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 俺は一瞬だけ言葉を失って、冷や汗を流しながら反論する。


「ま、待て待て待て! どうしてお前のを使う必要があるんだ!? 4号とか、連れてる機竜でも問題ないだろ!?」


《無理だよ、先輩も見たでしょ? あの子達には自爆装置がある。神霊石を奪おうものなら、自分の身体こと消し飛ばすよ》


「だ、だからってな……別の神霊石を探すべきだろ? 取り外したらお前、動けなくなるんじゃないかのか?」


《うん。人間でいえば、心臓を外すようなものだしね》


「――死ぬってことか?」


 返答はない。

 さもありなん。希望が持てる仕組みなら、紫音は間違いなく大丈夫だと返しただろう。

 彼女の提案を飲めば、後がない。


《ごめんなさい、先輩。――でもアタシ、母さんのこと見捨てたくないの。アタシが迷惑かけちゃったんだから、自分の手で助けたい》


「……だったらせめて、俺が助けに行くまで待ってろ。今どこにいるんだ?」


《まだ魔術都市の中。昨日、先輩がお仕事したところだよ》


 しめた、飛んでいけば10分もかからない。

 俺は差し込んだ光明に握り拳を作るも、紫音の方は沈んだ雰囲気のままだった。


《今は近付けないと思うよ。魔力の濃度が凄いことになってるから》


「なに……?」


《なんかもう、霧みたいなのが漂ってる状態でさ。アタシも呼吸するだけで辛いって言うか、全身が重くなるというか……》


「相当ヤバいぞ、それ……」


 過去の記録では、致死量だと記録されている。

 もちろん、一般的な魔術師の話だ。俺なら少しは大丈夫――かもしれない。耐えられたって数分が限度だろうけど。

 しかし、行動は許される。

 だったらやれるだけやるのが、後悔しない生き方だ。


《いいって、先輩は無理しないで。外にたくさん魔術師が集まってるみたいだし、そこに向かって神霊石を投げるから》


「馬鹿言うな。俺が助けに行くから、待ってろ」


《駄目、来ちゃ駄目だよ先輩。……それに、これはアタシの我儘なんだから。先輩まで付き合わなくていい》


「……」


 母親の湊を助ける。力強い抑揚からは、その他の意思がすべて排除されていた。

 仮に直ぐ助けに行けたとしても、紫音の行動を止めることは出来ないだろう。何が何でも彼女に生きていて欲しいなら、この場で説得するしかない。


 脳裏に過ったのは、あまりにも残酷な言葉だった。

 言うべきでは無いだなんて、ちょっと考えれば理解する。親子の絆を嘲笑うものでしかない。俺の我儘が作った、本当にひどい指摘だ。

 でも結局、他の方法は出てこなくて。


「……なあ紫音、お前と湊さんは――」


《知ってるよ》


 静かなまま。

 俺の悪あがきは、無駄に終わった。


《でも母さんだって言ってたでしょ? 血の繋がりは関係ないって。――だからアタシも、血の繋がりなんて関係なしにあの人を助ける。赤の他人で、大切な人を助ける》


「――じゃあ、待ってろ」


《え?》


「いいか? 俺が直ぐに行く! だからそれまで待ってろ! 4号も機竜も、まとめて表に引き摺り出せばいいんだろ!?」


《で、でも》


「黙って甘えとけ! 妹だろ!」


《――》


 こちらは知らなかったのか、あるいは剣幕に押されただけなのか。紫音は黙ったままで、彼女が入ってきている感覚も消えていた。


「あの子ですか?」


「え? あ、ああ、一応」


「そうですか……ふふ、いきなり怒鳴るものですから驚きましたよ?」


「わ、悪い」


 クスクスと母は笑い、部屋の隅にある受話器を手に取る。

 果たしてどこに連絡を取っているんだろうか? 俺の位置からは、真剣そうな横顔しか確かめられない。

 怒鳴ることも、大声を上げることもなく、彼女の電話は数分で終わった。


「どこに連絡したんだ? 母さん」


「看守さんのところです。貴方を出してもらえるよう、取り計らって頂こうと思って」


 一体、どこで心を読まれたのか。

 優しく微笑む母親は、ただ一言。


「気をつけて、行ってらっしゃい」


 平和な朝のように、見送りの言葉で背中を押す。

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