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纏いしもの

「さあ、私の美しい下僕(しもべ)たちよ、彼の者達に粛清を!」


 妖がそう命じて左右に掌を(かざ)すと狐火が生まれ、そこから瞬く間に尻尾が3つのこちらへ敵意を容赦なく向ける〝狐〟へと変化した。そして勢いよく俺達の方向に飛び出してきた。その狐の顔つきはまるで獲物を狩る獣のようで歯茎を軋ませながら俺達を威嚇している。


「グルルルルッッッ」


 2体の狐は猛スピードでこちらへ向かって来ると、一瞬にして俺と美麗を包囲するようにグルグルと周りを移動しながら襲い掛かるタイミングを図っている。


 美麗は即座に手からスナイパーライフルを手放し両手に拳銃を出現させ、その銃口を油断なく左右の狐に向け警戒していた。


 狐は依然、こちらの隙をうかがっておりいつ襲われても可笑しくない状況だ。緊迫した状況が続く中、美麗が俺にある提案をした。


「歩、わたくしと練習していたあの能力。今使えたりしないかしら?」


 俺は美麗に姫野原邸で空いた時間に稽古を付けてもらっていた。彼女の言う能力は恐らくこの状況でも体を使わずに戦えるあの能力のことだろう。


「フゥ……ハハハハハハ!この龍ケ崎 歩。いまこそ秘められし力を解放する時!〝コート・オーダー〟ファイアードレイク!」


 そう俺は切矢戦で惜しくも使えなかった能力の鍛錬をしていたのだ。おかげでこの状況に間に合わせることが出来た。美麗には感謝している。


 召喚のセリフとともに召喚陣が展開され、中から炎を身に宿した〝ドレイク〟がその姿を現した。成功だ。俺の内に眠る竜を呼び起こすことが出来たようだな。


「主、この〝ドレイク〟に何なりとご命令を」


 そう俺達、竜の血族は竜の声が分かり、会話が成り立つ。だが、周りは〝ドレイク〟の声を認識出来ない為、ただ1人で話す痛いやつに見られてしまう……が今はそんなことはどうでもいい。


「〝ドレイク〟! 呼び立てて早々で悪いが、俺らの周りを囲っている狐を追い払ってくれないか?」


 そう俺は〝ドレイク〟にお願いした。竜と人は契約の元で力を貸してもらうが主が何でもかんでも好きに命じて横暴に振る舞っていいわけじゃない。竜は道具ではないのだ!


「主の仰せのままに……」


 そう言うと〝ドレイク〟は狐たちを自身の咆哮で威嚇し、周り一帯に炎のブレスを吐き、俺たちの周りから狐たちを退かせる。


 一瞬で辺り一体が火の海と化した。


「ふむ……少しはやるようですね……それならば私も力ある者への敬意を払い、本気で行くことと致しましょう……〝憑依〟鵺」


 そう宣言すると、狐達は忽ち姿を煙のように消し、妖の体が先程よりも際立った変化を始めた。まず、顔が猿のように変化し、胴体は狸、手足は虎、そして下半身から蛇の尻尾が生え、人としての原型は残っていなかった。


「妖狐の次は〝鵺〟……両方とも古くから伝わる日本の大妖怪か……これは厄介な敵に遭遇したな……」


 恵は困った顔を隠せずにいる。〝鵺〟の体に変化し、四足歩行で構える妖へ〝ドレイク〟が炎のブレスを吐き、応戦する。


「一か八かだ! 模倣魔法! 歴戦の神器!」


 そう恵が詠唱すると金色の弓と弓袋が徐々に彼女の目の前に形を現し、手に取った。


「美麗。それは〝鵺〟を退治したと伝えられる、源頼光の弓を模倣して作ったものだ! それで〝鵺〟を射抜いてくれ!」


 恵はそう言うと、後方から弓と弓袋を美麗に向けて投げ渡した。彼女はすかさず銃を両手から消して、恵から投げ渡された弓と弓袋を受け取ると、身体の正面で弓に矢を番え、〝ドレイク〟と交戦中の妖に向けて構えて狙いを定めた。


「お前、弓も扱えるのか?」


 まだ出会ってから戦闘する姿は数える程しか見てはいないが、銃を振り回してるイメージな美麗が綺麗な姿勢で弓を構える姿に一瞬見惚れながらも疑問を抱いた俺は彼女に質問した。


「私をだれだと思ってますの? 自分で言うのもなんですけど令嬢というものは習い事も多彩ですの! 当然弓道も履修済みですわ!」


 そうだ……忘れていた……彼女はお嬢様なんだ……銃も使えて弓も使えるなんて……カッコよすぎるだろ!と俺は内心で厨二魂が刺激されて盛り上がっていた。


「いきなさい!」


 その言葉と共に弓の先から勢いよく矢が飛び出した。そのまま吸い込まれるように、鵺そのものの姿と化した妖に一直線に向かっていくと見事に命中して深々と突き刺さった。


「ぐわわぁぁぁぁ!そんな紛い物ごときでよくも……よくも……よくも……」


 妖の〝鵺〟への変異は解け、頭を抱えながら悶え苦しんでいる。どうやら恵の一か八かの賭けに成功したようだ。美麗はその隙を見逃さず、弓を投げ捨て、両手に再び拳銃を出現させ妖へ向け銃を構えた。


「これで終わりですわ!」


 宣言すると同時に銃声を響かせ、それに被せるように時間差で更に2発撃った。弾丸は一直線に妖へ向かい、飛んでいく。俺たちは、これで勝敗は決したかを思ったが、


「〝ダーク・インパクト〟!」


その掛け声と共に妖に中るかに見えた弾丸は禍々しいオーラの衝撃により吹き飛ばされてしまった。


「イイざまねぇ、妖! キャハ♡♡♡。暗奈ちゃん完全復活の巻~♡♡♡」


 どうやら頭を抱え悶え苦しんでいた暗奈の状態が収まり、操られている状態に戻ってしまったようだ。せっかく彼女が逃走の隙を作ろうと自身を抑えてくれていたのに……


「妖、あんたまだ立てるでしょ? 大技隠してるんじゃないの? さっさと使いなさいよぉ!」

「ああ確かにあるとも。だが今の私じゃ妖力が足りぬ。万全の状態でそれ一発でガス欠になる技だ。だがもし妖力さえ用意出来るのであれば……」


 そう聞くと暗奈はにんまりと笑みを深くして、ステッキにキスをしながらこう言った。


「それなら暗奈の能力に任せなさい。〝メイクアップ〟ドレイン」


 〝ドレイン〟と宣言したステッキから突如禍々しいオーラが昏く輝き、足元から俺達にまとわりつくように拘束した。更にその対象は俺たちだけじゃなく、走行する一般車両も含まれていたようで運転手が束縛され走行出来なくなった車は壁に激突し、燃え始めた。


『うわぁぁぁぁ 』


 束縛された俺たちは悶え苦しみながらそれを振り払おうとするが中々剥がすことができない。


「無駄よ!それはあんた達の生命力を徐々に奪っていく!まだ持続をあまりさせられないから完全に吸いきることが出来ないけどね。でもこれをステッキに集めて、妖力として妖に与えれば……キャハ♡♡♡妖の大技によりあんた達は終わりって訳!暗奈ちゃん天才すぎー♡♡♡キャハ♡♡♡」


 ある程度力を吸ったと彼女は判断すると俺達に纏わりつかせていたオーラを回収し、集めたエネルギーをステッキに注ぎ込んだと思うと、妖の背中にステッキを当て、一気に放出し体内に注入した。


「おお、これは……暗奈よ…よくやってくれました……礼を言います……お魅せしましょう!我が最大奥義〝百鬼夜行〟!!!」


 そういうと妖の背後の高速道路一帯に暗雲が立ち込めたと思うと、その闇の中から無数の妖怪達が姿を現しこちらへ向かって大行進を始めた。


 がしゃどくろ、雪女、鬼、火車、天狗……他にもアニメや昔話出てくるような妖怪たちの姿が技の名の通りの列を成し押し寄せる。


 俺達はその光景に恐怖と共に絶望した。秋葉原に向けて出発した俺達の旅がこんな形で終わりを告げるなんて……


 俺はがくりと膝をつき悔し涙で滲ませ、流石に今回ばかりは…と思いつつ自分の力不足と運命に嫌気がさしていた。


 なんで……なんで……俺はいつもこうなるんだ……泉へ誓ったのに……美麗と恵を守るって……


 抵抗しようにも〝ドレイン〟の能力により生命力を奪われた俺たちに戦える力は残っていない……


 泉……すまない今回も失敗してしまった……

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