1-5-3 目覚めてみると
絶対歴1131年16日(月)
おそらく今日はこの日で合っている、はず。
町についたあと確認してみたが、どうやら合っているらしい。町の人に不審な顔をされつつ聞いてみたり、ギルドにあるカレンダー(カウンターの向こう側に掛かっていた)を見たりしたが正しいようだ。
取り敢えず面倒事を避けるため隣町に移動したい。
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目を覚ますと、花畑の中で眠っていた。側には大きな木が生えている。視界もしっかりと両目で見える。ちゃんと生きていたようだ。
だが、辺りを見回してもあの少女が居ない。どこに行ったのだろうか…
「目、覚めた?ここにいる」
何処だ!?上半身を起こして周りを確認するが、何処にも見当たらない。
「ここ。下」
…下の方に目を向けてみる。
自分の胸元で、空魔石のペンダントが淡く光っていた。不思議な点としては、元々透明なクリスタルのようだったのが、今は金色になっている事か。だが彼女の姿はない。
そう思っていると、ペンダントの輝きが強くなって、一瞬視界を光が埋め尽くした。
視界が戻ってくると、横にさっき?の幼女が立っていた。
「ここ。目、覚めてるね。良かった」
「あ、ああ……何とか無事だったよ。ところで、今何処から出てきたんだ?このペンダントか?」
「ん。私が実体を保つ時の依り代として使ってる。契約する時は依り代を用意するもの。今回は許可は無かったけど、緊急だし、元々精霊が選ぶもので拒否できないから問題ない」
なんとそんなことになっていたとは。まあ、実際緊急時に命を助けてくれたのだから文句は言うまい。命は助かったし、五体満足。旅を続けられるし、契約とはいえ信頼出来る仲間も出来た。
「ああ、問題ない。ありがとうな。さて、一旦町に戻った方がいいだろうな。元の町に顔を出しておかないと、死亡扱いされるだろうし。もうされてるかもしれないが」
「ん。分かった。ついて行く」
「そういえば、体力は大丈夫か?俺は何とか歩けるけど、そっちは歩き続けられるか?」
「問題ない。いざとなったらなんとか出来るし、精霊だから筋肉痛とか体のスタミナ切れは無い」
どうやらそういうことらしい。ということで、契約とは何かを今になって聞きながら町へと移動した。
因みに、荷物は無かったが剣は持ったままだったし、他のものも日記だけは懐に入れていて無事だった。
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精霊との契約とは何か。ざっくりいうと、元々その土地を離れられない精霊が気に入った人間と契約して、外に出る為のものらしい。人間の方は精霊の種類によってちょっとした恩恵が得られるのと、精霊の加護によって最悪の事態を回避しやすくなるらしい。社会的にも信用できるとされるのでどちらにもいいことがある。但し、注目されるので遅かれ早かれ問題が起きることが多いらしい。
ところで、ラナになんの種類の精霊か聞いて見たところ、
「………分からない。そもそも精霊自体が自然が多くて妖精の多いところに出来た、一際多くの魔力が煮こごりみたいなものになって生まれていて、その集まった属性に左右されてるみたい。だからはっきりとは分からない。私は全部がバランスよく混ざってるみたいだから、四大属性の火、水、風、土だと思う。他のも一応使える。多分かなり珍しいタイプ。普通は一種か、二種。二種だと混ざって特殊なものになることが殆ど。な気がする」
「ふむふむ。というか、『気がする』というのは?」
「それは、元々そういうものだという知識が最初からあるかんじ?精霊は不思議。自分でもよく分からない」
……自分自身のことも良くわかっていないらしい。まあ、そういう人間も自分自身がよく分からないことは多いのだから、そういうものだとするしかないだろう。
「おう…そうか。分かった。なるほど。ありがとう」
「ううん、これは普通のこと。そう」
基本無表情だが、こういう時は視線を合わせようとしないようだ。そして耳は少し赤くなっていた。と、川をふと見た時。
「ん?」
何か違和感を覚えた。とはいえ、見えるものは川の中と自分の顔ぐらいで……
「右目が……金色になってる……」
そう、倒れる前に斬られた右目だ。元々黒かったのに、右目だけ金色になっている。
「それは、妖精の目。治す時に普通には治らなくてそうした。色は元には戻らない」
「マジか。これ、ギルドに戻った時どうやって説明しよう。後、よく考えたら死んだと思っていた冒険者が幼女を連れて現れたとなると騒ぎになりかねん」
「それは片方は大丈夫。次の町に行くまでは、私は町の近くでペンダントに隠れるから。まあ、次の町では紹介して欲しい。町の中を歩きたい」
「分かった。目は何とか誤魔化すよ……よし、次の町に行ったらちゃんと紹介するよ。パーティー登録はしておいた方が色々楽だし」
そしてようやく町へとついた。起きた時間は遅かったようで、空は真っ赤に染まっていた。
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そして冒険者ギルドの中に入っていくと、予想通りざわめきがギルド中に広がっていった。
あいつ、生きてたのか。
何か目の色変わってない?
盗賊にでも襲われたか?荷物がないぞ。
色々聞こえるが無視して受付嬢のところへ行く。
「ちょっとへまをして死に掛けてました。依頼の違約金は払います。ただ、荷物が全部盗られてしまったのでギルドカードすらなく、支払いを後日にして欲しいのと、主にギルドカード代の支払い目的でお金を借りにきました。あと、この辺に居たらまた襲われるかもしれないので隣のもう少し大きな町に移動しようと思うのでそちらで返してもいいですかね?」
最初の方は周りにも聞かせるために少し大きめに話す。続きは少し小さくして、ちょっとでも聞き取りにくいようにして興味が逸れるよう気をつけた。
「色々ありますね。分かりました。ギルドカード再発行代はお金を貸す時に先に引いておきますね。そしてその目は?もしかして…」
受付嬢の頭の中には、精霊に助けてもらったのではとの想像が浮かんでいた。実際正しい推測である。但し、契約したとは全く思っていなかった。助けてもらう人は一定数いるが、契約までする人は殆ど居ないからだ。まあ、その話が真実ならその人は信用出来る人と言え、金を貸しやすいし、そうでなくとも健康な冒険者を自ら手放してはギルドの利益にならない。
幸い、ギルドカードを作り登録する時に参照する魔力波形は人によって違い、偽造出来ないので多重登録による不正受給は防げる。そうでなければギルドは金を貸し出さないだろう。
「ああ、ちょっといろいろと。それ以上は勘弁してください」
冒険者には後暗い背景を持つ人は多くいる。言いたくないことは黙秘でき、また無用に詮索しないとの不文律が出来上がっていた。
「分かりました。それではお金をお貸ししますので、こちらの契約書にサインを。期限は1ヶ月です」
そして紙のようなものに名前を書いていく。普通は高価で口約束のみとなる所だがそこは冒険者ギルド。多くの魔物、植物素材を買い上げて販売しているし、信用ならない冒険者と契約するには必須と考え末端にまで多く用意されている。
そして自分の装備を買って、町を出る。再び町の近くの森に入り、魔法で穴を掘って寝床とした。
「ふぅ……今日は何とかなったか。さて、そろそろ寝るか。今日からは仲間も増えたし、より警戒しないと…」
「ん。それなら警戒魔法を張っておく。こっちに来た一定以上の魔力を持つものなら見つけて叩き起こしてくれる。野生動物はダメだけど、少しは助けになる?元は花畑に来た不審者を見つけるためのものだったから信頼はできるはず」
「助かるよ。あの時斬られてから、どうにも人はなかなか信用できそうにない。助かる」
そうして死の淵から目覚め、仲間が増えた日は終わり、夜はふけていくのだった。
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《ステータス》
〈基本情報〉
名前:ローレンツ
性別:男
種族:人間
職業:旅人
〈能力値〉
総合Lv.7(1↑)
HP70/140(10↑)
MP110/210(110↑)
筋力Lv.5(1↑)
魔力Lv.5(1↑)
スタミナLv.6
素早さLv.5(1↑)
防御力Lv.6(2↑)
精神力Lv.7(4↑)
運Lv.6(2↑)
〈スキル〉
[剣術]Lv.5(1↑)[弓術]Lv.3
[基礎魔法]Lv.2[生活魔法]Lv.2
[精霊の目]Lv.1(New!)
〈称号〉
〔さすらうもの〕〔サバイバル入門〕〔冒険者(E)〕〔死の淵を見た者〕〔精霊の契約者〕
〈基本情報〉
名前:ラナ
性別:女
種族:精霊
職業:旅人
〈能力値〉
総合Lv.7
HP70/70
MP1000/10700
筋力Lv.1
魔力Lv.724
スタミナLv.1
素早さLv.12
防御力Lv.1
精神力Lv.722
運Lv.1372
〈スキル〉
[精霊魔法]Lv.☆
〈称号〉
〔上級精霊の証〕〔眠り姫〕〔人見知りマスター〕〔精霊の契約者〕
スキルレベルの☆は、特殊スキルなどレベル分けがそもそも存在しないスキルや今回のように先天的なスペシャリストのスキルなどにつきます。