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「昔の支配体制に戻るんじゃないか、って?」
「そう。世界大戦で生じた隙を突いて、僕ら魔術師が政権を握ったばかりの時代にね」
時間にすれば、一世紀ほどの出来事。
地球を襲った三度目の世界大戦で、それまでの世界秩序は大きく乱れた。
日陰者だった魔術師は、その時に自分達の影響力を拡大。国の中枢を担うまでになった――と、歴史の授業では聞かされる。
「魔術師によって大戦が終結した頃、まだ魔術は特権だった。貴族と称された一部の人たち以外、使うことは出来なかったんだ」
「でも今、使ってる人って多いッスよね? 教えてる学校だって、ほとんどでしょ?」
「研究が進んだからね。でもお陰で、貴族から権力は徐々に削がれていった。で、魔術の普遍化に反対した一部の貴族が武力決起。最終的に、貴族の政権は崩れることになったんだね」
「……もしかして俺、とばっちりで監視されてるんスか?」
「君のご先祖が協力してなければ、そうなるかな。彼ら、貴族の関係者に対して疑心暗鬼だからねえ」
「うげ」
通りで粘着質な監視をするわけだ。
まったく、少しぐらいは考えを改めてくれてもいいだろうに。俺は両親から祖父母からも、人を差別するようなことは教えられてないぞ。
「都合のいい解決策ってないんスかね?」
「はは、政府公認のテロ組織に所属してる人の言うことじゃないなぁ」
「ま、まあ、それはそうですけど」
「幸せな家族関係を乱されたのは、どうしても許せないんだろ?」
「……」
それは、間違いない。
俺の父は今の政府に殺されている。そのお陰で母親も捕まったし、敬愛していた兄だって――
「よし、到着だ」
記憶の世界に籠ろうとした俺を、日暮の一言が呼び戻した。
彼に続いて外へ出ると、辺りに見えるのは雑草も生えない荒れ地だった。建物だって一軒もない。
代わりにあるのは、数十メートル先のフェンス。
「あの向こうを対象が通る筈だから、君はそこを狙ってほしい。前から三番目の貨物に入ってるとの情報だよ」
「えっと……高速で走る電車に、飛び移れと?」
「余計な被害を出す気はないからね。ま、君なら出来るでしょ? 『黒燐』なんて渾名を持ってる君ならさ」
「や、止めてくださいよ、その名前! 恥ずかしいんスから……」
「そうかい? コードネームみたいで格好いいと思うけど。何なら僕が貰おうか?」
「部長には合わないッスよ」
俺は大人しく職場へ向かう。
日暮達は追ってこない。彼らには彼らの仕事があって、後で迎えに来る手筈となっている。
「……さっさと終わらせて、手伝いに行かないとな」
「させると思う?」
突然だった。
直後、闇で染まっていた空間がゆがみ始める。中から現れるのは甲冑を着た魔術師達。統制の取れた動きで、俺を瞬く間に包囲した。
面倒な展開に舌打ちする。
まあ少し、予感していたと言えば予感していたが。
「紫音……!」