眠りの森の姫(もうひとつの昔話9)
王様に待望の女の子が生まれました。
お城ではさっそく、お祝いの誕生パーティが催されることになりました。
誕生パーティには国中から妖精たちが招待されたのですが、そのなかに魔女が一人まぎれこんでいたのでした。
パーティが始まりました。
次から次と……。
妖精たちが王様の前に進み出ては、生まれたばかりのお姫様の未来を祝福します。
美しくなる、やさしくなる、ダンスがじょうずになる、おしとやかになる……と。
王様は満足そうです。
妖精の言葉は予言でもあり、将来かならず現実のこととなるのです。
最後に魔女が立ち上がり、
「それらの予言は十五歳まで。お姫様は十六歳でお亡くなりになりますでしょう」と、なんとも恐ろしい予言を口にしました。
「それはまことか?」
王様が青ざめた顔で身を乗り出します。
「はい、さようで。お姫様は十六歳のとき、糸巻棒に指を刺されて死ぬのでございます」
そのとき。
妖精の一人が前に進み出ました。
「王様、ご安心ください。糸巻棒に指を刺されはしますが、それはただ眠るだけ。百年たてば、かならず目をおさましになります」
ほかの妖精たちはそろってうなずきました。
十五年後。
妖精たちの予言どおり、お姫様はおしとやかで美しい娘に成長していました。
ある日。
王様は国じゅうにおふれを出しました。だれも決して糸巻棒を使ってはならぬと。
さて、お姫様。
自分の未来を知ってしまいました。
近いうちに糸巻棒に指を刺され、百年もの長い間眠ってしまうのだと……。
それからは不安で眠れぬ日々が続きました。
一年後。
お姫様に一年前のおもかげはなく、極度の睡眠不足でげっそりとやせ細っていました。
そんなある日。
お姫様は気分転換にお城の中を散歩していました。
お城のてっぺんまで来たときでした。
カッタン、コットン。
はじめて聞く音を耳にします。
お姫様が音のしている部屋に入りますと、おばあさんが糸巻車で糸をつむいでいました。
このおばあさん、お姫様が死ぬと予言したあの魔女でした。
お姫様は眠りました。
糸巻棒に指を刺されて眠りにつきました。
「姫! 姫!」
叫び声で、お姫様は目をさましました。
目の前に、となりの国の王子が立っています。
「姫のことが心配で、急いでかけつけてまいりました」
王子が顔をのぞきこみます。
「ねえ、なんで起こすのよ!」
お姫様はムッとした顔でどなりつけました。
「わたしはね、ひどい不眠症でこまっていたの。せっかく、気持ちよく眠っていたのに……」