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  作者: 佐伯 雅司
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男性的エロティシズム

夏を待っていた森ふうこは典型的な女子大生である。彼女はベッドから飛び出して、親や姉には挨拶もせず、家からも飛び出した。彼女は母親がいつも朝作り上げるはずの目玉焼きの香りが嫌いだった。ふうこは目玉焼きができあがったのを目のまえで見たことがない。目玉焼きが皿の上に盛られるのを見たことがない。

ふうこは長い反抗期の渦中にあるにも関わらず、もう咎められることはない、大学生なのだ。

ふうこが東京の郊外にある家から出た後はゆっくりと歩いて、駅を目指す。

その道にうるさい自動車が通ることはない。アスファルト中央にあるへたれ色の水たまりを飛び越え、道端の蛙の小さいのに挨拶を終え、手にした日傘を差すかささないかと迷いつつ、駅を目指す。

夏の日の月曜日…

パノプティコンが東京のど真ん中に現れたのはつい先日のこと。それでも東京は回り続けたが、ふうこは典型的な女子大生なりにパノプティコンを見た。


ふうこは駅にたどり着き、いつも通り電車に乗る。それから人の少ないまま乗ること十分、満員電車に押しつぶされ立ったままであること一時間半。十分以外、ふうこを乗せた電車は地下を通った。彼女が乗り換えに要する時間はものの一分。

乗り終えて電車の外へ出る。

日傘についた汗や泥を振り払ったふうこは、次に「縁が切れますように」と衣服を一通り左手で払い回し、歩き始める。今日はその次に取っ手の二つついた箱を見つける。

蓋は緑で、突起が二つあり、箱自体は薄茶色の箱が柱の下にある。ふうこはそれを右手で開けた。ネズミが飛び出し、ふうこの股をすり抜けていった。ふうこはびっくりしたが、すぐに人並みに押しつぶされ、その「あっ」とした口を閉じられぬまま流されていく。

暗い地下にはびこる無数の、制服姿の中高年者の波の中、唯一ふうこだけが正しくアホらしかった。


一方その頃ネズミは軍隊式の群衆の足取りをいとも容易くすり抜け、穴に入った。ここからはもうどこにもいけないから、

「さて、誰の足に潰されるのが私にとってふさわしい最後になるか」

ということを考え、一人の女子大生の股をすり抜けられた自分を褒めるべく、足の爪で毛繕いした。

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