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俺は統括局に捕まった後、ご丁寧にも母と同じ部屋にぶち込まれた。担当した人物いわく、事態が落ち着くまでの仮処分らしい。
もっとも、俺には一分一秒無駄できる時間はなかった。
こうしている間にも、4号は紫音を連れて機甲都市に向かっているかもしれない。そうなったら最後だ。彼女を助け出す時間は、大幅に空くこととなる。
「……」
妙な形での親子水入らずだが、喜べる状態ではない。
とはいえ母の方は平常心だった。牢の中が普通に生活できる空間なのも大きいんだろう。
まるでワンルームマンションのような。台所があって、ソファーとテーブルがあって、テレビまで置かれている。どれも中古だとの話だが。
「まずは落ち着いて、お茶でも飲んでください。冷静にならないと、勝てる戦いも勝てませんよ?」
「あ、ああ、どうも」
母の言うことにも一理ある。俺は大人しく、彼女が入れた緑茶を口に運んだ。
喉が潤うと同時に、身体の芯が透き通っていくような感触がある。緑茶が少し冷えていたのも良かったんだろうか?
「魔力酔いの方は大丈夫ですか?」
「ん? ああ、そっちはどうとも。魔力を大幅に使った後だったから、逆にちょうど良かったんじゃないか?」
「なるほど。魔力酔いは、魔力を蓄える機能のオーバーヒートに近いと聞きますしね。冷めている状態なら、許容できる範囲だったと」
「そういう母さんは? 部屋に中にも影響あったんじゃないか?」
「いえ、私はそれほどでも。さっきは足元がふらつきましたが、今は何ともありませんよ」
ほら、と母は立ち上がってステップを踏んでみる。
確かに足取りはしっかりしていた。俺は胸を撫で下ろし、座ってくれとのジェスチャーを送る。
「なあ母さん、テレビつけてもいいか? 学校がどうなってるのか気になる」
「ええ、どうぞ。他に見たい番組があれば、回して構いませんからね?」
「了解」
リモコンを受け取ると、俺はさっそく電源を入れた。
丁度いいことに、最後に見たチャンネルでは報道番組が組まれている。内容はもちろん、ある学校で生じた魔力酔いの集団発生について。
症状の重い者は病院に搬送されたらしい。映っている映像はその病院前で、興奮気味のキャスターが仔細を語っていた。
『関係者によりますと、神霊石化を引き起こしている患者も多数いるそうです。この症状を解消するため、都市上層部は『外』から魔科学の機材を搬入するとのことですが――』
「大胆な方法を選びましたね、魔術都市も」
何か思うところがあったのか。母は先ほどと異なり、俺の隣へ腰を下ろした。




