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『ど、どういうことだ?』
俺を追い越して、この中に入ってきた?
いやそれはない。昨今のコンテナには、転移系の魔術を防ぐ結界が使用されている。それをすり抜けて入るのだって、彼女のレベルでは難しい筈だ。
『……』
考えている場合じゃないのに、つい思案に耽ってしまう。
コンテナの中に他の運搬物は一つもない。となると処刑道具とは紫音のことで、俺は彼女を奪取する必要がある。
あるいは、日暮の情報にミスがあったのか――
「ここだ!」
『っ』
追手が来た。
俺は迷わずカプセルを破壊し、眠ったままの紫音を抱き上げる。敵は攻撃の準備を整えているようだが、手遅れなのは間違いない。
新しく道を作って、さっさと飛び去る。
連中は声高らかに俺を追おうとするが、無駄なことだ。
黒い両翼を羽ばたかせ、俺は戦場を離脱。日暮と打ち合わせた場所に進路をとる。
腕の中には、今も目を覚まさない紫音が。
『――』
彼女と戦った荒れ地に、もう人の姿は見えなかった。




