死から逃げる
走る。走る。走る。
薄暗い森の生い茂る木々の間を縫うように。出来るだけ最短で。森をぬけてしまえばこちらのものだが、後ろから追って来るあいつらに捕まれば待っているのは死だ。
死ぬのは嫌だ。せっかくクソッタレな人生が楽しくなって来たところなんだ。死ぬのは何が何でも嫌だ。
だから走る。死から逃げる。
足の速さは同程度のはずだ。だから、とにかく全速力で。だが転ばないように。今まで何度もさせられたんだから出来るはずだ。
私なら出来ると信じて!あともう少し!
光が見えた。木々が途切れた。森を抜けた!
つまり、勝ちだ!
やっと外の人々のような生活が送れる!
足を止めその場に倒れこんだ。大きく深呼吸をした後、辺りを見回す。
今では本でしか見ることのなかった光景がそこにはあった。
これが、日の光か。風の匂いか。なんと素晴らしいのだろう。
もう背後から足音は聞こえない。奴らは日の光の下では存在できないのだ。おそらく諦めてあの屋敷へ帰っていったのだろう。
自由だ。これからはあんなに痛い思いはしなくていい。死ぬほどの毒も飲まなくていい。
全てから解放された感覚。しばらくそれに浸り、やがて立ち上がった。
眼前に広がるのは地平の彼方まで続く草原。
人里までどれほどの距離があるのだろう。だが辿り着けないことはないだろう。
生まれて初めての外の世界なんだから。
ゆっくり楽しみながら行こうか。