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02 沙汰

  【沙汰】



 それから美夜は本当に地下牢に入れられた。

 じめっとした切り出した石で作られた部屋に、頑丈な格子の牢屋。現代に生きてきて見たこともないものだ。それなのにそれが今美夜の現実というのだから、もう現実逃避のように寝ることにした。

 日々の仕事の疲れがでたのか、石畳の上だというのに美夜はそれはもう見事にコテンと熟睡した。

 目を覚ましたのはどれくらいたってからだろうか。さすがに寝床には向かないのか、体中バキバキいって目を覚ます。くるりと周囲を見ても地下牢は暗くわずかなランタンの明かりしかなくて今何時だかもわからない。

 あ―――、夢じゃなかったんだ。

 起きたら部屋の床で寝てたとか、そんなオチを期待してたのに、どうやらそういう訳にはいかないようだ。

 それにしてもどれくらい寝てたんだろう。お腹空いた。

 自覚した途端美夜のお腹がきゅるきゅるなる。

 牢屋の両脇には兵士がそれぞれ直立不動で立っていたが、美夜のお腹の音にビクっと肩をゆらしたのが見えた。

 かーっと恥ずかしくなったが、そういえば夕ご飯を食べる直前にここに呼び出されたんだった。

 お腹空いた―――喉乾いた。

 こんな訳のわからない状況でも人間お腹は空くし喉だって乾くのだ。

 美夜は、ねえ、と兵士に声をかける。

「お水ないですか? 喉が乾いたんですけど」

 おずおずとうかがうように言うと、兵士達は顔を見合わせる。

「魔女が喉乾いたりするのか?」

「なあ」

 その言葉に美夜はカチンっとくる。

「魔女、魔女ってなんなの? 私は人間よ! 吉川美夜! 人間です!」

 格子に手をかけ訴えれば、兵士はでもなぁ、と美夜に視線を合わせる。

「そんな、漆黒の瞳と髪の人間なんてこの世界にはいない。魔族にしか存在しない色だ」

「日本人が黒目、黒髪なのは当たり前でしょ!」

「ニホン? どこだそれは。ここはアルケイン王国の王都。ニホンなどという国は近隣にもないぞ」

 そう兵士に言われて、ああ、と美夜はここは本当に異世界なのだと肩を落とす。

 だってアルケイン王国なんて聞いたことないのだから。

 それにしても――――。

「それにしてもこの扱いは酷いんじゃない? そっちが勝手に呼び寄せておいて、違いました、って手のひら返してこの仕打ちは!」

 美夜だって来たくてここにいるのではない。勝手に変な魔法陣で呼んでおいて、こんな拘束するなんて人権侵害だ。

「人権侵害よ。不当拘留よ。せめて食事くらい出すのは当たり前でしょう」

 美夜のお腹がまたもやググーっと音を立てた。

 でもなぁ、どうするか、と兵士達が困ったように話し出したその時。

「待て!」

 聞き覚えのある、―――そして聞きたくもない声が地下牢に響いた。

 カツカツカツっという迷いのない足音。

 そして―――。

「魔女の甘言に乗るな」

 兵士達に怒鳴りつけるような威圧感のあるその声は。

「そやつは魔女。この国を滅ぼし、破滅へと追いやる魔族の女。その女の言葉に耳を貸すな」

 予想したとおり、金髪碧眼おもいっきり王子な王子様がやってきた。

 ああ、見た目はいいのに、この人が元凶じゃないの?

 王子が来たことで、兵士達は黙り込むとさっと壁際によけた。

「魔女よ」

 王子は美夜の前まで来ると、底冷えするような視線で見下ろしてきた。ゾッと背筋が寒くなるが、美夜は心を奮い立たせて立ち上がった。それでもどうしたって美夜が見下ろされる側だがそこはそれ意地である。

「あ、貴方ねー。勝手に呼び出しておいてこの扱いはないと思うんだけど」

 ふるえそうになる足を叱咤して美夜は王子に視線を合わせる。

 そんな美夜のささやかな抵抗などないが如く、王子は美夜を見据えると口を開いた。

「――我らはこの国が今必要としている聖女召還の儀式をしたまで。こちらこそ問いたい、なぜ魔女であるそなたが聖女召還の魔法陣より現れたのだ」

「そ、そんなの私が知るわけないでしょう。第一私は魔女じゃないわ」

「まだそのようなことをのたまうか。それほど見事な黒目黒髪の者がただの人間であるはずがなかろう」

「見た目だけで判断されても困るんですけど。実際私は魔法なんて使えないわ」

 美夜の言葉に王子は片眉をぴくりと動かす。

「今は魔力封じを施しているからな。――そのような甘言で魔力を使われこの国を呪い滅ぼされては困る」

「ちょっと! 私はそんなことしないわよ」

「古より黒目黒髪は魔王の血筋と言われている。ーー私はこの国を護る者としてそなたの言葉を信じることはできぬ」

 わるーい予感が美夜の脳内を走り、無駄な抵抗ではあるがジリっと後ずさってしまう。

 この王子、目がマジだ。

「じゃ、じゃあ。どうしようっていうの?」

 ごくりと自分の喉が鳴る音が聞こえた。

 そんな美夜のおびえなど一顧だにせずに、王子はまるで裁判官のように告げた。

「この国を滅ぼさんとする魔王に連なりし魔女よ。そなたは聖なる火にて浄化することと最高評議会で決定した。時刻はこれより2時間後、心して待て」

 高圧的に告げられた言葉の中に不穏なワードを聞き取り、美夜はひくりと頬をひきつらせた。

 ――聖なる火

 ――浄化

「それって、火あぶりってこと―――――っ?」


 美夜の悲鳴は地下牢に木霊した。




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