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08 異空鳥

   【異空鳥】



「とにかくここから離れましょう」


 アーディはそう言うと、美夜の手を取り立たせた。

 そして自分が着ている黒の騎士服の上着を脱ぐと、美夜の肩に掛けてくれる。


 いやー、本当に紳士だなぁ。


 美夜のいた世界でそんなシチュエーションなんてマンガの世界くらいじゃないだろうか。いや、美夜が知らないだけで一般的な恋人同士ではあるものなのかな? 異性と付き合ったことのない美夜には分からない。

 そんなことを思いながらも、美夜はありがたく上着を借りる。

 着ている黒のワンピースは生地が薄くて、日が暮れてきた森の中では肌寒い――。


 そこで美夜は思い至った。


 ――そういえば借りたマントを放ってきちゃったのではないか。混乱していたとはいえ、他人様から借りたマントを!


 あわわわわっ。


 途端顔色を青くする美夜に気が付いたアーディが、美夜をのぞき込む。

「顔色が……。どうかなさいましたか」

 美夜はぶんぶんと首を振って、マントを無くしたことを謝罪する。

「す、すみません。今から探して――」

「いえ、それには及びませんよ」

 走りだそうとする美夜を、アーディが片手で抱きとどめる。

「でも……」

「大丈夫、たいしたものではありませんから。それよりこの森の移動は危険ですから」

 そう言われては、先ほど獣に襲われた恐怖が蘇る。

「ですから大丈夫ですよ。それよりここから離れたいのですが、ひとまず魔界へとご案内してもよろしいですか?」

 美夜の心情をおもんばかってくれたのだろう。


 本当に優しい人だ。


 そう確認してくれるアーディに、美夜は頷いた。

「もちろん。よろしくお願いします」

 もう、アーディに付いていくと、腹はくくった。

 力強く頷いた美夜を見て、アーディも頷いた。

「では、向こうに連絡を取ります」

 そう言ってアーディが口笛を吹くと、ピーっと一羽の小鳥が飛んできた。

 ふわふわもこもこ丸くて、尾の長い瑠璃色の綺麗な小鳥。

 小鳥はアーディの差し出した指に止まった。

「可愛い〜」

 美夜は目を大きく開く。

 ふわもこもふもふを嫌いな女子などいるだろうか。いやいまい。

 例に漏れず好きな美夜も、ふらふら〜っと小鳥に手を伸ばそうとして、アーディに止められてしまった。

「うう〜、なんで?」

「すみません。触られるのを嫌う鳥なのです。逃げてしまいますので」

「そんな〜こんな可愛いのに〜」

 美夜の気持ちなど知らんぷりで、小鳥は毛づくろいをしている。

「この鳥は異空鳥。名前の通り異空間を自由に行き来できる鳥です。この鳥に私達の居場所を知らせてもらって、向こうから召還してもらいます」

 ハテナっと小首を傾げた美夜は、ああ、と思い出す。

「呼び出すことはできても行くことはできないんでしたっけ」

「そうです。召還術はあくまで呼び出すためのもの。自分で開けて異界へ渡ることはできません」

「ってことは、向こうの世界に召還してくれる人がいるってことですか?」

「はい。召還術に長けた陛下の部下がおります」

 その言葉に美夜の表情が曇る。

「その陛下っていうの、いやです」

 とほほっと肩を落とす美夜に、アーディは苦笑する。

「魔王陛下を心酔している者ですので、呼び方はじっくりと話し合ってください」

 ええー。

 それってなんだかとても嫌な……。

 そう思っている間に、アーディが指先に止まった異空鳥を飛ばす。

 ピーっと一声鳴いて、瑠璃色の小鳥は突如虚空に消えた。

「えっ」

 理解していると思っても実際目にするととても驚いた。だっていきなり目の前で鳥が空に消えたのだから。

 目を白黒させていると、ああ、っとアーディが美夜を振り返って微笑んだ。

「無事連絡ができたようですね。召還が始まります」

 アーディが指さして先。目の前の空間に光が射したと思ったら、それが広がっていく。キラキラした光が満ち、虚空に美夜がこちらに呼ばれた時に見たのと似た魔法陣が浮かび上がる。


 これのせいでこんな目に……、とか。

 今度はどんな世界なのか……、とか。


 ふと、怖じ気付いたのを気が付かれたのか。

「いきますよ」

 そう言ったアーディが美夜をひょいっと抱えあげる。

「いやーーーーっ」

 恥ずかしいのと、怖いので、出た美夜の言葉は光の渦の中に消えていった。


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