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黒歴史戦線

 ーーウルフ本拠地 ーー新宿雑居ビル地下1F ーー


「妖、お前に仕事だ。龍ケ崎歩一行が秋葉原へ向かっているとの情報だ。今秋葉原に奴らが来られるとエニグマが困るらしくてな。足止めをしろ」


切矢 遼は腕を組み机の上に足を置いた状態で、目の前で跪く男に司令を告げた。


「お言葉ですが、切矢様ほどの御方が何故、奴に従うのですか?」


妖と呼ばれてたその男は納得がいかない様子で切矢を見上げ質問をした。


それを聞いた切矢は席を立つと、妖の胸ぐらを乱暴に掴み鋭く睨みつけて大声で吐き捨てるように言った。


「誰が従ってるだって!? こっちが利用しているだけだ! 奴もいずれ俺が殺す、分かったらさっさと俺のために働け!」

「了解しました。私、怪鬼かいき (よう)が必ずやご命令を果たして参ります! ところで切矢様、奴らの命は奪っても宜しいのですか?」

「龍ヶ崎歩だけは生かせ、他は容赦なく殺せ。龍ケ崎歩を絶望させろ。ああ、言い忘れた、エニグマの方からもコマを用意させてある。合流して協力しろ。そこに合流場所が書いてある」


 そう言って席に戻りながら切矢は、妖に背を向けたまま右手でメモを素早く投げ渡した。


「御意」


 妖はそういうと切矢の部屋を後にした。


 ーーレジスタンス一行ーー車内ーー


 秋葉原へ向けて出発して間も無く、とても大事なことを思い出した。母親への連絡だ。そもそも昨晩家から出る際にスマホを持って出てはいなかった事を、今になるまですっかり忘れてしまっていた。これからしばらく家に帰れないだろうから連絡はしておきたい。


「慎一郎さん……大変申し訳ないが携帯を貸していただけないか?スマホを家に置いたままで来てしまったから連絡を取れないんです」

「ハハハッ、そんな事か。それなら僕が連絡をしておいたから安心するといい。学校の方も出席として扱うよう手配をしている。あとさんは付けなくていいよ。気軽に慎一郎と呼んでくれ」


 抜け目のない人だなとは思っていたが、この人はうちの学校の理事長でありCIA捜査官でもある。この程度の根回しは造作も無いわけか。


「あー歩くん、携帯を持ってないんだったね。操作用の代替機ですまないが持っておくといい」


 そう言うと運転席に座る慎一郎さんは俺にスマホを手渡してきた。通常のスマホとは違い少し厚みと重さがあり耐久性も高そうだ。


「あ、ありがとうございます」

「お礼なんていいよ、あとこれを……」


 そう言いながら、手渡せられたのはインカムだ。泉の付けていたのと同じタイプだった。これがあれば戦闘中に仲間と連絡を取り合うことが出来る。俺はいつ戦闘が開始されてもいいように、耳元にインカムをセットしたあと、美麗と恵の2人と連絡先を交換しておいた。


「ところで恵、お前の〝黒歴史〟……いや〝黒現〟だったか、どんな能力なんだ?」


 美麗の能力は出発前に練習相手を頼んだ時にある程度は理解していたが、恵に関しては結界が使えて、空を飛べるという情報しか知らない。共に戦う仲間として、能力について知っておいた方が良いと考えていた俺は恵に尋ねた。


「そうだね……これから共に戦っていくわけだし話しておこうか。僕の生い立ちとそこから生まれた能力を……」


 そういうと恵は、淡々と自分の事を語り始めた。


「僕はね……人より何倍も本が読むことが好きだった。だからなのかな、友達って言えるような人はいなくてね…本が唯一の友達だったんだ……学校のある日の休み時間と放課後は時間いっぱいまで図書室、休日は図書館にいてひたすら本を読み耽っていた。そんな日々を続けるある日、その日は隣町まで出かけていてね。いつも通っている所の何倍もの広さの図書館に訪れたんだ。僕は背が低いから本棚の上の方にあった読みたい本を取れなかった。かといってその時の僕は人見知り全開だったからね。スタッフの人に声をかける勇気もなかったのさ。そんな時だよ能力に目覚めたのは……」


 なるほどな。これが恵の能力開花した経緯だったってことか。


「僕は、ジャンルを問わず様々な本を読んでいたからね。能力の幅は広かった。でもそのせいか能力は制限されていてね。どんなに使い続けてみても1つの能力が集中的に強化されることは無かった。広く浅く……まぁつまりは中途半端って事だね」


 「恵、話してくれてありがとな…だけど自分のこと中途半端なんかって言うなよ。俺から見ればお前はなんでも使える大魔法使いだよ」


 そう伝えると恵は頬を赤くさせ、それ隠すようにローブで顔一面を覆った。


 それから間もなくして時刻は22時、俺たちはサービスエリアにて一時休息をとっていた。慎一郎さんは夜通しの運転になる為1時間ほど仮眠を取っている。俺は自販機でスポーツドリンクを買った後ベンチに座り、頭に冷たいペットボトルを当てて昨晩から自分の身に起きている常識では考えられない状況を整理していた。


「隣いいですかしら?」


 目が覚めて夜風にあたりにきたのか、美麗が隣の席に着いた。


「美麗、目が覚めたのか?」

「ええ、先程はみっともない姿をお見せしてしまい申し訳ございませんわ」

「ああ、全然気にするな」


 それから暫し他愛もない話を交わしていた。その中には銃との出会いや〝ドラゴンブレイカー〟のレイドクエストの話などもあった。俺は彼女と話している中で、心のどこかで自分とは違う世界の住人だと思っていたことに反省していた。


 そうして話すことに夢中になっていたが気が付けば出発時間になっていて、俺たちは慌てて車に戻った。


「さあ、出発だ」


 慎一郎さんが豪快にエンジンを唸らせ出発の合図をする。恵も眠っていたがその音を耳にしてゆっくりと目を開けた。


 サービスエリアから暫く走行した頃、恵が異変を察知したようで表情が一変し警告をする。


「慎一郎さん! 後ろの車!」

「ああ尾けられているね」


 さすが恵と慎一郎さんといったところか。尾行に気付くのがとても早かった。


 俺は後ろを向き、その車を確認する。シルバーの軽車両で、運転手はスーツ姿でスキンヘッド、黒いサングラスをしている。いわゆるマフィアのイメージそのものな姿をしている。助手席には、一見すると女性と見間違えそうな程肌が白く美しい顔立ちをした長髪の男が座っていて、服装は着物で赤と紫を基調として至る所に彼岸花の模様が刻まれている。後方にもう1人女の子が座っているがよく確認できない。


「撒けますか?」

「やってはみるがあまり期待しないでくれよ」


 自信無さげなセリフとは裏腹に慎一郎さんは車のスピードメーターを一気に最大まで上げていく。この速度でもハンドルを巧みに回し前の車を抜きさっていく。さすが現役のCIAだな。


 しかし追っ手も伊達ではないようで、最初こそ引き離せたかと思っていたがこちらのスピードに対し、諦めるどころかグングン距離を縮めてくる。このままでは撒くのは無理だと考ええたのか美麗はトランクからスナイパーライフルを取り出すと弾薬を装填し、窓を開け自身も身を乗り出して相手の車両に向けて射撃を開始した。


「相手の車両のタイヤですが、どうやら特殊な素材で造られているようですわ」


 先程から美麗が何度もタイヤに銃弾を命中させているがパンクする気配は欠片もない。しかし、彼女の狙撃の腕も全て狙い通り命中させているのだから間違いなく一流だろうと感心していた。


「こちらもこれ以上速度は出せない!こうなれば戦うしかないか、3人とも頼んだよ!被害の責任は全てCIAと日本政府で負う。あとのことは気にせず力を奮ってくれ!」


『了解!!!』


 そういうと、慎一郎さんはブレーキを踏み込みタイヤから火花を散らせながら車を急停車させ、俺達は掛け声とともに一斉に飛び出した。


さあ〝黒歴史〟の戦い、いや〝黒歴史戦線〟の開幕だ!

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