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  作者: 佐伯 雅司
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マルクスの今日

いつも通り、広い教室の一番後ろに森ふうこは森沙江と、森冬子と座った。講義を受けるときは三人で同じ場所に座る。それがパノプティコンの現れた今日にあって、一つの法だ。今日にあって法は作るしかない。

ここで口を筆者が挟もう。パノプティコンの現れた世界に法はない。

彼女らは受けなければならない授業が一緒に、月曜日の朝あったから後ろで群れているだけだ。


黄色いパックの豆乳をストローで吸うふうこがまず講義中、口を開く。

「美味しい」

「バナナの匂い嫌いだな」

「好きナンだから。しょうがないじゃん」

「首相が、神社にお参り…」

「お参りしたかったンだから、しょうがないじゃん」

「じゃあふうこ、人を穴に埋めたなんとか人の話は?」

「にゅうすに出ちゃったんだから、しょうがないじゃん」


三人のうちのふうこ以外、ふうこを聡明な女性であると信じている。ふうこには現代人らしい節が一切見当たらないからだ。


「にゅーぅ、すにね」ともう一度呟いたふうこはバナナ味の豆乳のパックからストローを歯で引き抜き、指でもって、くるくると回して見せた。

「マルクスによれば芸術も音楽も詩も、経済体系に組み込まれているにすぎない。その力は一つの歯車にすぎない。いずれ芸術家たちは。尤もそうと自覚しているイメージの創造者たちは、死の床について経済によって指や頭を動かしていると気づく」

ふうこは走馬灯のように講義者の言葉を聞き、前に座ってスマートフォンをいじっていた男児の後頭部に、黄色い豆乳を吹き出した。


講義者の言葉が止まった。ふうこはすっくと立ち上がって、無表情に歩き出し、講義者のすぐ横の扉を出て行った。

「もう来るなよ」

ふうこの耳に、これも走馬灯のように入った言葉である。ふうこは涙を流さなかった。

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