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  作者: 佐伯 雅司
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眼科に行け

まずアパートの大家に怒られたリリルアは、こういうことを考えた。

(私はすみませんと言うが、私の身が済まないわけじゃない。言葉と心の解離を感じている人は私だけじゃあるまい。ネズミと空間の不調和を嘆く者は私だけじゃあるまい。さてはどこかへ行きたい奴がどこかにたくさんいるな)

そこまで考えて、リリルアは考えるのをやめた。歩いて大学へ向かう途中、一人首を彼女は振った。鼻腔に海の香りを入れたかったわけではない。


ここで、筆者が物語の舞台を説明する。夏である。それ以外にはないと思う。この物語の主要人物はリリルアとふうこであるし、彼女らが自由に生きる以外はないと思う。読者の今が、彼女らの今でもあると思う。


リリルアの日課はパノプティコンの周りの庭を一人歩き回ることだった。誰にも見えていないパノプティコンなのだから、リリルア一人なのは当然だが、素晴らしい庭園があるのも事実だ。彼女はいつかここに墓を建てようと心に決めていた。大学へ行く途中ここに必ず寄るし、墓を建てるにはふさわしいほどの新緑が芽吹いている。夏だけではない、冬もだ。誰が冬は草も咲かないところに墓を建てるのかと、リリルアは笑ったが、彼女自身冬に草が咲かないからせめて海が見えるのならいいかとも笑った。


草が見えるところに、本当に草の見える時間足を運ぶのは、外国人ばかりだ。リリルアは濁った水のある池の、パノプティコンのたもと、ベンチに座ってOasisの音楽を思った。また彼女は腹を抱えて笑った。


パノプティコンの周りを散歩する、海外からの観光客が歩きすがらリリルアに興味を示したようで

「日本人は池を見ながら笑うのが伝統なのか」

と微笑んで聞かれた。

「そうさ」

と言葉尻を上げて、リリルアは難なく答えた。

「私はここの近くに神のいる場所があると知ったので行きたい」

続いて海外の方が聞かれる。

リリルアは眼科の方を指差そうと思ったが、すぐにやめた。本当は自分がそこに通うべきだと思ったまでである。

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