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第三活 個別免刹(こべつめんせつ)

選別者が現れ、いよいよ自分たちの脳力を確認する時だ。

第三活  個別免刹こべつめんせつ


 「――ではこれから一人ひとり、脳力を見させてもらいます」

 セオがまた “パチン ”と指を鳴らすと、白い空間に黒く大きな扉が現れた。

 「それではまず都道府県別に、北から南へといきますか」

 そう言うと彼は、テーブルを見渡し奥の方に座っていた、あのパンチグマシンで注目を浴びた巨漢の男を指差した。

 「キミからだ、北海道出身の【近藤こんどう ちから】クン」

 “ガタン ”と巨漢を起こし、立ち上がった。

 「では選別者の方たちは各々の適合者の皆さんと、お呼びするまでお話でもしていた下さい。あとこれからの面接は、私と選別者の二人体制で適合者の方の、脳力を見させてもらいます。時間は一人につき、大体二十分程度です」

 すると選別者たちが、それぞれの適合者の元に向かい歩き出した。

 当然カルラは俺の所に向かって歩いて来る。

 そんな俺は近寄る彼女を見て、高鳴る心臓を無理やり抑え込もうとしていた。

 彼女は俺の真後ろに立つと何も言わず黙ったままでおり、そんな彼女に対して俺も何を話したらいいか分からず黙っていた。

 そうこうしている内に近藤は、自分の選別者とセオの二人に導かれ黒い扉の中に入っていった。


 ………………。


 十分くらい経っただろうか。周りの奴らは選別者と、普通に会話しているが俺たちはまだ黙ったまま、話せずにいた。

 (なんか話した方がいいかな)

 俺はそう思い、

 「カルラは選別者だったんだね」

 「うん」

 ……。

 (話が続かない! どうしよ~)

 「あのさ……」

 カルラから話しかけてきて、俺は “ビクッ ”と反応してしまった。

 「剛田さんたちの事はゴメン。みんなを助けようとしたんだけど……私の力不足で」

 さっきの無機質な感情の彼女からは、想像もつかない言葉だった。

 「いや、カルラのせいじゃないよ。あの後どうなったか俺には分からないけど、カルラは剛田さん達の事もなんとかしようとしたんだろ? その結果が悲惨だっだとしても、運命にはあらがえないよ」

 背中越しだったが彼女が “うん ”と頷くのをなんとなく感じた。

 「ただ……そのグリーゼ人とかいうの……俺は許さない!!」

 俺は歯を食いしばって言った。

 「いきなり攻撃してきやがって……俺ら地球人が何をしたってんだよ。一体何人の命を奪い、誘拐して、体を勝手にいじり、自分たちの思い通りに動く機械として扱うなんて……それこそ老若男女問わず家族や友人、恋人とかも……」


 (――ん? ……)

 突然ふと俺は、何かとても大事な事を忘れているような感じがした。

 (俺は何で職安にいたんだっけ?)

 ある意味、ちょっとした記憶喪失だったんじゃないかと思った。

 なぜなら今、その忘れていた、とても大事な事を思い出したからだ。

 「トモミ……そうだトモミは……」

 一瞬にして顔面が蒼白になった。彼女の存在を何で忘れていたのか、自分自身に怒りさえ覚えた。【神仲かみなか トモミ】それが俺の彼女の名だ。

 「カルラ……、に聞いても分からないか」

 「彼女さんですか?」

 「え? なんで分かったの?」

 「ごめんなさい、今はあなたにだけ集中しているもので、つい心を読んでしまいました」

 「そっか、カルラもセオと近い力を持っているんだよね」

 「多分セオさんと私の力で、あなたを強制的にこの空間に飛ばしたから、その衝撃で一時的な記憶喪失に……。でも戻ったら真っ先に、彼女さんを探しましょう」

 カルラの言葉に涙が出そうだった。

 「ありがとう。でも謝らないで。結果はどうあれ、俺は生きてこの場にいる。それはカルラのおかげでもあるんだよ。だからその為には、俺自身が力を身に着けなくちゃな。あれ? そう言えばなんでカルラやセオ、他の選別者たちは薬も飲まずに、四十パーセントの脳力を出せるの?」

 何故そんな質問をしたのかは、薬を飲んだならとっくに効果はきれているはずだからだ。なのにその時間制限を過ぎてまでも、力を使えているのを疑問に感じていた。

 「それはLCを液状にし、それを直接脳に注射したから……それによって、時間制限なしに四十パーセントの力を引き出せているの」

 「だったら俺にも時間制限無しの注射をしてくれよ。そうすればグリーゼ人たちを一体も残らず倒してやる!」

 俺は拳に力を込めて言った。すると彼女は、

 「……それは無理」

 「――何で?」

 俺は食い気味に聞き返した。

 「もうそのLCの注射器は無いし、作れない。……仮に作れたとして、それを脳に注射しても……五年しか生きる事が出来ないの」

 「そ、そ……んな」

 俺はカルラの悲しそうな顔を見て、思わず固唾を飲んだ。

 「薬もそうでしょ? 効果が強ければ強いほど、副作用も強くなるの。その点あなた達に渡した薬に、副作用はほとんど無い。ま、用法容量をきちんと守ればの話だけど」

 そう言ってカルラは、無理に微笑みながら話してくれた。

 「じゃ……カルラは……」

 彼女の命の期限が気になり、問いかけようとした時、

 「――でも後悔はしてないよ。私も奴らを……グリーゼ人を許せないから。だからこの力を使ってみんなを守ってみせる」

 俺はその時、カルラから強い意志を感じとった。

 「ああ、そうだな……力を貸してくれ、カルラ。そして地球を取り戻そう」


 …………。

 あれからどのくらい経っただろうか、ついに自分の番が来た。

 「では神奈川県の武山孝クン、キミの番だ」

 セオが俺に手招きをしながら言った。

 俺は大きく息を吸い「はい!」と勢いよく立ち上がる。

 そして黒い扉をくぐり抜けるとそこには、

 「……これは…街?」

 思わず威勢よく扉をくぐり抜けた足が、急停止した。

 なぜなら自分の目の前には、普通に街の景色が広がっていたからだ。

 「ここはキミたちがいた街を具現化したもので、本物ではないよ。言わば大きいジオラマと思ってくれればいいかな。よく特撮映画などで使われている、あんな感じだよ」

 そうセオが説明してくれた。

 「黒い扉をくぐり抜けた時に、適合者それぞれの街が自動的に実体化する。これは私の力ではなく、別の管理者が作り出した空間だ。ここなら思い切り力を発揮出来るだろう」

 「思い切り……か……、ちなみに人はいないんですよね?」

 俺がそう言うと彼は笑いながら、

 「ハハハ、流石に人までは具現化出来ないよ」

 (だよな。人がいたら脳力を使って、思い切りなんて出来ないだろうし)

 俺も頭を掻きながら、

 「はははっ」と笑った。

 「あとキミたちが着ているスーツだが、見て分かる通りリクルートスーツだよ」

 (やっぱり。どう見ても就職活動中です、的なオーラを放つ服だとは思ったけど)

 「だが只のリクルートスーツではないよ。そのスーツは脳力に耐えられるように作られ、またあらゆる衝撃にも耐性を持っている。つまりはヒーローが着るようなスーツをコンセプトに、研究者たちが作り上げた物なのだよ」

 「なるほど、そんなにすごい物だったんですね。見た目や着心地なんかは、ホントただのスーツなのに」

 「ちなみにそのスーツには、名前もちゃんと付けてある」

 「はい? ……名前ですか?」

 「そう、これからキミたちが着用する物だからね。一応会社が支給しているような形だから、そのまんま制服とか、作業着とかで呼ぶんでは、折角のヒーロースーツが台無しじゃないか」

 (いや、もうヒーロー前提になっちゃっているし) 

 と、セオのキャラが変わってきている事に、一抹の不安をおぼえた。

 そんな事を思っている俺に、気付かずセオは言い続けた。

 「キミたちはそのリクルートスーツに身を包み、私の会社へ面接に来て見事採用されて、入社した感じだと思ってくれ。ここで求人情報の仕事内容だが、今までの説明通り、地球を取り戻すこと、グリーゼ人を駆逐することだ。それにはそのスーツがとても重要な物になる。言わば地球外知的生命体と戦う初めての戦闘服、その起源、つまりはルーツになる。それを含めて付けた名が……」

 勿体ぶった言い方に “ゴクリ ”と唾を飲みながら、素晴らしい名を期待した。

 ……。

 「リクルーツ!」

 「――ダサッ!」

 間髪入れずに俺は思わず叫んでしまった。それを聞いてセオは、

 「……今のところ皆、同じ反応をしているな……」

 そりゃそうだろうよ。あの力説からして、何かカッコいい名前が聞けるかと緊張していたのに。ただリクルートスーツに、起源のルーツを合わせただけなんて。研究者たちは何も言わなかったのだろうか。

 「研究者たちで会議をして、満場一致で決まった名だったのだが」

 (研究者たちもかよ!)

 と俺は心の中でツッコミをいれた。と言うか、俺はむしろこんなに凄いスーツを作り出した天才研究者たちなのに、ネーミングセンスがなかったことに落胆した。

 「何はともあれ時間がないので始めさせてもらうよ」

 セオが真剣な顔つきになった。

 「では早速LCを飲んで下さい。錠剤が小さいので、水などなくとも、そのまま口に入れて流し込むか、噛み砕いて飲むか、どちらでもいいですよ。効果はすぐに表れます」

 そうセオが言ったあとに、俺はもらったタブレットケースの中から一粒錠剤を取り出した。

 だがいざ飲もうとすると、手が止まる。

 心のどこかでこれを飲んだら死ぬんじゃないかと思ってるのかもしれない。

 それでも俺は意を決し、口の中へと流し込んだ。

 …………。

 “ドクンッ ”

 自分自身の肉体が幾重いくえにも重なるような感覚におそわれた。

 身体が激しく燃えるように脈打つ! 

 それと相反して脳は冷静さを保っている。

 それを見ていたセオが、

 「ほほ~、これはまた珍しい!」

 と顎を触りながら答えた。

 自分がはたから見たら、どんな感じに見えているのか気になった。

 「なるほど、キミの場合は新陳代謝しんちんたいしゃを高め、土台となる肉体を、一番力が発揮できる年齢に戻す事が出来るのか」

 俺にはセオが何を言っているのか、さっぱり分からなかった。

 するとカルラが「はい」とポケットから手鏡を渡してきた。

 (なんだ? 自分の顔を見ろって事か?)

 と思い手鏡を顔の前にかざした。

 「え? ……これは……俺?」

 手鏡を持つ手がふるえた。

 「俺……だよな。はははっ……でも俺は俺でもこれは一体?」

 鏡の前の自分は、十代後半か二十代前半の頃のようだった。

 「まさか本当にこんな事が……」

 「ビックリしたかい? 私もキミの能力にビックリしているよ。だがまだキミの真の力を見ていない。今の状態はこれからの脳力に適応する為に、脳が反射的にそうしたんだろう」

 とセオは真剣な面持ちで話した。

 「そうなんですか……確かにLCを飲む前より、体の底から力が湧きあがってきているのを感じます」

俺自身三十代になり、身体の衰えを感じ始めていた。それは筋肉痛が二日後にくるとか、予期せぬ病気、尿路結石やらイボ痔、

 (ってしもの病気じゃね~か)

 あとはやたらと片頭痛があり苦しんだ時も。

 (うれしい! ……身体が若返るのがこんなうれしい事だとは)

 少し涙ぐんできた。

 そんな事を思っている俺に、水を差すかのようにセオが言った、

 「喜んでいるところを申し訳ないのだが、恐らくキミの今の状態はLCの作用で若返っているので、効果が切れれば元のオッサン、あ、いや年齢に戻るだろう」

 (こいつ今、オッサンって言ったよな。お前に言われたかね~よ)

 と心の中で毒づいた。それに俺自身そんな事は分かっていた。

 「それは分かっています。でも一時でも若返れたのがうれしくて」

 「ああ、そうか、それは余計な事を言ってしまったね。すまない」

 と彼は素直に謝った。

 「では早速だが身体能力から計らせてもらおう」

 セオがそう言うと、床からまたあのパンチングマシンが出てきた。

 「これは先程の物とは違う。LCを飲んだ【覚醒者かくせいしゃ】の為に作ったものだよ。だから思い切り殴っても壊れたりしないから……あ、武山クンの場合は、まずちゃんと狙いを定めてから殴ってね」

 とクスクス笑いながら言った。

 (このジジィ~、バカにしやがって!)

 最初のパンチングマシンの事を思い出したのか、セオは俺の事を小馬鹿にしているようだ。

 (よし、見てろよ~、度肝を抜いてやるぜ!)

 心の中の炎にまきをくべた。

 そしてパンチングマシンの前に立ち、俺はセオに言った。

 「もしかしたら、このパンチングマシンを壊してしまうかも知れませんよ」

 そう言うと、

 「大きく出ましたね~、では期待していますので、思う存分やって下さい」

 とニヤニヤしながら見ている彼の顔を、マシンの中心の部分に思い浮かべ、俺は思い切り振りかぶり、殴った。

 “ドーーンッ ”

 と静かな街並みの空間に、爆発音が轟く。

 「ふ~、壊れはしなかったか。やっぱ頑丈に作られているな」

 と俺は手ごたえを感じ “どうだ! ”と言わんばかりにセオに向けて、手をブラブラして勝ち誇っていた。

 デジタル表示が結果を出した。

 “1500 ”と表示された。

 それを見てセオが、愕然とした表情をしている。

 (そうだろう、なんせ普通の状態とはいえ、巨漢の近藤より六倍もの数字をだしたのだから)

 とますます勝ち誇りながら、俺は彼の言葉を待った。

 「武山くん……キミは一体……何者なんだい?」

 「いや~、自分でもこんなに力が出せるとは思っていませんでした。ただ一つ言えるのは……自分が只者ではないと言う事でしょう」

 俺の鼻は、天まで届かんばかりに伸びていた。

 「そうだね、キミは只者ではない」

 彼はあっさりと認めた。

 「言っていいものなのか……」

 (?)気のせいか俺にはセオが、笑いを堪えているように見えた。

 「あ~武山クン。とても言いにくいのだが……キミの出した数字は低い方なのだよ。LC時の男は平均でも二千ぐらいだ。今の所、この数字は一番低い。ちなみに現時点の最高は北海道代表の近藤クンで四千だ」

 俺の天まで長く伸びた鼻は、根元から “ポキリッ ”と折れた。

 「ウソでしょ……俺は平均以下? ちょっ……もう一回やらせて下さい!」

 というと突然 “ダンッ ”と轟音が響いた。

 見るとカルラがマシンの前に立っており、どうやらマシンにパンチをくりだした様だ。そしてその数字は、

 “2100 ”

 「へ?」と、俺の声は裏返ってしまい、素っ頓狂すっとんきょうな声を出していた。

 セオは “あちゃ~ ”と感じで、顔に手を当てていた。

 そこへカルラが来る。

 「大丈夫。私は女の方でも力がある方だから、落ち込まないで。あなたのパンチ力は平均より、少し低いだけだから」

 (……慰めになっていない)

 「ん~、とりあえず次の測定を始めようか」

 セオが俺の肩を叩きながら言った。


 「――今度はジャンプ力を見させてもらおう。武山クンにはこれを付けて、その場で思い切り垂直跳びをしてもらう」

 そうゆうとセオが、俺にベルトの様な物を巻いてくれた。

 「そのまま飛ぶと、腰に巻いたベルトのデジタル部が、何メートル飛んだかを表示させてくれるよ。パンチングマシンの時の様に思い切りやってくれ」

 そう説明を聞き終わると、俺は息を深く吸い、今度こそ天まで届かんとばかりに、渾身の力でジャンプした。

 “シュッ ”

 この空間の建物がどんどん小さくなっていく。

 「――え? ちょっ……高っ!」

 ジャンプの最高到達点に達したぐらいだったので、あまりの高さに俺はあたふたと足をバタつかせた。

 「あ、これ……着地する時どうするんだ?」

 そう思うと俺の顔は青ざめた。

 だがもう遅い。

 どうにでもなれと思い足に力を入れた。

 “ダンッ ”

 と鈍い音と共に、地面に亀裂が入る。なんとか俺は無事に着地出来た。

 多少足が痺れたぐらいで、特に身体にダメージはなかった。

 「大丈夫ですよ。スーツの他に、靴も強化されていますから。まー仮に、何も着用してなかったとしても、今の身体状態ならば問題なく着地出来ただろうけどね」

 セオは俺の顔色を悟ったのか、俺が聞く前に説明してくれた。

 そして俺の腰に巻かれたベルトを外すと測定器を見た。

 「うん、36メートルか……、それでは次の測定が最後です」

 (あれ? 今のジャンプ力はどうだったんだろう。高いのか低いのか、それとも平均だったのか教えてくれると思ったけど)

 そう考えたが、その事を聞いて、また俺はショックを受けるかもしれないのでやめた。


 「――最後は100メートル走です」

 セオが言い終わると、床からポールの様な物体が出てくる。

 それは100メートル先にも同時に現れた。

 恐らく計測する為の装置だろう。

 「ではシグナルが青になったら、全力で走って下さい」

 そう言われ、俺はスタート位置に着き、かがんでクラウチングスタイルをとり、合図を待った。

……。

 “ピンッ ”赤、

 “ピンッ ”黄色、

 “ポーン ”青!

 と同時に俺は前傾姿勢のまま地面を蹴り上げ、目線はゴールを見据え、全力で突っ走った。

 「――え?」

 気付いた時には既にゴールポイントのポールを過ぎていた。俺はその場で息切れする事もなく、呆然と佇立する。

 するとセオが近づいてきた。

 「ふむ。4秒67か……」

 (4秒台? ―――確か有名な陸上選手が持つ世界記録でさえ九秒六ぐらいだったぞ)

 「ご苦労様。以上で身体測定は終わりだ」

 「はぁ……」

 (あれ? 今回もこれと言ったリアクションがないぞ。……もしかしてあまりの凄さに驚いているのか)

 

 「――では測定内容から話します。三つの測定をA~E、五段階にランク付けしています」

 (ふむふむ、それで)

 俺はドキドキしながらも冷静さを装い、傾聴けいちょうしていた。

 「まず筋力ですが……、Eです」

 (うん。それはパンチングマシンの結果から大体の予想は出来た)

 「そして跳躍力は……、Cです」

 (あれ……? そんなもんだったの?)

 「最後に速力……、Bになります」

 (あれでBって……マジか)

 「総合して武山クンは……普通です」

 「――普通って!」

 俺はセオの言葉に、思わず漫才のツッコミばりに声を張り上げた。

 (ここでも普通って言われると……思わなかった。……俺の人生に普通以上なんて、きっとないんだ)

 俺の体は膝から崩れ落ち、四つん這いの格好になり、頭は項垂れていた。それを見てなお、彼は言った。

 「ん~、これでは大した戦力にはならないな」

 “ガーーン ”

 (セオは俺の事をどうしたいんだ? いじめる相手が欲しかったのか?)

 俺の頭は地面に、めり込まんとばかりに突っ伏していた。

 惨めさと恥ずかしさで、穴があったら入りたい、と思うぐらいの衝撃力を放つ言葉だった。

 「だが……もしかしたら……」

 セオが何やら考え込んでいるが、今の俺にはどうでもよかった。

 すると一部始終を傍観していたカルラが、

 「大丈夫、何事も普通が一番よ」

 (だから慰めになってない!)

 痛恨の一撃に俺の体は持ち堪えられるはずもなく、四つん這いを通り越して、うつ伏せに寝る格好になっていた。

 「もういいよ……ほっといてくれ!」

 「すまないが武山クン。もう一度確認させてほしい事があるのだが……起き上れるかい?」

 セオが俺を見て、苦笑いを浮かべながら言ってきた。

 「確認ですか? 今度は何をしろと? 事務作業か何かですか?」

 俺は皮肉を込めて言った。

 「いや、ひょっとしたらキミには、別の突出した脳力があるのかも知れない」

 「突出した脳力?」

 「そう、予知能力者の話を憶えているかい? その人も予知能力以外は至って普通だったのだよ。だからもしかしたら武山クンにも、特殊な脳力が使えるのじゃないかと思ってね」

 俺は一瞬で立ち上がった。

 「何をすればいいんですか?」

 「やる気マンマンね」

 カルラが呆れた顔で言った。

 「まず目をつぶり、意識を脳に集中するようにしてみてくれ」

 (意識を脳に……難しそうだな)

 だが俺はセオに言われた通り目を閉じ、集中した。

 …………。

 「何か見えてこないかい?」

 セオの問いに俺は、

 「いえ、……特に何も」

 「そ……うか、ん~、むっ!!」

 セオが何か気付いたようだ。

 「予知が無理なら別の脳力かもしれない。他の国の管理者から聞いた話では、思い描いた武器を具現化させる人間がいるらしい。武山クン、何か……武器になりそうな物を頭の中で思い描いてみてくれ」

 「分かりました」

 俺は目を閉じ、集中した。武器になりそうな物といったら、銃などの火器類だろう。

 …………。

 「……ダメだ」

 銃自体に詳しくなく、大体で想像したが何も起こりそうになかった。

 「武山クン、なにも銃じゃなくて、キミが一番想像しやすい物でいいのではないかい?」

 (心を読むなよ!)

 と思いつつ考えた。

 (俺が想像しやすく、かつ強力な武器……あっ!)

 自分の趣味の一つに、全てを充たす物があった事に気付いた。

 そしてそれを頭の中で思い描くように集中し、右腕を前に突き出し、さらに握り拳を緩め、手の平を広げた。

 ――――身体の周囲から風が巻き起こる。

 すると【それ】は現れた。

 手の指を折りたたみ、それを強く握った。

 ズシリと重みが腕に伝わる。

 俺は実感した。

 これだ!

 「こ……これは……」

 俺の起こした風に、白髪の髪をなびかせながら、セオが驚嘆の眼差しで見ている。

 「それは……刀か?」

 「はい! 俺の趣味の一つです」

 「渋い趣味を持っているのだね。でもこれで分かった。武山クンの場合は頭の中で想像した武器を、具現化する脳力なのだよ。でも欠点がある。詳細に描写しないと現れない事だ」

 「確かに、さっき銃を思い浮かべましたが、もやがかかったみたいで想像しづらかったです。その点、刀は趣味――というか好きで、よく専門誌を読み漁っていましたから。だから自分の所有している模造刀もぞうとうを頭の中に描いてみました。うまくいって……ん?」

 ある違和感に気付いた。

 「どうしたの?」

 カルラが頭を傾げながら聞いてきた。

 「いや……これ、模造刀じゃなくて……真剣だぞ!」

 俺は自分が具現化した刀を、まじまじと見ながら言った。するとセオが、

 「確かに見ると刃が立っているね」

 そう、模造刀ならば刃は丸みを帯びており、斬れないように出来ている。だが今、手にしている刀には刃が鋭く尖っている。

 「と、言う事はこの刀、実際に斬れるんですかね?」

 「試してみたらいいじゃないか」

 そう言うとセオは “パチンっ ”と指を鳴らすと、案山子かかしが現れた。

 「言い忘れていたが、私も具現化の脳力者だ。あくまで武器ではなく偶像物に限るがね」

 (なるほど、だから色々と出したり出来るのか)

 今更ながらに気付いた。

 「では早速、この案山子を斬ってみせてくれ」

 「分かりました」

 実際、刀を使う機会なんてない。

 だがDVDやネット動画などで斬り方は覚えている。

 それをまず試してみた。

 ――シュンッ!

 案山子の左肩から、右下脇腹を綺麗に斬って見せた。

 「ほう、袈裟切りか。見事!」

 (……マジで斬れた)

 「……すごい」

 とカルラも呆気にとられていた。

 「これ本物だ……でも何故、模造刀ではなく真剣が出てきたんだ?」

 俺が疑問に感じていたらセオが、

 「恐らく描写プラス、強い武器という思いが、無意識に働いて真剣として具現化出来たのだろう。つまりは武山クン。キミは想像力が、ズバ抜けているのだよ」

 「そうなんですか。だからその分、身体的能力は普通なんですね」

 「他の人たちもそうだよ。何か突出した脳力を必ず持っている。北海道の近藤クンは、筋力が凄まじく、茨城の鬼塚クンは、瞬発力が高かった。想像力は具現化する脳力だ。もっと鍛えれば私の様に、様々な物を出せるようになるだろう」

 「なるほど、わかりま……し……」

 突然目の前が歪んで、そこで俺の意識は “プツリッ ”と途切れた。


次章ではいよいよ戦闘の準備が始まる。そこには選別者、適合者の他にも……。

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