第二部 終
「ここまでだな」
魔術都市の外。一面の荒野が広がっている場所で、恋花は毅然と言い放った。
彼女達の視線に見守られて、俺と紫音はその荒野に向き合っている。
果ては、見えない。
第三次大戦による影響が深く残るその地は、長らく人が入ってたことのない領域だ。どんな生き物がいるのか、人間は住んでいるのか――あらゆる情報が未確認に終わっている。
分かることは一つだけ。
その向こうに、機甲都市があるということ。
「……本当に行くのか?」
「そりゃそうッスよ、魔術都市に残るわけにはいきませんから。……機甲都市にも敵はいるでしょうけど、まあこっちより楽だと思うことにします」
「とんでもないヤツだな……」
「まあ前向きに、ってことですよ」
ひょっとしたら味方になってくれるかもしれないし、そこは試さないと何も言えない。もちろん、決して明るい展望があるわけじゃないのも事実だが。
最悪、紫音とどこかで隠れ住むことも出来るかもしれないし。
「でへへ、先輩と旅行……駆け落ち……」
いや違うだろ。
しかし紫音のやつ、さっきからこの調子である。自分の身に降り掛かっている難問を、少しも理解していないというか。
有り難い、と言えば有り難いかもしれない。いつも明るい彼女が暗くなっていたら、こっちまで暗い気分になってしまう。
「……しばらく会えなくなるな、誠人」
「はは、ひょっとしたら一生かもしれないッスよ?」
「む、それは困るな」
彼女はキョロキョロと辺りを見回す。
俺達の他、あまり人は来ていない。何せここは魔術都市の外だ。統括局から始まった内乱のゴタゴタでどうにか来れたが、大所帯で行動する程の余裕はなかった。
それでも恋花は、しきりに人目を気にかけている。
オマケにほんのりと顔が赤い。まるでこれからすることを、彼らに見られてはマズイと考えているような。
「――いや、止めておこう。今やったんじゃ、君と二度と会えないことを認めるようだからな」
「?」
「誠人、私のことは絶対忘れるなよ? 私も、どれだけ時間が立とうと君のことは忘れないからな」
「は、はあ……?」
結局、彼女は何をしようとしていたんだろう。
確かめたいが、時間は残されていない。政府を始めとした『外』連中が、こちらの行動に気付いているとの情報もある。
「――じゃあ先輩、みなさん、お元気で」
「ああ」
「たまには連絡を寄越してくださいね」
ユーステスの問いに頷いてから、俺は絶賛妄想中の紫音の元へ。
「あ、あれ? もう行くの? アタシ挨拶終わってないんですけど?」
「じゃあとっととして来い。急がないと危ないんだから」
「はーい」
いつも通りな彼女は、パタパタと慌ただしく挨拶に向かう。
――日差しは高い。旅立ちの日に相応しい、最高の青空だ。
戻ってきた紫音と並んで、俺は進む。
ここから先は道の世界。ゴールだけは見えているが、その途中に何があるのか、まったく分からない常識の狭間。
そこで何を見ることになるのか、何を知ることになるのか。
このとき。
もう俺達は、世界の闇に片足を突っ込んでいたのかもしれない。