プロローグ~第一活 終活(しゅうかつ)
現代SF物です。この小説はライトノベルになりますのでご理解ください。
菊池秀行先生の作品やAKIRAなどのSFアニメ好きの方、見ていただけたら感想下さい。
今回はプロローグと第一章までですが短く読みやすいかと思いますのでよろしくお願いいたします。
プロローグ ある男の就活人生
新卒者が入社式へと向かうであろう電車内、俺はスーツを着て吊革に掴まっていた。
だが俺の場合は、新卒者でもなければ会社員でもない。就職活動中の無職である。そんな俺がスーツを着ているのは、一社会人としての優越感に浸るための自己満足ではない。これからとある会社の面接に向かっているためだ。
満員の車内では、緊張しているのかネクタイを何度も締め直している男がいた。年齢も俺より若く見え、恐らくは新卒者だろうと勝手ながらに想像していた。それを横目で見ながら電車に揺られるのは、仕事が決まっていない身としては何とも居心地が悪い。
――数十分後、目的の駅で降りる。
そこから歩いてまた数分、今回の面接場所である○○会社に着いた。この会社はそれなりに名の知れた中堅会社である。
思わず緊張してネクタイを何度も確認し、締め直す。
(あ、さっきの新卒者っぽいヤツと変わらないな。俺の場合は入社式じゃないけど)
などと思いながら深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。
「よし! 行くか!」
――さらに数十分後。
「はぁ~」
面接を終えた俺は大きくため息をつきながら、駅へと続く道を歩いていた。
ため息をついた理由は面接での手応えを感じなかったからである。
それもそのはず、俺は高校を中退した人間だ。中退した理由は学校がつまらなかったというだけで、それを面接で言える訳もなく、いつもそれとない言い訳をしてはやり過ごしていた。こんな俺を自動二輪車と普通自動車免許のみ、それ以外これと言った資格無しで雇ってくださるような気の毒な会社などないだろう。そう落胆しながら家路へと向かう。その足取りは家の玄関を出る時よりはるかに重くなっていた。
――さて、ここで自己紹介をしておこう。
俺は【武山 孝】三十歳の独身で住まいは横浜市の都市部から離れた旭陵区、一軒家の借家で両親と同居している。親が健在だから生きていけている状態の社会的底辺にいる男である。
だが意外な事に俺には彼女がいる。
唯一の心の支えとなってくれている人物だ。
しかしそんなある日、彼女のその一言に全身が凍りついた。
「次の私の誕生日までに仕事が決まってなかったら……わかるよね?」
(これはマジでヤバい!)
と、いうのも彼女の誕生日は二週間後なのだ。
――わかっていると、頭の中では真剣に考えて就職活動をしているのだが今まで百社は受けているだろうか、一向に良い返事をもらえてない。
この世の中がいけないのか、俺が悪いのか、ハッキリ言って人生に絶望していた。
一発逆転を狙って自分で起業しようかとか色々と考えたが何にしても金が絡んでくる。
なので自分に出来る人生の一発逆転劇は……宝くじを当てるぐらいしか思い浮かばない。
「……金……金…………金、金金かねカネ……」
頭がおかしくなる。
そんな俺は遂に、
「あ~あ、ロールプレイングゲームみたいに、モンスターを倒したらお金が手に入る世の中にならないかな~」
と、ありえない事を呟く始末である。
ハッキリ言って重症だ。
「何かないか……何か……」
漠然とした言葉しかでてこない。
自分自身、何がしたいのかも分からなくなってきた。職を探すにしても今までこれといった経験はないし、色々と面接を受けてはいるのだがこの世の中、就職氷河期だ。テレビなどで改善されてきているとは言ってもごく一部の企業だけだろう。
ましてや経験や資格の無い俺にとって職に就くのは非常に難しい。
書類選考の段階で履歴書が返ってくる。
「……お帰りなさい」
と物言わぬ履歴書に向かって喋りかける。
そんな毎日が続いていた。
そんな絶望している俺は毎日妄想で、世の中がゾンビだらけになったらとか、隕石が落ちてきて地球が滅亡の危機に瀕したらとか、そんな有り得ないシチュエーションを心の何処かで望んでいた。
“――ヴゥ~ン……ヴゥ~ン ”
昔の携帯電話のバイブ音で、毎日目を覚ます。
「ん~、……はぁ~」
ため息から俺のつまらない一日が始まる。恒例行事の様なものだ。
「今日の予定は……レンタルビデオ店で世界終末系のSF映画でも借りて観るか」
その言葉のあとに俺の心は突然ざわついた。
彼女から言われた言葉が脳裏を過ぎる。
“――次の私の誕生日までに ”
先程自分が言った言葉に対して、
(……そんなんじゃない! そんなんじゃダメだ! 俺が今、何より怖いのは心の支えとなってくれている彼女を失う事だ! 俺が……俺自身が変わらないとダメなんだ!)
「ちくしょ~。……俺は何を考えて……」
憶えている限りでは、今までの人生の中で涙を流した事は数回しかないのに、久しぶりに目から涙は流れた。
――俺はその日、レンタルビデオ店ではなく、職業案内所に向かってバイクを走らせていた。
第一活 終活
俺がいつも通うハローワークは横浜市の方より隣の山人市の方に来ている。
何故かと言うと、俺の住まいは横浜市の都心部よりかなり離れていて、隣町の山人市の方が近いのだ。
――到着したはいいが入り口の前では結構な人が溢れかえっている。このご時世だ、みんな必死なのだろう。その中には十代後半と思わしき少年も交じっている。こんな若いのも仕事探しに苦戦しているのかと、世の中の現実を思い知らされる。
施設の中に入ると、人の密集度はかなりのものだった、求人検索機を見るのに番号札を取って数十分待つぐらいだ。
――三十分後。
ようやく自分の番号が呼ばれた。
検索機の前に行くとタッチパネル式のパソコンがある。
そこで自分の希望条件を入力すると、それに合う仕事がズラリと画面にでる。
(……ん?)
一番上、トップに出た求人に目が留まった。
求人内容はこうだ。
・勤務地{ 各都道府県、転勤なし、出張あり }
・仕事内容{ お問い合わせ下さい }
・経験、年齢、資格{ 不問 }
・待遇、給与{ 面接の際、ご説明します }
・面接地{ お問い合わせの際、ご説明します }
(なんだこれ?)
いつもの俺ならこんな怪しい求人はスルーだが、なぜか無性に気になり、気付くと印刷ボタンを押していた。
それ以降これといった求人は無く、俺は受付に行き先程の求人について聞いたが、また番号札を持って呼ばれるまで待つようにと言われた。
――三十分後
番号を呼ばれ、求人紹介担当のところに行った。
「今日はどの様なご相談ですか?」
「あの……この求人について聞きたいのですけど」
と先程コピーした用紙を渡した。すると担当者は、
「ん? ……これは変だな」
担当者は首を傾げながら不思議そうに求人内容を見ている。
「どうしました?」
それに対して俺は何かとたずねた。
「あ、いや~、この求人を見るとほとんど詳細が載ってないんですよね。普通こういうのは受理しないのだけど」
(確かにそうだよな。こんな求人怪しすぎる!)
「でもどうします? 一応電話番号の記載はあるみたいなので問い合わせてみますか?」
(いやいや、そこまでするんだったらいいや)
と思い俺は言った。
「あ、お願いします」
「分かりました。では電話かけてみますね」
(ん? あれ? ……思っている事と言っている事が違うぞ)
そうこうしている内に、担当者は電話をかけている。
「もしもし、こちら山人市の職業案内所です。――お世話になっております。いただいております求人の件で、ご応募したいと仰っている方がおられるのですが――」
(ちょっと待て! 俺はどんな仕事なのか聞きたかっただけで、応募するなんて一言も言ってないぞ!)
「――はい……はい……分かりました。では折り返しお電話されるという事ですね。少々お待ち下さい」
すると担当者は電話の送話器部分を手で押さえ、
「電話番号を相手に伝えてもよろしいですか?」
(え? いきなり? 怪しすぎだろ! 絶対ダメ!)
「いいですよ」
(まただ……、思っている事と言う事が違う! 俺……疲れているのかな、何でもいいから仕事をしろって脳が指令をだしているのか?)
「さん……」
「……さん……」
「武山さん!」
ハッ、と我にかえると担当者は既に電話を終えていた。
「電話番号を伝えたところ、折り返し連絡するとの事です」
「あ……、有難う御座います」
俺は担当者にお辞儀をし、席を立った。
“ウィ~ン ”
自動ドアが開く。
「う~ん」
その自動ドアの機械音と同じに、俺はため息交じりで小さく唸った。
それになんだか頭がフラフラする感じがする。
とりあえず俺はその場で大きく深呼吸をする。少し倦怠感が抜けていった。
気付くと目の前に数人の男達の集団がいる。年齢はどの人を見ても、俺よりはるかに上だ。歳は五十~六十歳といったところか。
その人たちは何をするでもなく笑いながら煙草をふかしている。仕事を探しに来ているというより、もう仕事探しを諦めている感じを受けた。
それでも何もせず一人でいるのが寂しいのか、怖いからなのか、自分の現状に近しい同志を見つけては集まり、お互いを慰め合っているように俺には見えた。
そんな俺はその人たちに対して見下すように、
「この人達みたいになったら、もう終わりだな」
と、聞こえないように小声で呟いた。
その時、集団の中から、くたびれた青いパーカーを着た人物がこちらに向かって歩いてくる。
(ヤバい、聞こえたかな)
胸の鼓動が早鐘を打つ。なるべくなら関わり合いたくはない。俺は少し後ずさり、目線を下に逸らす。
するとこちらに向かって歩いてきた人物が俺の前で立ちどまり、声をかけてきた。
「あんちゃん、なんかイイ仕事あったかい?」
突然声をかけられた俺はビックリして、
「ふえぃっ!」
と声や悲鳴とも分からない様な奇声を発してしまった。
てっきり俺はさっき見下した言葉が聞こえて、それに対して文句を言いに来たのではないかと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。
そう安心したが、自分の脳内では小さな俺たちが緊急作戦会議を開いていた。
頭の中の俺、
俺A(どうする? 無視する?)
俺B(いや、それはこの人に対して失礼だよ!)
俺A(じゃ~なんて答える?)
俺C(普通にいい仕事は無かったです。でいいんじゃない?)
俺B(よし! そう答えてこの場をすぐに離れよう!)
俺A,B,C(決定!)
コンマ何秒の会議であったが、意見はどうやら一致した様で、俺はこう答えた。
「いや~自分に合うイイ仕事は何もなかったですね~」
と俺は普通に答えて、立ち去ろうとした。するとまた男が声をかけてくる。
「そうかい、あんたみたいな若者が職探しで難儀しているとはね~、ところであんたは何処から来てんの?」
(ウザい! なんなんだよこのオヤジは! 話しかけてくるなよ)
心の中でそうつぶやいて、俺は作り笑顔で返した。
「横浜市の方からです」
言ったあとすぐに踵を返して、帰ろうとするとまたもや男が、
「へ~、遠くから来てんだね~」
(別にそんなに遠くはね~よ)
そう思い、俺はその言葉を無視して行こうとすると、なんと他の仲間たちが来るではないか。
俺の脳内で今度は、ゲームのコマンド選択が出てきた。
一 たたかう(相手を傷つけるのは犯罪です)
二 じゅもん(使えません)
三 どうぐ(携帯電話がある)
四 しらべる(何を?)
五 ようすをみる(ん~、それはこの人たちに付き合うという事か)
六 にげる(あからさまに逃げたら、次に来て会った時に気まずい)
さてこの選択次第でどうなるか。
“ピコン ”
と頭の中で決定音が鳴った……様な気がした。
三 どうぐ(携帯電話)
俺はスマホを取り出し、誰かから電話がかかってきたかのように演技をし、この場を離れようと考え、それを実行した。
「あ~もしもし。――お~どうした? ……うん――うん、それで?」
と話しながら去ろうとすると、最初に声をかけてきたオヤジが、
「あんちゃん、それ財布じゃね~か?」
(……なぬ?)
しまった。俺は焦ったからか、思わずスマホではなく、財布で会話の演技をしていたのである。
それを、こちらに向かって来ていた集団の一人が、
「アハハハハ、お兄ちゃん面白いね~」
(あはははは……じゃね~よ! こっちはウケ狙ったワケじゃね~んだよ!)
恥ずかしさと怒りが混在する中、思わずパニックになってしまった。
「笑って頂けたようで、つかみはオッケーですかね?」
(何を言っているんだ俺は! これではまるでこの連中の中に、解け込もうとしているようではないか)
「いや~あんちゃんがこんなに面白いヤツだと思わなかったな~」
最初に声をかけてきたオヤジが言った。
(お前だよ、お前が声をかけてこなければ、こんな事にはならなかったんだよ!)
人生の先輩であるとは思うが、俺はこのオヤジに対してイライラしてきた。
「あんちゃん、名前はなんてんだい?」
「武山です」
「タケヤマって、竹藪の竹に山かい?」
「いや武士の武に山です」
「ははは、武士って感じじゃね~な」
(こんのクソジジィ~!)
と思いながらも、最初のオヤジと自然に会話をしている自分がいた。
そしてなぜか俺は、このオヤジの名前を聞きたくなり、
「ジジィ――あ、いや、おじさんの名前はなんて言うんですか?」
「ワシ? ワシは【剛田】ってんだ、よろしくなあんちゃん」
(下の名前はたけしじゃね~だろうな、もしそうならジャイアンって呼んでやるからな!)
そう心の中で思いながらも、
「そうですか、強そうな名前ですね」
そう言うと剛田のオヤジは気分を良くしたのか
「強いもなにも昔は喧嘩で負けた事がないガキ大将だったんだぞ」
(……やっぱジャイアンって呼ぼうかな)
すると、周りのオヤジたちも会話に入ってきた。
「俺だって近所じゃ~、ちった~名の知れたワルだったんだぞ」
「俺も昔は……」
「オレはね~……」
なんかオヤジたち同士で、しょ~もない武勇伝の語り合いが始まってるぞ。
「あの~俺、ちょっと用事があるので……」
俺はなんとかこの場を離れようとしたが、全然聞いてない。すると剛田のオヤジが、
「オイオイ、もうそのぐらいにしとけ~! あんちゃんがしらけちゃってるじゃね~か」
その言葉に周りのオヤジたちは頭を掻きながら申し訳なさそうにしている。それを見て俺は剛田のオヤジがこの連中の、リーダー的存在であることが分かった。
すると剛田のオヤジが、話題を変えて話し始めた。
「そういや~話は変わるが、一昨日の夜遅くに、奇妙な物を見ちまったんだよ」
周りのオヤジたちも、いきなりの話題に面食らっている。その中の一人が剛田のオヤジに、
「変な物ってなんだよ? 幽霊とかゆ~んじゃね~べな」
( ん? なんだ? いきなり真昼間から怪談話ですか)
と思いながら、剛田のオヤジを見ると、真剣な面持ちで語っていた。
「幽霊なんかじゃね~よ。ワシがいつもの様に、缶ビール片手に街灯の無い裏路地を歩いていた時なんだけど、夜で暗かったのに突然だよ! 空がピッカ~って眩しいくらいに明るくなったんだ。その明るさに目が慣れるのにしばらくかかった。そして次に空を見たときには何か光る物体が浮かんでたんだ」
周りのオヤジたちはキョトンとしている。そしてすぐその中の一人が、
「剛田さん、あんたそりゃ酔っぱらってたんだよ。じゃなきゃ~流行りのドローンとかっちゅ~ヤツじゃないか」
その言葉で、周りのオヤジたちは一斉に笑った。
馬鹿にされたと思ったのか、剛田のオヤジは顔を真っ赤にしながら、
「バッカヤロ~!! 酔っぱらっててこんなにハッキリ憶えているかってんだ。あとそんなドローンみたいにちっせ~もんじゃね~わ。ありゃ百メートルぐらいはあった」
それを聞いて、また周りのオヤジたちは笑いそうになっていたが、グッと堪えていた。確かに剛田のオヤジの言っている事は現実的じゃない。それはまるでUFOを見たと言っているようなもんだからだ。
俺的にはUFO、と言うより宇宙が好きな俺にとっては、必ず何処かの惑星に知的生命体がいると信じている。だからといって、缶ビール片手に歩いていたオヤジの言うことを、素直に受け入れられるわけもない。だが剛田のオヤジは話を続けている。
「しばらくワシは動けずに空を見ていたんだが、どうやらその物体は音もなく、少し回転しているようだった。まるでテレビで観た事がある、UFOそのものって感じだったな」
ついに剛田のオヤジの口から、UFOの言葉がでた。
すると周りにいたオヤジたちは、剛田のオヤジの与太話に付き合ってられん、といった感じで別の話をして盛り上がっていた
「――あいつら~」
剛田のオヤジは怒りを露わにしている。だが俺だけは少し剛田のオヤジに、興味を持ち始めていた。
「すいません剛田さん、その話もっと聞かせてください」
そう言うと剛田のオヤジは機嫌を良くしたのか嬉しそうに、
「そうか、あんちゃんだけはワシの話を信じてくれるんだな」
(いや、まだ信じた訳じゃないんだけど……まぁいいか)
剛田のオヤジは話を続けた。
「それでな、他にも人が見てるだろうと思って、周りを見回したんだがワシ以外誰もいないんだわ、そりゃそうだわな、深夜二時ぐらいだったからな~」
「でもその剛田さんの周囲に人がいなくても、その物体が目立つようなら、見ていた人は必ずいると思うんだけど」
「確かにそうなんだよな~。ワシの他に見た人間がいたら、みんな信じてくれるんだけどな~。でもあとで気付いたんだが、ワシがそれを見ていた時間はほんの数秒だったんだよ。だって辺りを見回して視線を空に戻した時には、もうその物体はいなくなってたんだ」
(ん~、そうか深夜の二時にほんの数秒だけだったら、例え一人か二人その物体を見ていたとしても、自分の中でただの見間違いと思ってしまうかもしれない。そうじゃないとしても剛田のオヤジみたいに、周囲の人に話したって信じてくれないだろうな。まぁ俺も百パーセント信じたわけじゃないけど……いや――むしろ半信半疑ってところだな)
そう言いながらも、なんだかんだで想像を膨らませている自分がいた。
(でも仮に本当だとすると……あ――やべ~すっげ~ワクワクしてきた。だってこの広い宇宙で人間以外に知的生命体がいるって、もう決定したも同然じゃん。NASAが動くかな~、日本以外にも同じUFOが現れているのかな~、宇宙のどこら辺の惑星から来たのかな~。……やばい、俺の趣味の一つである、宇宙好きが発動してしまった)
すると突然、俺の後ろから声が聞こえた。
「私――その物体って言っているやつを見たよ」
声のする方へと振り向く。そこには二十歳ぐらいと思われる女性が立っていた。
(メッチャ可愛いじゃん……、いやそこじゃね~だろ! 今この子はなんて言った? 確か私も見たと言ったよな)
「お、お嬢さんも見たんかい?」
剛田のオヤジが飢えた獣のようにその子に向かっていく。
俺は逆に考えていた。、
(こんなに可愛い子が何で職安なんかにいるんだ? 職探し……しかないよな。こんな場所にいるより簡単に仕事が決まる場所あるのに。原宿や渋谷を歩いていれば向こうから勝手にスカウトしてくるだろう――芸能事務所だけど)
あまりに場違いな感じがして変に勘ぐり、あらぬ方向に思考が走ってしまう。
――でもさっき言ったUFOを見た数少ないであろう一人が偶然にも現れたのである。剛田のオヤジが言っている事の真偽が分かるかもと思い、俺は彼女に聞いてみた。
「え~と、その物体を見たのは本当なの? って言うか今までの会話もしかして全部聞いてた?」
すると彼女は、
「まず何かを見たというのは本当。あと私はあなたが外に出てくる前から、入口の横にいたんだけど。それにあなた達の声が大きいから嫌でも聞こえるわよ」
と言う事はどうやら全部聞かれていたようだ。
「そっか、全然気付かなかった」
(少なくとも入る時にはいなかった……はず)
彼女は話を続ける。
「私も駅前を歩いていた時に夜空を見たら、大きく光る物体が浮かんでいるのを見たの。意味として、あれはUFOで間違いないわね」
確かにUFOとは、ウィキペディアで調べると、
【アンアイデンティファイド・フライング・オブジェクト、未確認飛行物体】
と出てくるので、詳細が不明な飛行物体に関しては全てUFOという表現で間違いはない。
(でもこの子は終電も終わっている深夜に駅前にいたんだ――この辺は深夜になると治安が著しく下がるんだが)
俺はそっちの方が気になっていた。
「そうかお嬢さんは駅前にいたのか。んじゃ~ワシがいた所と距離的に遠くはないな。それでその物体が回転していたのは見えたかい?」
剛田のオヤジが身振り手振りで彼女に聞いた。
「回転していたかどうかまでは私の方からは確認出来なかったわ――でも」
彼女がなにかを言いかけた時、唐突に他のオヤジ連中が会話に割って入ってきた。
「なになにお嬢ちゃん、この二人の奇天烈な話に興味があるの?」
(二人って俺も入ってんのかよ! 話しているのは剛田のオヤジで俺はそれを聞いてただけだっつ~の! ていうか彼女はなにか言いかけてたけど何を言おうとしたんだろう?)
俺が顎に手をかけて考えていた時にも、剛田のオヤジは彼女に話しかけている。
「ところで、お嬢さんの名前を聞いてなかったね、ワシは」
「剛田さんでしょ。聞こえていたから。私の名前は【カルラ】です」
「カルラ? 随分と珍しい名前だね~、それは苗字?」
剛田のオヤジが言うように、俺もスゴイ名前だな~と思った。
「いえ、下の名前です」
彼女が言うと、
「んじゃ、苗字はなんてんだい?」
剛田のオヤジの問いに対して彼女は無表情で応えた。
「……ま~いっか、こんな世の中だ。個人情報だとか色々とあるからな。特に女の子だから余計に警戒するわな。ごめん、悪かったね~」
「いえ……、別に……」
「それじゃ~カルラちゃんって、呼ばせてもらっていいかな」
「はい」
と彼女は軽快に答えた。
そこに俺は便乗するように、
「それじゃ~、俺もカルラちゃんって呼んでもいい?」
すると彼女は、
「いえ、あなたからはカルラと、呼び捨てで大丈夫です」
「はい?」
いきなり呼び捨てOKをもらい、ビックリして声が裏返ってしまった。それを聞いていた剛田のオヤジは、
「おいおい、なんだ~、もう恋が芽生えちゃったかな~」
とからかってきたが俺は無視する。カルラも同様に反応はしなかった。
(つ~かそもそも俺には彼女がいるし、こうしてハローワークに職を探しに来たのもその為だ。決して出会いを求めて結婚相談所に来た訳じゃない)
気を取り直して俺は質問しようとした。
「あ~、カ、ル、ラ……は」
(メッチャ意識しすぎだし、ぎこちなさすぎだぞ俺! 剛田のオヤジが余計な事を言いやがったからだ)
それでも俺はなんとか、平常心を取り戻して聞いた。
「UFOっていうか宇宙人の存在は信じている?」
俺の質問にカルラは、真剣な表情で答えた。
「信じている、と言うより私たち地球人以外の、知的生命体は存在しないと考える方が、私は無理があると思います。例えるならば、惑星はサハラ砂漠の砂粒を数えるぐらいあります。いや、むしろそれ以上かも。だから存在を肯定します」
カルラの返答に俺はビックリした。なぜなら俺的に、カルラはツンとした雰囲気でそう言った話には否定的だと思ったし、存在するときっぱり言い切ったからだ。なんでそこまで言い切れるのかは謎だ。
その返答に剛田のオヤジが、
「カルラちゃんも信じる派かい! ワシも宇宙人はいると信じてるんだよな~。いや~なんか気が合うな~」
「いえ、ですから信じると言うより、実際に存在するんです!」
カルラが語気を強めにして言った。すると剛田のオヤジは、
「そ……そうだな、いるよな……はははは」
剛田のオヤジはちょっと引いていた。
(さすがにここまでのレベルだと、普通の人は引いちゃうかな)
すると周りにいたオヤジ連中が、なにやら騒ぎ始めた。
「おい、あれ……、あれはなんだ? 俺の目がぼやけちゃってるのかな」
オヤジ連中の一人が言うと他の連中も、
「いや、確かに見えるぞい」
なにやら空を見上げながら言っている。その目線を追い俺も空を見上げた。
すると空の一部がぼやけて見える、と言うより歪んでいるのに気付いた。
「おい……、ウソだろ……、こんな事ホントにあるのかよ」
俺は空を見上げながら言った。するとカルラが、
「来た!」
その言葉と同時に、歪みから船の先端部分らしき物が出てきた。それを見ていた剛田のオヤジが、声を裏返しながら言った。
「あれは……、う……、宇宙船だ~!」
“ヴゥーン……ヴゥーン…… ”
それは低い唸り声のような音をたて、徐々に全身を現し始めた。
パッと見た感じは、豪華客船以上はありそうな、巨大な物体だった。
それは太陽の光を遮り、周囲に大きな影を作って薄暗くしてしまうほどだった。
歩道を歩いていた人、自転車をこいでいた人、自動車やバイクを運転していた人たち、俺の視界にいる全員が、上空を見上げ呆然としていた。
「夢……、じゃないよな……。現実に起きてるんだよな」
その光景を前に何故か俺は口角を上げ “ ニタリッ ”とほくそ笑んだ。なぜなら俺は死ぬ前に、一度でいいからこの目で宇宙船や、宇宙人を見たいとゆう願望があったからだ。
(まさかホントに現れるなんて……、嬉しすぎて笑わずにいれるか)
そう不謹慎にも思っているとカルラが、
「あれ……、好意的じゃなくて、好戦的な方だから。あと携帯出しておいて!」
「え? ……。好意的じゃなくて好戦的? カルラはなんでそんな事知っているの? さっきもあれが出てくる前に “来た ”って言っていたし……それに携帯って」
俺がカルラの言葉に疑問を感じて、聞きながらも何故か、言われた通り携帯を出していた。
すると剛田のオヤジが、
「なんか小っさいのが出てきたぞ……、あれはワシが夜中に見たヤツだ!」
すると巨大な宇宙船らしき物体から、別の小さな飛行物体が何機も出てきた。小さいと言っても多分大型トラック並みの大きさだろう。形状を例えるなら、ハンバーガーを平たく潰した様な感じで、付け加えるなら、パンズにはさまれている肉の部分が、LEDライトを付けているみたいに眩く光ってる。
すると突然、そのハンバーガー型飛行物体は、高速で回転し始め、レーザー光線を出した。
“――シュンッ ”
刹那、辺りには火柱が立ち、続けざまに、
“――ドゴーン ”
といった轟音が耳を劈いた。
音速より光速の方が速いように、閃光につづいて凄まじい音が鳴り聞こえ、それは【ソニックブーム】とゆう振動波となり、爆風を生み、ありとあらゆるものを吹き飛ばした。
そしてハローワークにいた俺たちは、炎に囲まれた形になった。
職安にいた人達は、ケガやキズを負ったものの全員無事だった。なぜならUFOは俺たちの真上、上空数百メートルの位置であった事と、斜め下に発射された光線は、この場所を起点に円を描くように、放射されたので助かったのだろう。
だが周辺はまさに地獄絵図といった感じで空は赤く染まり、人々の阿鼻叫喚が聞こえてくる。
――すると頭上のUFOは徐々に高度を下げてきた。どうやら俺たちがいることに気付いたようだ。
(ヤバいだろ……、これ……)
UFOの高度は段々と下がり続け、やがて船体の底部が中央から、左右に開き始めた。
「あかん、もう終いや」
オヤジ集団の一人が言った。
「俺たち死ぬんだ」
「あ~これで俺も女房の所にいけるな~」
とパニックになっていく。そこに剛田のオヤジが、
「みんないつかは死ぬんだ……。あたふたしてね~で潔くみんなで逝こうじゃね~か」
確かに……、俺もそう思った。
(今の俺の、人生状況は酷いもんだ。社会の底辺にいる存在だし……。ならいっそ死んでも……)
そんな中、突然携帯が鳴った。見ると、どうやらさっきの怪しい求人を出していた会社からだった。
無視しようと思ったが、何故か自然と通話ボタンを押していた。
「もしもし……」
『あなたにはこれから、当社の会社説明会に御参加して頂きます』
(……。やっぱり。怪しさ全開じゃねーかよ)
出なきゃよかったと思ったその時、UFOの底部からまばゆい光が降り注いだ。
その瞬間、目の前は雪白した色に染まり、視界は奪われ、音さえも聞こえなくなった……。
(あ~俺、死んじゃったんだな~。これでもう就活しなくていいんだ)
そんな事を思える意識だけが、まだ俺にはあった。
評判が良ければ執筆スピードも上がりますので拡散お願いします( ^^) _旦~~
拡散もしていただけるとありがたいです(^_^)v