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「っ、そんな上等な魔術が使えたなんて、聞いてないよ……!」
『そりゃ、お前の前で使ったことないしな。あんまり見せたくも――』
語り終えるより先に、接近する気配が二つ。
いずれも甲冑を装備した、政府側の魔術師だった。走るというよりも滑空する速度で、俺との間合いを一瞬で詰める。
魔術により光を放つ剣。人間の身体はもちろん、鉄だって両断する一撃が来る。
無論。
「っ!?」
俺の身体を覆う甲殻に触れた途端、剣は勝手に砕け散った。
後はもう、盾を構えるぐらいしか彼らには出来ない。
大きく拳を振るって、俺はその盾ごと敵を吹き飛ばした。彼らは受け身を取ることも出来ず、無様に地面へと叩きつけられる。
「……」
仲間の汚名を晴らそうとする魔術師はいない。いずれも慎重に距離を取って、俺の動きを観察している。
紫音も同じだ。あくまで指令役に過ぎないのか、彼女は守られるように後方へ下がっていく。
『おいおい、そんなもんか? 政府側の魔術師なんだから、隠し玉の一つぐらいはあるだろ?』
「――」
紫音の顔つきが歪んでいる。本当に隠し玉がないのか、侮辱されて怒っているのか。
甲乙を付ける前に、俺は注意を敵から反らす。
目標が近付いてきた。もう少し遊んでやろうと思ったが、さすがに本命まで無視できない。
『んじゃあな。今度いつ会えるか知らんけど』
「ちょ――」
返事を待たず、俺は地上を駆け抜ける。もとい、ドラゴンらしく飛んでいく。
だが高度は上げられない。空の方にも、連中の監視は存在するのだ。……まあ紫音に発見された時点で、焼け石に水を注ぐようなものだけど。
列車は近い。すでに明かりも見えていた。
『えっと、三番目だっけか』
俺は空中に停滞して、高速で迫る車両の数を数える。
後は待つだけだ。コンテナを破壊するのは問題ないし、対象物だって持ち運べないほどの大きさじゃないだろう。
『よし』
息を整える。
車体が真下に来たところで、俺は全速力を叩きだした。
夜の町を走る時速100キロと、いともたやすく並走する。もし車掌がこちらの姿を見ていたら、驚きで目を丸くしていることだろう。
『っと』
目的のコンテナへ、俺は無事に取りついた。
何の小細工もなく、力任せの作業を続行する。
拳を叩きつける度に拉げるコンテナ。途中で何度か魔術が発動したようだが、竜化している俺に通用するものではない。
何度か殴ったところで、完全に穴が開く。
竜の身体で入れるほどに抉じ開けた後、俺はコンテナの内部に侵入した。
『む』
明かりがない所為で、どこに何が積まれているのかまったく分からない。この身体で動けるぐらい、スペースは確保されているようだが……。
『うおっ?』
唐突に揺れるコンテナの中。どうも、列車が緊急停止したようだ。
あまりのんびりしている暇はない。何人かかってこようが蹴散らせるが、雑魚の相手ばかりも退屈なものだ。
近くにある街灯の光が、運良くコンテナの中に差し込んでくる。
処刑するための道具とやらも、俺に素顔を見せてくれて――
『……何?』
驚くしかなかった。
紫音がいる。
さっき遭遇したばかりの幼馴染が、白衣を着て奥のカプセルで眠っている。