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04 魔王陛下

02で出した美夜の苗字を変えました。

突然の変更すみません。

  【魔王陛下】



 どれくらい移動したのだろうか。

 美夜はどこかの山の奥深く。森の中の大きな岩にふわりと降ろされた。

 ずっとぎゅっと目を瞑っていたから、目を開いたらすぐ近くにそれはもう整った顔があって、美夜は、はわわわわっと奇声を発する。

「大丈夫ですか? どこかお怪我を?」

 仰け反った美夜の両手を包み込んでその美形は慌てたように詰め寄ってくる。

 前も言ったが美夜は美形どころか男性にさえ免疫がない。

 ひゃぁぁぁっと内心悲鳴を上げて、慌ててブンブンっと首を横に振った。

「だっ、大丈夫ですっ! どこも怪我してません!」

 美夜のその言葉に黒髪短髪、美形の男性はホッと息を吐く。

「ああ、ならばよかった。私は治癒系の魔法が使えませんので」

 魔法、というワードに美夜は我に返る。

 ――魔法?

 美夜を苦しめた「魔」という言葉。

 美夜は自分の手を引っ込めて、怯えたように問いかけた。

「あ、貴方は誰?」

 この人には助けてもらった。――でも自分は本当に助かったのか?

 そんな疑問が美夜の頭をよぎる。


 もうここまで色々あると疑心暗鬼も頂点だ。


 怯える美夜にその男性はちょっとだけ困ったように微笑んで、綺麗な所作で美夜に膝をついて頭を下げた。


「名乗るのが遅くなり大変失礼しました。私はアーディ・クラストフ。貴方の――魔王陛下の筆頭騎士です」


 でた――――――っ。魔王の文字。しかも陛下っていう意味不明の敬称がついてるんですけど!


 美夜は心の中で叫ぶと、気を失いそうになる。

「待って。待ってください。私はそんな大層な者ではありません――――――っ! 魔女とか魔王とか火あぶりとか、もうたくさんなんです―――っ!!」

 もう勘弁という気持ちで叫んだ美夜の言葉に、アーディはぴくりと肩を震わせた。

「――火あぶり」

 ぼそっと呟かれた言葉は美夜の耳には届かない。

「とにかく御身の安全を優先させて頂きましたが、どういった経緯であのような状況になったのですか?」

 アーディの質問に美夜はガバッと顔を上げる。

 そこには優しく微笑む紫の瞳が。

 その優しい笑みに美夜はうるっと目を潤ませる。

 ――やっと話を聞いてくれる人が?

 ずっとずっと美夜はこのトンデモ状況に対して言いたいことがいっぱいあった。なのに誰も聞いてくれなかった。

 その寂しかったこと。

 悲しかったこと。

 それを、美夜の話を、聞いてくれる人がいる!


 美夜は叫んだ。訴えた。

 ここに至るまでの状況を。無理矢理連れてこられてからの恐怖を。


 気がつけば一気に話していて、美夜はゼイゼイと息を切らしていた。

「どうぞ」

 そこにすっと渡されたのは水の入った水筒。

 美夜は疑うことなく受け取るとごくごくと水を飲み干す。

 そうだ、ずっとのどが渇いてたんだ。

 飲んだ水が体に染み渡り、美夜はほっと息を吐く。

 そんな美夜の肩にふわっとマントが掛けられた。

「私ので申し訳ありませんが、どうぞそれをお使いください」

「あ、ありがとうございます」

 そう言えば薄着だった美夜は、ホッとする温かさの残るマントにくるまった。

「魔王陛下におかれましては、こちらでしばしお待ちいただけますか?」

 すくっと立ち上がったアーディが美夜を見て微笑む。

 ――でも、その紫の瞳が笑ってないのは気のせいだろうか。

 いや、先ほどとは違いすぎる。

 美夜は慌ててアーディの服のすそを掴む。

「ど、どこにいかれるんですか?」

「ちょっと都まで戻ります。人間がやることは常々極端だとは思っておりましたが、ここは一つその身をもって反省していただかなければ」

「ということは?」

「ご心配には及びません。ちょっと都を火の海に沈めて参ります」

「ちょっ、ちょっ、待った――――――っ」

 不穏な発言に美夜は真っ青になって、アーディの服を放さぬようにガシっと掴んだ。

「いい! いいんです!! こうして助かっているんですから、もういいんです!!」

 必死の形相で止める美夜に、アーディが困ったような表情を浮かべた。

「いえ、しかし。貴女の受けた辛さの少しでも、その報いを受けてもらわねば」

 少しでもで、火の海―――?

 それはさすがに美夜の心が痛む。というか怖い。

 美夜はブンブンっと勢いよく顔を振った。

「いいです、いいです! そりゃあ、あの人の話を聞かない王子の髪の毛全部毟りとりたい気もしますが。それ以上は望みません!」

「毛は毟りとりたいんですか?」

「いえ、言葉のあやです」

 そのまま本当に髪の毛を毟りにいきそうな表情に、美夜はそれさえも否定した。

 うん。平和が一番。

「魔王陛下はお優しいのですね」

 とても優しい顔で微笑まれて、美夜はかーっとなりながらも両手をばたばたとする。

「そ、その魔王陛下ってやめてもらっていいですか? 私は吉川(きっかわ)美夜といいます」


 そこでやっと美夜は自分の名前を伝え忘れてたことに気がついた。

 名乗られて、自分が名乗らないなんて社会人として失格だ。

 もう本当にいろんなことがありすぎたから――。

 美夜はそう肩を落とした。



明日から仕事です。更新のペースが遅くなるかもです。

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