疑問
「図書館は閉館しなくて良かった〜!」
少し声を抑えながらも本音を口からするりと発する火障に、抄は案ずるところが違うだろうとため息をついた。
図書館は開いているとはいえ、すぐ隣は厳重警戒、黄色いテープの蛍光色が日光に反射して目を突いてくる。
「……あの子の口にはアザミが入ってた」
「えっ!……メモの……」
「そう、普通に考えて、花言葉のメッセージは、いじめられてた子なのかなって」
ー【私に触らないで】【安心】
「案外短絡的なんだな…」
抄がそう呟いたとき、火障がぐっと腕を引っ張ってきた。
「橘さん、あれ……!」
火障の指した方向を見ると、チカチカと点滅する蛍光灯の下のあの本棚のメモを挟んでいた本に手にとった女子生徒がいた。
「…まさか!」
抄と火障は女子生徒に走り寄った。彼女のホーム章には【1-C】の文字。
「ねぇ、あなた、この間起きた事件のこと、知ってる?」
抄が尋ねるなり、女子生徒は目を見開いて肩を強ばらせ、1歩後ずさる。
「待って!貴女、もしかしてその子に…」
火障が言うと女子生徒は苦しそうに息を荒げはじめ、よろけた。二人は慌てて奥の事務室へ運び込んで落ち着かせた。
しばらくの間女子生徒は黙り込んでいたが、徐に口を開いた。
「…どうして、私ばっかり……!
私は被害者なのに、あっちが死んだからって私が疑われて!外に出ても噂ばっかり!こっちがどんなに辛かったかなんて気にも留めない!」
再び取り乱す女子生徒を必死に宥める火障の横で、抄はやはりこの子が、と冷静に分析していた。ある程度落ち着くと、なるべく柔らかく問うてみた。
「……あのメモを書いたのは、あなた?」
「…メモ?」
「そう、あなたの取ろうとしてた本に挟まってたの」
「いいえ?あの本を手に取ったのは今さっきがはじめてです」
ー即答してるし、殺したのは確かにこの子じゃない。
黙りこんだ抄をカバーするように、半ば慌てて火障が「ご、ごめんね、貴女を困らせるつもりじゃなかったの」と言う。
抄が名前を尋ねると、「伊藤…相利です」と控えめに応えた。相利ちゃん、ごめんね、とそれぞれ詫びると、会釈して去っていった。
抄が残された本を捲っていると、メモのページが見つかった。
ー新しくなってる!
「火障さん!これ…!」
《主人公はまず、隣町の不憫な少女を助ける事で自分の力を実感する。その少女が自分に執着するようになるとは知らず。
【ガマズミ】》