双葉
その翌日、抄はクラスメイトで図書委員の火障桜に昨日の出来事を話していた。昼休みにいつもお弁当を食べる友達の、歪んだ【2-A】のホーム章を直してやってから、【2-B】の教室に戻って火障に話しかけに行った。普段一緒に話す仲でもないので火障は驚いていたが、すぐに話に興味を持ってそんなことは忘れたように食いついてきた。
「へぇ!面白い!それに返事してみたら?」
「ひ、火障さんは変だから放っておこうとはおもわないの?」
「なんで?そんなロマンチックな人だったら、もしかしたらそこから恋が始まるかも……!」
言いかけて、火障は普段の妄想癖が出てきたことに気づき、しまったと口を噤んだ。それに苦笑しながらも抄の意識は別に向いていた。
「ねぇ火障さん、アザミの花言葉って知ってる?」
「アザミ?確か『わたしに触らないで』とか、『独立』とか、そんな刺々しいやつじゃなかったかなぁ?」
「…そうだよね、文章と花の関連性がよく分からないんだよね…」
「そんなことより!そのメモ英語で書いてたんでしょ!?」
「そうだけど」
「すごい!それをスラスラよんでたの!?橘さんやっぱり頭がいいんだね!」
「そんなことは…」
「それにそれ書いた人もやっぱりロマンチック!アザミの花言葉も、ツンデレアピールなんじゃ……」
またやってしまった、と顔を引き攣らせる火障の腰まである長い髪を見ながら抄の脳内推理は停滞していた。
その日の放課後、早足で図書室に向かった抄は、本にメモが挟まっているのを見て高揚感を覚えた。
『返事してみたら?』
火障の声が唆すように蘇ってくる。
0.3のシャーペンで、【こんにちは】【あなたは誰ですか?】と書いた。その日は長居せずに帰路についた。