曇天
翌朝、抄は返事が来るか妙に気になって早めに家を出た。朝は門が開くのが抄にとっては遅い時間なので、いつものように裏のプールの近くにあるフェンスを越えた。すると、プールからシャワーの音が聞こえているのに気がついた。朝なのに誰だろう、と思いながら通り過ぎようとしたが、一向に止まる気配はない。
不審に思ってプールのフェンスによじ登ると、
ーそこには、プールに浮かんで、死んだ魚のような目で曇天を映す女子生徒の死体があった。
「なに……これ」
抄の頭は衝撃的な光景にただ疑問符を量産していた。ホースで首を巻かれ、口からは、一輪の、アザミの花。
ここで漸く死んだ人間を見ていると脳が気づき、猛烈な吐き気が襲ってきた。
「うっ……!っはっ、はっ、」
呼吸が苦しい。フェンスを落ちるように降り、必死に息を整える。アザミ。アザミ。なんだっけ。
『【アザミ】』
『独立、とか、わたしに触らないで、とか、そんな意味じゃなかったかなぁ?』
ーーー!!……図書室の、メモ……!
「おい、どうした!そこの君!大丈夫か!」
裏門を開けにきた警備員に、抄はただプールを指さすことしか出来なかった。
その日、学校は臨時休校となり、抄は第一発見者として警察にその光景を説明しなければならなかった。後から聞いた噂で、被害者は1年生で、いじめグループの1人だったらしい。丁度事情聴取が終わった頃、お見舞いの言葉をついでのように添えて、狙ったかのように火障がメールを送ってきた。
《あ、この前言いそびれてたんだけど、アザミにもういっこ、『安心』ていう花言葉があるんだって!またメモに進展があったら教えてね〜(^-^)》
ー私はとんでもない沼に足を踏み入れようとしているかもしれない。