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終末世界のダークナイト  作者: さくらつぼむ
聖域の守護者
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12話 怒りの狭間に

「くっそ!!」



 武器庫の静寂な雰囲気をギデオンの怒声が破る。

 リンのローブを愛おしそうに抱く彼を見ながら、アイエスは必死に心の不安を堪えていた。



「まずは落ち着け、落ち着くんだ」



 その言葉はギデオンが自分に言い聞かせているようだった。

 彼は血に濡れたローブを腰に巻き、自らの頬を思い切りバチンとはたく。



「落ち着け落ち着け! わざわざさらうってことは、直ぐに殺されることはないはずだ!」

「わたしの耳でも音を拾うことはできませんでした」

「となると、定住した暗殺者の線が濃厚か?」



 この廃城に入る前、ある一人の騎士を目当てに入った二人ではあるが、以前アイエスを救ったあの騎士がこんな真似をしよう訳があるまい。

 よって別の可能性を模索する。



 二人は状況と現場を検めて情報の統合を図った。

 されども学者でも賢者でもない二人では到底何かがわかるわけもない。

 よって結論は直ぐにでた。



 二人は揃って、足元にある赤い斑点を目で追う。

 それは点々と滴り、武器庫を出た暗がりの渡り廊下にまで続いている。



「罠の可能性は高いと思うが、血の跡を追ってみようと思う。 アイエスさんはどう思う?」

「異論はありません。 少なくともリンさんが怪我をしてるなら急ぐべきです」

「よし、なら決まりだ!」

「ですが一つ確認すべきことが――」



 アイエスは武器庫の確認を終えてから行くべきだと進言した。

 敵は自分の耳にもかからない程に隠密かつ、手練のリンに抵抗させる間もなく不意打ちに成功している。

 つまり敵は知能を有してる可能性が高いというわけだ。そうなれば当然、ここの武器を使ってる可能性も生じてくる。

 二人はすぐに残りの武器を確認し、なくなった武器を報告する。



「槍が五本ありません。 弓は全部ありました」

「こっちは剣も盾もいくつかなくなってる。 その癖なぜか鎧は全部無事だ」

「敵の全容、少しずつですが掴めてきましたね」

「その通りだな」

「これらが本番です、気を引き締めて行きましょう」



 弓を強く握って凛然と顔を改めるアイエスに対し、ギデオンはさっと手をだした。



「ありがとうアイエスさん。 君が一緒に来てくれて本当に良かった」



 その言葉がなんだか妙に嬉しくなり、アイエスは照れくさそうに目を逸らしながら握手に応じる。



「早くリンさんを追いましょう。 奪われた武器の数からして、敵は一匹や二匹じゃないはずです」

「何匹でも上等だぜ! 俺のリンに手を出したことを後悔させてやる!」



 アイエスは鼻息荒く大剣を掲げるギデオンに頼もしさを覚えつつ、無意識に矢の本数を数えながら彼の後に続く。

 二人は息を潜め、うっすらと不気味な渡り廊下へと足を進めた。







 渡り廊下を歩きだしてからは陽射しがなく、暗い通路ではギデオンの燃え盛る大剣が唯一の光源である。



 渡り廊下を歩きだしてからほどなくして、二人の歩く速度は落ちていた。

 アイエスが鋭い目でじろりと床を見ているためだ。

 まるで獲物を探す追跡者のように。

 当然ギデオンは彼女の様子に気付き歩調を緩めた訳だが、その顔は答えを求めている表情だ。



「なるほど」



 小声でつぶやくアイエスの声を拾い、ギデオンは立ち止まった彼女の隣に立ち訝しい目線を投げる。



「どうした?」

「恐らくですが、リンさんは傷こそ負ったものの重傷ではなさそうです」



 ひっそりと小声でやり取りすると、ギデオンはあごに手をやり小難しそうな顔で考え込んだ。



「理由を聞かせてくれ」



 アイエスはその場でしゃがむと滴る血を指差し、そのまま廊下にある点々とした赤い斑点をなぞるように指し示す。



「落ちてる血の量と間隔です」



 淡々としたアイエスの答えを理解したようで、ギデオンの顔が次第に綻んでゆく。

 冷静になって見れば確かに血の斑点は小さく、また間隔も開いていた。

 状況を整理してアイエスは答えを推察する。



「きっと背後から不意打ちされて、気絶したところをさらわれたのでしょう。 幸い引き摺られた形跡も見られません」

「なるほど、よく気付いたな」

「た、たまたま偶然ですよ」



 まさか森で魔物を狩猟した時に培った経験だとはとても言えなかった。

 殺し損ねたまま運んだ時の血の跡と似ていると思ったからだ。

 そんな迂闊をしてしまえば、魔物には目覚めるなり大暴れして逃げられるのがお約束である。

 在りし日の思い出の魔物にリンを重ね、きっと大丈夫だろうと希望を抱く。

 胸にあるロザリオを優しく握りしめ、アイエスは立ち上がった。



 さほど距離は長くはないが、心労故に神経を幾分か擦り減らした二人は、ふうと溜め息を吐いて一つの扉まで誘われた。

 目の前には鉄の十字架が貼られた木の扉が開け放たれており、ギイギイと小気味悪い音を鳴らしている。

 十字架の上にある鉄板には『地下墓地カタコンベ』と書かれている。



「ちっ、いかにもな場所に俺のリンを連れ去りやがって!」



 言いながらギデオンは依頼書の別紙を手にし、廃城の地下墓地の地図を見やる。

 そしてそれをアイエスに渡す。



「悪いが、ここから先は大剣こいつを振り回すだろうから両手が塞がる。 今の内に少しでも頭に叩き込んでおいてくれ」



 地図を受け取ったアイエスは睨みつけるようにそれを見やり、大まかに暗記する。



「了解です。 光源はそちらに、案内ナビゲートは私に任せてください」



 一人旅をしてた頃、アイエスは世界地図を毎日見てたので暗記には自信があった。

 実際に地下墓地は、決して賊などを迷い殺す目的ではないためシンプルな造りだった。

 左回りに時計回りをすれば概ね大丈夫そうである。

 それに生物の息遣いならば、この耳で捉えることができる。

 ならばリンの発見や魔物への先手などは自分次第だと思い、俄然熱意を燃やすアイエスだった。



「よし、準備は良いか?」

「問題ありません。 参りましょう」



 ギデオンが気を引き締めるべく、腰に巻いたリンのローブを強く巻きなおす。

 すると布切れの音がし、ギデオンは僅かに苛立つ。



「くそ、破れちまった」

「ギデオンさん落ち着いて、冷静に行きましょう」

「ああ」



 ギデオンは深く息を吸うと、両手で燃え盛る剣を構え、重苦しい扉の向こうへと進む。

 アイエスは早くも脳裏に地下墓地の地図を思い浮かべ、弓に矢を番え、耳を澄まして後に続く。

 リンの変わらない笑顔を求め、二人は真っ暗闇な地下墓地へと下りていった。

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