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養子に出た妹が誘惑してきて、妹だなんて忘れたい  作者: 軌跡
第一章 没落した魔術師
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「数時間ぶりだね、先輩。今夜狙ってくると思ってたから、ちょっと網を張らせてもらったよ」


「面倒なことするなあ……」


 数えられるだけで、敵は十名ほど。

 出現する直前に空間が歪んだのは、どこか離れた場所から転移してきた所為だろう。ひょっとしたら増援も控えているかもしれない。

 深呼吸し、改めて周囲の状況を確認する。


「……先輩、意外と冷静だね。アタシが敵になってるのに、驚かないの?」


「だってお前、治安維持の組織に入ってるだろうよ。ここに出て来るのは、むしろ当然ってやつじゃねえのか?」


「確かに、真面目な勤務をするんだったらね」


 紫音の台詞に呼応して、甲冑達が一歩前へと出る。

 全員、手に剣と盾を装備していた。

 魔術師にとっては標準的なスタイル。外見は中世そのままだが、魔術的な仕掛けが施されているため性能は比較にならない。銃弾の雨だって切り抜ける逸品だ。


 対する俺は無防備なまま。


 戦闘の趨勢すうせいは、決まったも同然だった。


「何か言い残すことはある?」


「……おいおい、正気かよ。十人程度じゃ、俺には勝てないと思うがね」


「無防備な人の台詞には聞こえないなあー」


 確かに、その通り。


 だからだろう。


 何の合図もなく駆け出した政府兵に、俺はあっさりと身体を切られた。


「ぐ……!」


 月光の中に、毒々しい赤が咲く。

 後の流れは一方的なものでしかない。切り刻まれ、串刺しにされ、俺の意識はあっさりと遠退いていく。


「あーあ、つまないの。昼間に襲った方が、もう少し抵抗してくれたかな?」


「――そうでもないぞ」


「っ!?」


 死にかけの身体で、普通だったら喋ることすら出来ない状態で。

 俺はゆっくりと身体を起こして、紫音の陰影を見つめていた。


「……おかしいな。魔術を発動させた仕草はなかったけど」


「魔術なんて最初っから発動してる。例えば――」


 瞬間、何かが破裂した。

 原因は俺の右腕。綺麗に弾け飛び、肉片すら残さず消え去っている。

 代わりにあるのは異形の、堅い鱗をまとった黒い巨腕。


「身体そのものの作りとかな」


 轟音が鳴った。

 突如として出現した巨大な何かが、敵魔術師へ突風を叩きつける。狼狽ろうばいする声が次々に聞こえ、彼らが俺の魔術を把握していないことを教えてくれた。

 ふと、心の中で笑みが浮かぶ。


「な――」


 驚いているのは紫音も同じ。

 俺は務めて冷静なまま、彼女の前に立ち上がった。

 いつもより少し高い視線で、その矮躯を見下ろしながら。


「竜化……!」


 伝説的な幻獣、ドラゴンに変身する魔術。

 それが生まれつき、俺の所有している力だ。

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