黒歴史2
あれから一時間後、俺と美麗、恵の3人は先程の大書庫の中央スペースに再集合していた。
「集まってもらっていきなりで悪いが龍ケ崎 歩。君に先程起こった事を細かく教えていただけるかな? 泉と連絡を取っていたのだが途中から調子が悪くてね」
恵にそう言われ昨日の夕方から今に至るまでの出来事を詳細に伝えた。薄々感じてはいたが、インカムでやり取りをしていたのは恵だったのか。
「なるほど……切矢 遼に関しては先程少し聞いたが……そのエニグマという存在が気になるね……そして〝魔剣グラム〟……」
恵は手を顎に当て、暫く沈黙し思考を巡らせていた。
「〝魔剣グラム〟は黒現の能力に拠るものではないのか?」
もし〝魔剣グラム〟が〝黒現〟に拠るものならば、こんなに悩む必要が無い。そう考えた俺は恵に質問する。
「〝黒現〟にも限界があってね。僕も詳しくはまだわからないが、自分の設定、行いに反する能力の取得は出来ないはずだ。切矢が模倣した能力も泉のように水を出したりするのではなく、あくまで物質の形状・性質を変化させるに留まっていただろう?」
確かにな。その話を聞いて、恵が黙り込んだのも納得できた。
つまり、俺の〝黒現〟は竜の力に関連性がある能力なら今後得ることが出来る訳か。
「話を聞く限り、エニグマが切矢に能力を与えたような物言いをしているね……事態は僕が考えているよりもかなり深刻なのかもしれない……」
恵は話が終わると引き出しから地図を取り出しテーブル全体に広げ、ある一点を指し示して話す。
「これからの事だが、まず最終目的地はウルフの本拠地新宿を目的とする。しかし、今のままでは戦力が足りない。その為にひとまずあの場所に向かうよ」
「あの場所ってどこのことだ?」
勿体ぶるように言葉を濁し恵に俺は問いかけた。
「君ならばもう分かるはずだ!〝あの場所〟なら〝黒現〟に力を借りれる可能性が非常に高い。答えは分かるね?」
恵に厨二魂をくすぐる様なノリでそう返され、俺は満面の笑みを浮かべながら確信した。
「フゥー……ハハハハハハ! 分かった! 分かったぞ! 〝あの場所〟だな!」
「〝あの場所〟ってどういう事ですの? わたくしにも教えて頂けまして?」
どうやら美麗はまだ分からないようだ。当たり前だ、お嬢様育ちの彼女に分かるはずが無い!なぜなら俺みたいな痛ーいオタクでは無いからな。
「秋葉原だな!」
「ご名答!」
恵は俺の言葉に息ピッタリに返してきたが、美麗はノリノリな俺達のやり取りにさらに戸惑う様な表情を浮かべている。
「まず秋葉原で新たに仲間、協力者を集め、その後ウルフの本拠地へ向かう。出発は今晩18時それまでは自由行動とする解散!」
その後はそれぞれ自室に戻り、自由行動となった。俺は自室に戻り横になると、半日の間に起こった怒濤の展開に疲れが溜まってしまっていた事で、直ぐに夢の中に招かれ眠りについていた。
目を覚ますと時刻は朝の10時、美麗から食事は8時と言われていた事を思い出し、慌てて1Fの食堂に降りていく。
「あら、お寝坊さんのお目覚めかしら? 無理もないわね。昨晩は色々ありましたものね」
そう言いながら席に着いた俺に暖かい食事を持ってきてくれた。メニューはオムレツ、食パン、サラダにソーセージ、牛乳とホテルで出てきそうな朝食だった。
「美味い!」
「それはよかったですわ。わたくしの手作りでしてよ。こうもいいリアクションをしていただけると作り甲斐がありますわね。」
美麗は俺が美味そうに食事をする様子を見ながら両手でほっぺたを抑えながら嬉しそうに笑みを浮かべていた。俺は正直彼女の笑顔にドキッとしてしまった。
「これお前の手作りなのか!? ……作戦会議の前にも思ってはいたんだが、豪邸なのに執事やメイドさんみたいな人はいないんだな?」
俺は昨日から美麗以外の人をこの豪邸で見かけていない。この疑問を抱くのは当然だと思う。
「今は特殊な状態でしてね。この場所をレジスタンスのアジトにしている事、恵が結界を展開していることを含め公にはできない関係上、執事やメイドも邸内に居てもらう訳にはいきませんの。万が一スパイがいても困ってしまいますもの」
なるほどな。執事やメイドにスパイがいて能力者ということがバラされれば確実に組織に不利益なる。妥当な判断だなと俺は納得した。
俺は食事を終え、食べ終わった食器を彼女に渡し恵のいる大書庫に足を運んだ。
「恵、おはよう! 昨日はありがとうな、色々有益な情報を知ることが出きた」
そう後ろから声をかけたが、彼女からの返答はない。PCの前に釘付けの状態でヘッドホンをしており、何かのゲームに夢中みたいだ。
「て、ドラゴンブレイカーじゃねえか!」
俺は自分のプレイしているゲームを彼女がプレイしているのに驚き、大きく声を上げてしまった。さすがに大声が聞こえたのか、彼女はヘッドホンを外し俺の方に目を向けた。
「お、歩じゃないか! なんだいヘッドホン越しに聞こえるぐらいの大声出して」
「どーしたもこーしたもねえよ! ランクはいくつなんだ? 職業は? お前のプロフィールも見せてくれよ!」
「わかったわかった、見せてあげるから落ち着きなよ」
俺は彼女から弄っていたマウスを受け取り操作して、プロフィール画面を開いた。
「え?」
そこにはプレイヤーネーム博士と書かれていた。もしやと思いフレンド欄を確認するとそこには俺のHNとお嬢さんの名前が記載されていた。間違いない、あの博士だ。なんて確率だよ……一緒にゲームをプレイしていたフレンドが今の仲間だなんて。
「もしかして、歩って竜人?」
俺の驚いた顔を見ながら彼女は俺のHNを聞いてきた。
「もしかしなくとも、そうだよ。まさか一緒にゲームをプレイしていた仲間が恵だったなんてなー」
「あ、ちなみにお嬢は美麗だよ」
「え?」
彼女がプレイヤーってことだけで驚きなのに、お嬢が美麗って……でもあいつ実際お嬢様だし……でもこんなゲームやる柄にも見えないのに……
昨日から立て続けに驚愕の情報だらけで、もう俺の頭の許容量を超えていた。正直もうここまでくると驚いては負けなのか……と思い始めていた。
その後は、彼女のプレイを少し眺めさせてもらって一旦自室に戻りボーッとした後、再度食堂を訪れランチを頂いた。
「ご馳走様」
「お粗末さまですわ」
俺は食事を食べ終えた後、美麗に1つお願いをした。
「美麗、あのさ俺の特訓に付き合ってくれないか?力の使い方をもう少し身に付けたいし、今現時点で俺がどこまでの能力が使えるか試しておきたいんだ」
正直今の状態で、旅立つにはまだ不安が残る。やれることはやって起きたいと思い俺は、彼女の自由時間に申し訳ないと思いながらも特訓相手をお願いした。
「分かりましたわ! そういうことでしたらこの姫野原 美麗にお任せあれですわ! でもごめんなさい食事の後片付けがあるから先に庭で待っててくださいですわ」
俺は彼女の了承を得て、その後2時間ほど特訓に付き合ってもらった。おかげで自分の今使用できる能力の範囲と実力を確かめることが出来た。彼女には本当に感謝だ。
特訓が終わった後はシャワーを浴びて少し仮眠をとった。出発が今日の18時のため16時半には食堂に降りて、恵と美麗と共に早めの夕食を頂いた。
そして約束の時間の18時、俺たちは玄関に集まっていた。
「準備はいいかい?」
恵が出発前の最終確認をする。しばらくはこの場所には戻れないかもしれない。俺たちは忘れ物がないか入念なチェックをした。
「ああ大丈夫だ!しかし移動手段はどうするんだ?電車は危険だろうし車もみんな未成年だから免許がないじゃないか?」
「車は私が出させてもらうよ!」
その言葉と共に黒いスーツを着たおじさんが俺たちの前に現れた。
「え、理、理事長!?」
俺はこの人を知っている。校長室に並んでいる写真の1人だ。まさかこんな偶然があるなんて。ドラゴンブレイカーと言いどうなっているんだ、いくらなんでも世間が狭すぎないか……?
「君、龍ケ崎歩くんじゃないか! 知っているよ校内の中庭で昼休み1人で叫んでいたね」
「フッ……やはり気づいてたのか……抜け目のない男だ……」
まずい、ついいつもの厨二病癖が発動して、目上の人に対して大変失礼な物言いをしてしまった。非常にまずいぞ。
「ハハハハハハ!君はやはり面白いね! 私は姫野原 慎一郎、美麗の父であり、石原大付属高校の理事長でもある。そして裏の顔はCIA捜査官なのだよ!」
そう言うと慎一郎さんは俺に手帳を見せてくれた。まさかCIAまで関わっているなんて…俺のパンク寸前の脳に更なる驚愕が突き刺さった。
「あと、美麗と歩くんはこれに着替えなさい!」
そう言うと右手に持ったトランクを開け、俺と美麗に自衛隊用の迷彩服を差し出してきた。まあ確かに、俺は半分燃え尽きてボロボロのTシャツ。美麗に関してはドレス姿だ。戦いに適した服装ではない。
そう言われた俺と美麗は一旦自室に戻り、手早く着替えを済ませ元の場所に戻ってきた。
「日本政府とCIAは全体的に君たちのサポートをさせてもらう!多少派手に暴れてしまっても構わない、必ずやウルフを殲滅してくれ!そしてこれは美麗に……」
そう話すと慎一郎さんはもう1つのトランクを開けた。中には大量の銃と弾薬が詰まっていた。
「お父様……これは……」
美麗はこれを見てとても驚いていた。
「美麗……正直まだ娘が銃を持つことには抵抗がないと言ったら嘘になる。でもそう言ってはいられないのが今の状況だ。父さんは美麗の力になれるのはこれぐらいしかない……」
その言葉を聞いて美麗は涙ぐみながら言った。
「お父様……わたくし……わたくしお父様の事を誤解しておりました……わたくしが銃を握る事を心から否定していると思って…今回も行くなと言われるかと……」
「ああ、今まで戦うことに関して否定ばかりして悪かったね……姫野原の当主、そして一人の父親として、娘である美麗にはこうあるべきという自分の価値観を押し付けすぎていた…本当に済まないことをしたね……」
慎一郎さんはそう言うと美麗をそっと抱きしめた。そうして美麗の涙が落ち着くのを待った後、俺たちは慎一郎さんの黒塗りのスポーツーカーに乗り込み姫野原邸を後にして、秋葉原へ向け出発した。