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広間を抜けた先には階段がある。
4号の姿を求めて、俺は数段飛ばしつつ駆け上がった。彼女が部屋を出てからそう時間は経っていない。上手くいけば、このまま追いつける可能性だってある。
竜化でショートカットすることも考えたが、さっき正面から竜砲を破った所為で消耗している。この先に機竜が出てきたとき、紫音を守るぐらいの戦力は残しておきたい。
「はっ、は――」
階段を上り切って、最初に目にしたのは倒れている看守。
外傷はなさそうだが呻き声を上げている。食堂での一件があったお陰で、頭を過るのは魔力酔いのことだ。
「……4号も魔科学のアンドロイドだもんな。起こせるっちゃあ起こせるのか」
ただ、あの時に比べて症状は軽度な気がする。きっと紫音が特別なんだろう。
開きっ放しの扉を潜って、俺は並んでいる牢屋を見た。
奥に続くのは純白の廊下。
その中間に、ヤツはいる。
「紫音!」
「あれ?」
4号はちょうど、紫音を担ぎ上げたところだった。
何をされたのか、彼女はまったく抵抗していない。他の牢から聞こえる雑音にも、ピクリとも反応せずにいる。
「ありゃりゃ、意外。もう少し堪えると思ってたんだけど」
「十分手ごわかったぞ。……で、どうすんだ? こっから逃げるのか? 奥には行き止まりが見えるんだが」
「そりゃあ逃げるよ。ほら、道は自分で切り開く、ってやつ」
「なに……!?」
間髪いれずに、轟音と突風が駆け抜ける。
洞窟で戦った大型機竜だ。奥の行き止まりをぶち抜いて、本当に道を作ってやがる。
更には、竜砲の用意も終わっていた。
「く……」
竜化する暇さえない。
即座に飛び退くものの、拡散する衝撃まではどうしようもなかった。その場に留まることなく、勢いよく壁に叩きつけられる。
立ち上がった時にはもう、敵は脱出の準備に入っていた。
「それじゃあねー。お元気で」
「っ、逃がすと――」
思ってるのか。
怒りと共に吐き出そうとした言葉は、機竜の駆動音に掻き消された。誰ひとり妨害する者はなく、悠々と魔術都市の空を駆ける。
こうなったら追うまでだ。どれだけの時間を竜化できるか分からないが、とにかく逃すわけにはいかない。
しかし。
「捕えろ!」
事態を聞きつけてやってきたのだろう。統括局所属の魔術師達が、統率のとれた動きで包囲してくる。
それでも竜化を試みるが、彼らは隙を逃さなかった。
「ぐっ!」
純粋な体術で、即座に身体を抑えつけにくる。
後は抵抗する暇もない。四肢を拘束され、手錠に似た物をつけられる。魔術の発動を封じる道具だ。
見えなくなった機影に出来ることは、一つだけ。
「くっそおおおぉぉぉおおお!」
返事はない。
穴から吹き込んでくる風が、敵の存在に対する名残だった。




