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黒歴史

 俺は美麗の案内で、木々の生い茂った道を進んでいた。道理で車道を進んでも目的地に到着しない訳だ。


 それから1分もしない内に目の前に立派な豪邸が姿を見せた。建物の正面は広大な庭園になっていて、色とりどりの花々が咲き誇っている。


 中央には噴水があり、周りをビオトープが囲っている。更にお金持ちがティータイムを楽しむ屋根付きのガーデンテーブルも備わっている。


 建物には装飾はほとんどなく、全体が雪のように真っ白だ。


 豪邸というものを未だかつてこの目で見たことが無かった俺にとってはこの時点で頭の中が軽く放心状態だ。


 数々のエクステリアを眺めながら、庭園の中央を通り過ぎ建物の入口に到着した。


「ようこそ姫野原邸へ」


 美麗は大きな扉を開けて中へ案内してくれた。


 建物内に入ると予想通り、アニメでしか見た事のないような数々のインテリアが俺の視界にに飛び込んで来る。


 二手に別れた中央階段、天井に際立つシャングリラ。他にも挙げていくとキリがないくらいの装飾の数々が煌びやかに輝いている。


「なにをボウッとしてますの!? 行きますわよ!」


 美玲の一言で我に返った。魅了されすぎて別の世界に意識が飛びかけていたようだ。


 右手の広い廊下を少し進んだところに地下への階段があり、そこを下りて行くとパスワード式の電子キーが付いた大きな扉の前へ辿り着いた。地下室の入口だろうか。


 美麗がパスワードを入力すると扉が解錠され、中に誘導された。


 地下室にも数々の部屋が存在しているようだが、通路の一番奥にある部屋に案内された。


「こちらですわ」


 中に入るとその部屋は、とても広いことが分かった。上から下まで無数の本がところ狭しと並んでいて、見える範囲の壁は埋め尽くされている。まるで大書庫……というより大図書館と言うのが正しいのかもしれない──と心の中で圧倒されていた。


「初めまして龍ケ崎 歩」


 頭上から聞こえた声に反応し、俺は慌ててそちらに目を向けた。


 そこには、紫色の魔女帽子とローブを身につけている少年がいた。髪は黒の短髪。小柄で眼鏡をかけている。杖を持っているし、服装や空中に浮いている点から判断して、魔法使いか。


「美麗も見回りご苦労さま。やはり泉は切矢 遼に殺されてしまったんだね……」


 少年はそう言いながら、ゆっくりと地上に着地した。


「積もる話もたくさんあると思うが中央の席で話すとしよう」


 少年の提案で場所を中央の読書スペースに移動し席に着いた。


 泉の遺体も席を3つ繋げて横たわらせた。


「泉、お疲れ様。君というコマは失ってしまったが、おかげで龍ケ崎 歩という新たなコマが加わった。とても感謝しているよ」


遺体の肩を触れながら少年は言った。


 その発言に対し、俺は憤りを感じた。泉がまるで俺を呼ぶための道具として扱われていたかのように聞こえたからだ。


「てめぇ! 泉の命をなんだと思ってんだ! 泉はコマじゃねぇ!」


 俺は少年の胸ぐらを掴み、鋭く睨みつけた。少々感情的になってしまったが無理もない。


「そうですわよ! 泉はわたくしたちの仲間のはずでしょう!」


 どうやら美麗も俺と同様に泉が物扱いされたことに酷く怒りを感じてくれたようだ。


「君達の気持ちはわかる。言い方が悪かったようだ。だから手荒な真似はやめて、まずは僕の話を聞いて欲しい」


 その言葉を聞きひとまず掴んだ腕を離して少年の話に耳を傾けることにした。


 少年は用意されていたホワイトボードに図表を書きながら説明を始めた。


「まず、君がここに来るまでに遭遇した複数の能力を備えている人々、それらの能力の総称をまとめて〝黒歴史〟と呼んでいる。能力の発現タイミングは人それぞれだが、例えば泉は車に引かれそうな少女を助けたいと思った時に能力が発現したらしい。能力の種類は過去に夢見たものや行いなどが反映されている。泉の場合は〝魔法少女てぃんくる9〟がモデルになっているね」


 つまり俺の場合は厨二病設定が能力となり現れたということか。しかし、全ての能力が最初から備わっている訳ではなかった。


「質問いいか? 俺は能力の発動範囲が制限されてるみたいだ。これはどういうことだ?」


 そう質問すると少年はデスクチェアに座り、人差し指を突き出しながらこう返してきた。


「慌てないで。そこが今から解説するところだよ」


 少年は再度立ち上がり、ホワイトボードの図表を全て消し、再度書きながら説明を始めた。


「次に成長域について話そう。能力者はそれぞれ成長域がある。それは能力者がその行為を行った回数や年数が比例する。泉は知っていると思うが途中で能力のベースとなっている趣味を否定している。そこに座っている美麗も同じようにね。だから能力の成長に限界がある。能力は戦いの経験数でどんどん開花していくが例外も存在している」


 俺の考えた能力が発動しなかったのは単純に経験不足って訳か。その話が正しいとすれば切矢との戦いの後、能力が少し使いやすくなっていたのも合点が行く。


「もう1つ質問いいか?」

「なんだい?」

「切矢が泉との戦いの最中に泉の技を模倣して〝オルター〟という技を使用していたんだ。あれはどういうことだ?」

「いい質問だね。それは〝黒歴史〟の中でも特別な存在だ。これを〝黒現〟と読んでいる。彼らは戦いの中で、設定された能力、過去の行いとは逸脱しない範囲で異なった能力を得ることができる」


 なるほど切矢はその〝黒現〟の1人という訳か。つまり〝オルター〟は戦いの中で泉の能力を模倣し、自分なりにアレンジを加えたものということだな。


「そして、僕と君はその〝黒現〟だ!」


 少年は人差し指を突き出し、真剣な眼差しで告げた。


「〝黒現〟は見分けがつくのか?」


 俺はいきなり自分が〝黒現〟と言われ、軽く頭の中が混乱していた。


「ああ。君は現在進行形の痛ぁ~~~い厨二病だろ! それが証拠さ」

「フッ……痛いとはなんだ俺は龍ケ崎 歩! 竜の血を継ぎ、悪を狩る。それが俺様に課せられた使命! 」

「うんうん君ノリがいいね。つまり簡単に言うと現在進行形でその状態である人のこと。それは厨二病ってだけじゃなくて、僕の場合はずっと1人で本読むことが多くてね。それが〝黒現〟になったみたいだ。」


 俺の渾身の厨二病魂を込めた台詞が軽く流されたのは腹立たしいが、ここまでの話を聞いて切矢の能力の由来も気になり、聞いてみることにした。


「なら切矢 遼の〝黒現〟のルーツはなんだ?」


「それを聞いちゃうか。知らない方がいい内容なんだけど。切矢は昔から大量殺人を繰り返している。僕はね……毎日本や新聞を読んでいるから分かるんだ。こいつは幼い頃に親を殺し、関係ない人を何人も殺めていて何度も少年院に入っている。とんでもない奴さ」


 それを聞いて俺はあることを思い出した。昨晩のニュースだ。


「じゃあ昨晩のニュースの大量殺人事件って?」

「ああ恐らく切矢 遼だろう」


 なるほどな。奴の、躊躇い無く命を奪ったり、それを愉しんでいたような言動はここからきていたのか。


「理解してくれたかな?じゃあ話を戻すよ」

「この黒歴史という力に目覚める者たちが2、3年ほど前から世界各地で出現し始めた。能力を発現させるだけならまだいいのだけど、でもやはり現実はそれだけでは済まなかった。」

「どういうことだ?」

「この能力があれば世界を支配できると考る人間が現れ始めたんだ。それだけじゃない、数々の国が裏ではこの能力者達を軍事利用しようという動きが起きている。もしそんなことが進んでいけば世界大戦の再来だ。始まってしまえば少ない犠牲では到底済まない」


 聞かされた現状は俺が考えているよりも随分と深刻だったようだ。日常生活を普通に過ごしていた裏でこんなクソみたいなことが起きていたかと思うと心の中に虫唾が走った。


「それをどうにかしようと立ち上げた組織がこのレジスタンスだ!まだメンバーは3人だがね」


 本来なら泉を失ってなければ4人だったってことか。正直もっとはやくに言ってくれたら力になれたはずだ、泉だって……と再び様々な感情が心の中で荒れ狂い始めそうになった。


「本当は龍ケ崎 歩くん。君をもっとはやく仲間に引き入れるつもりだったんだが泉が頑固でね。巻き込む訳にはいかないって……」


 なるほどな、泉が口を閉じていたから今まで普通の生活ができてたって訳か。先程の手紙には書かれたいなかった話を聞いて俺は再び涙が込み上げてきた。


「以上で簡単な説明は終わりだ。そういえばまだ自己紹介をしていなかったね。僕は叡智(えいち )(けい)、勘違いされないように言っとくがこう見えても女性だよ!」


 俺は左袖で涙を拭いながら、再び決意を固めた。


「つまり、俺にレジスタンスに入って泉の意志を継げってことだな?」

「ああそういうことさ。それと、泉の遺体は僕が結界内に隔離しておこう!いつか泉とまた顔を合わせるその時のためにね」


 そういうと彼女は杖を振った。杖の先端から空気が渦を巻くように発生し、たちまち泉の体を吸い込んだ。


「泉は助かるのか?」


 彼女はまるで泉が助かるような物言いをしていた。俺は当然その言葉が気になり食い下がった。


「僕は確信している。簡単な話さ、僕らと同じような能力者の中には、人を生き返らせる能力を持つ者がきっといる。だから探せばいいのさ。それには泉の体が必要だろうし腐敗が進まないように隔離する必要もある。そのための結界って訳さ」


 これを聞いて、俺は恵に対する考えを改めた。と同時に誤解とはいえ手を出してしまったことを深く反省した。


「手を出してすまなかった。俺に出来ることがあるなら何でも協力する! だから泉を助けてくれ!」

「こちらこそ先程はいらぬ誤解をさせて申し訳なかったね。泉の事を大事に思っているからこそ悲しさを表に出すまいと思ってね。泉は必ず助けるつもりだから大船に乗った気持ちでいてくれ。歓迎しよう! 龍ケ崎 歩」


 こうして、恵と握手を交わした俺は正式にレジスタンスの一員となった。


 これからのことについて作戦会議をすると言うことで時刻は2時をまわっているが、この場所に1時間後に再集合が告げられた。


 美麗が空き室を1つ貸してくれた上にシャワーと暖かい食事を余り物ではあるが用意してくれたので、一通り済ませた後暫し休息をさせてもらった。

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