊するどころか闇のパワーは、浄化され跳ね返るようにそのままステッキと彼女を呑み込み〝ダーク・オーラ〟による変身状態を解除した。


「な、なんで、最高にキュートなエニグマ様から授かった力が……」


 彼女は自身の渾身の攻撃を簡単に破られ、更には変身状態まで解除されてしまい呆然とした表情をしている。


「チェックメイトであります!直ちに攻撃を止めて投降するっすよ!」


 那月は攻撃の手を封じられた暗奈と妖に降参するように命じた。俺から見ても勝敗の結果は明らかだ。これ以上戦いを続ける意味はない。


「チッ!ここは引くわよ妖、車に乗りなさい!」


 暗奈は我に返ると不利を悟り地上に着地し、光明を睨み動こうとしない妖を回収し車に乗り込みアクセルを踏み込み物凄いスピードを出して撤退していった。

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