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終末世界のダークナイト  作者: さくらつぼむ
聖域の守護者
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10話 始まりの舞台

 一同は武器庫へと着いた。

 大きな倉庫みたいな場所だが、防具の脱着をするためだろうか、高みにある窓からは陽射しが入りこんで視界は悪くない。少なくとも廃城に入ってからは一番良いように思えた。



「うひょ~! 見渡す限りに武器の山だな」

「なんでそんな元気なのよ」

「なんだよリン、俺が武器防具にロマンを感じる人種って知ってるだろ?」

「好きなのは伝説級の聖剣とか魔剣だけかと思ってたわよ」



 アイエスは二人の賑やかなやり取りは気にせず、一人緊張していた。

 この武器庫には、剣と槍と弓、甲冑と盾、更には砲台までありとあらゆる戦争で使われていた兵器が眠っている。

 人気がなく武骨で殺風景なこんな場所なら、あの黒き騎士がゆっくりとまどろんでてもなんら違和感はない。そうアイエスは思った。



 ――考え過ぎかな?



 仮に黒き騎士が実際にいたとして、あんな目立つ甲冑を見逃すことはないだろう。

 もし会えたなら、あの夜に言えなかったことを今日こそ言おう。そう心に決めた。

 アイエスは一人力み、首から下がる黄金のロザリオを握り締めた。



「それじゃここは視界も良好だし、武器の数も多いから手分けしてぱぱっと終わらせるか」



 反対する者はおらず、一同は散って各々の持ち場を見て回った。







 アイエスの担当は弓だ。

 武器の確認とはいっても、何も一つ一つ不具合を検めるわけではない。

 ただ盗賊に盗まれてないか、あるいは不意に侵入した獣や魔物に壊されてないかを調べるのだ。

 武器は全て台に立てかけてある。乱雑に扱われてるものなど一つたりともない。



「綺麗……」



 感歎の眼差しで目の前に並ぶ弓を見る。

 台に納められた自分よりも大きい弓が、陽射しを受けて艶やかな光沢を放っている。

 そんな立派なものが横一列にびっしりと並んでいるのだ。アイエスが感動するのも無理もない。

 手に取るのもおこがましい。そういうオーラが弓の一つ一つから漂っている。

 ここに備えられしは、命を賭して戦場へと赴く騎士に用意された武具なのだ。



 ――ギデオンさんの気持ち、ちょっとわかるかも。



 ほんの僅かながら、武器に対するロマンを感じ取ったアイエスだった。

 そういえば武器確認の担当は、リンが槍で他は全部ギデオンだ。それも自ら買ってでたのだから、彼の武器に抱くロマンは相当なものだろう。



 アイエスは様々な弓を見て回った。

 大弓が終わると、次は遠距離用の長弓やら威力に主眼がおかれた角弓など、一口に弓といっても様々な種類がある。

 これらを一目しただけで用途の違いを理解できるアイエスも相当な弓使いなのは言うまでもない。



「私も森にいた頃は色々と作って使い分けてたな」



 森でのことを思い出しながら歩いて回ってると、壁には矢筒が吊るされていた。その下にはいくつかの樽が置かれており、矢が乱雑に収納されていた。



 ツンとした刺激臭に鼻をつまむアイエス。

 漂う匂いですぐにわかった。火矢にする為に油に浸したまま放置されてるのだ。隣の樽は毒矢だろう。

 人間とエルフの戦争が終わってもう五年にもなるというのに、いまだ形跡が残っている。

 戦争の惨さというのか、なんだかやり切れない気持ちになったアイエスは早々に矢の確認を終えた。



 武器庫というのは騎士一人一人にとって戦争を始める場所なのである。

 彼らはどんな想いで戦場へ向かったのだろう、アイエスは悠久の勇者たちに想いを馳せる。



 人間とエルフは遥か昔よりいがみ合い、争いを繰り返してきた。

 五年前の戦争は領地を巡ってのいざこざが始まりだという。

 ポーチから母手書きの地図を取り出してみると、人間とエルフの住まう境界線が引かれているが、いくつかバツ印が書かれている。

 そこは争いになった場所を示しており、どちらの領土とは書かれていない。

 だがバツ印の数だけ戦争があったと考えると、アイエスの心は沈む。

 自分を生んだ両種族が争うなんて話は、彼女にとっては心の痛む話でしかないのだ。



 かぶりを振って手書きの地図をしまう。

 弓の確認は終わったので、二人の手伝いに行こう、そう思ってまずリンのいる槍のならぶ場所を目指した。



 たてかけた槍がならぶ場所でも厳かな雰囲気が漂っていた。

 弓同様に様々な種類の槍が横並びにびっりしと並んでいる。

 厳かな空気をまどろむように、さきと同様にこれらの武器を使っただろう騎士たちをおもんばかる。

 多様な槍の種類についつい心奪われ、自分も槍を作ってみようかなどと考えながら、槍を見てまわる。



「!」



 歩いていた槍の中、石造りの床の上にある見慣れたものに気づき、アイエスは突如不安に駆られる。

 すぐに駆け寄り、床にある手にしたそれはーー

 血に濡れたまだ生暖かいリンのローブだった。

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