9話 暗闇の中で
廃城の中は暗がりだったが、窓から差し込む朝陽のおかげで一堂の予想よりは酷いものではなかった。
とはいえ、このまま進むのはさすがに憚られた。
誰がいうでもなく、かちかちと石打ちの音がなる。
火花が飛ぶとすぐに光源が闇に灯った。
ギデオンの大剣を真っ赤な炎が覆う。刀身が焼かれ太陽みたいな色に染まる。
「大きな光源ですね」
炎に照らされるギデオンを見つめ、アイエスは少し驚いた様子だ。
「カンテラなら私も持ってるんだけどね。 これもいつものパターンなの」
「私が光源魔法使えないばかりにすみません」
「いいの気にしないで。 どのみちギデが使わせないだろうし」
「その通りだな」
燃え盛る大剣を松明のように掲げながらギデオンが歩きだす。石造りの床を踵が叩くたび、コツコツと無機質な音が響く。
湿気と塵埃がまじる廃墟特有の空気に包まれながらアイエスとリンが続く。
「まあ魔法は貴重ですからね」
「いや、暗い場所ってのはどうしても光源を持ってる奴が先導しなきゃならないからな」
「それなら神官よりも、前衛の剣士の方が向いてるでしょ? だからアイエスちゃんは気にしないで」
「なるほど確かに」
アイエスは口に指をあて頷くと、不意にヴェールの奥にある長耳がピクッと揺れる。すぐに先を歩くギデオンの肩を掴む。
「ギデオンさんストップ!」
「うおっ!」
間に合わずギデオンが一歩だけ進む。
すると、石造りの床が沈下して崩れ始めた。
バラバラと音をたてて塵埃を巻き上げ、どんどん穴が広がってゆく。
「下がって!」
「おう!」
アイエスとギデオンが後退りをすると、すぐにぽっかりとした大口が床に開いた。
そこにギデオンが近寄り大剣の炎で照らすと、底は見えずに真っ暗な闇が広がっていた。
大口を覗きながらギデオンは冷や汗を拭う。
「危なかった」
「お怪我はありませんか?」
「ちょっと、二人とも大丈夫!?」
リンが急いで二人に寄り添い、無事を確認するなり胸を撫で下ろして溜め息を吐く。
「しかしよく気付いたねアイエスちゃん」
「え、ええ~。 森で暮らしてるとクマの足音に敏感になるんですよ」
「こりゃアイエスさん。 真面目に神官&野伏を名乗っても良いんじゃないか? 臨時で需要あるぜ」
アイエスの心に焦燥が走る。
今のは正体がばれそうだったのではないかと、つい言葉がたどたどしくなってしまった。
しかし老朽化した建物なら今みたいなこともあるだろう。
「そうですね。 神官&野伏としての道も一考しときます」
冗談まじりに苦笑いで答え、一堂は城内の調査を再開した。
調査には主に三つの目的があった。
一つは城の老朽や痛みの具合を確認することだが、これに関してはもう要修復という他ない。
残りの二つは、武器庫の確認と地下水の持ち帰りである。
「しかし武器庫の確認はまだわかるが、なんで地下水なんかいるんだ?」
「たぶんですけど水質検査では? 人が住める環境かどうかの確認として」
「それはありそうね」
「なるほどな。 とりあえず近場の武器庫から行くか」
「場所わかるんですか?」
「依頼書の別紙に城の地図がある」
「でもさっきみたいに劣化してる道もあるだろうし、油断はしないでね」
一堂は声を広い通路に響かせながら進む。
この後に待ち受ける恐怖のできごとを知る由もなく。
これにて加筆完了です。
社畜なものでご容赦ください。




