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『――!』
空気が破裂するような衝撃を残し、一直線に突貫する。
内部の被害を考えると竜砲は撃てない。無論、接近戦だって負けるつもりはないが。
敵も俺の存在に気付き、鋭い横目を向ける。
四足歩行型の、俺より一回り大きいドラゴンだった。背には一対の立派な翼。甲殻は太陽の光を受けて、鏡のように光を反射している。
敵の元に集う、魔力。
竜砲だと直感した時には、極太の閃光が空を焼いた。
『ふ……!』
紙一重で躱し、そのまま突っ切る。
しかし敵の攻撃は終わらない。放たれた竜砲は形を維持したまま、巨大な剣のように軌跡を作る。
『この――』
甲殻の一部を溶かしながらも、進む速度は緩めなかった。
目には目を、歯には歯を。
頭上から振り下ろされる竜砲へ、同じ力を叩き込む……!
『――っ!』
『ぎ、ぃ』
爆散。
そうとしか例えられない衝撃が周囲を襲った。近隣のビルも含め、ガラスが木っ端みじんに粉砕される。
だがお互いの竜砲は消え、隙が生まれた。
力強く翼を叩きつけて加速する。
正面に捕らえたドラゴンは、もう二発目の準備に入っていた。
対して俺は何の用意もない。このまま発射を許せば、また回避に徹するしかなくなる。
ならば、狙うは首。竜砲を溜め込むための器官がそこにある。
目前から迫る光。
剣の形になるのを待たず、俺はドラゴンの首元へ潜り込んだ。背後では固定された竜砲が一気に迫ってくるが、一瞥を向ける暇さえない。
突き上げる。
銀色の甲殻を殴り砕く。
姿勢を崩したドラゴンは、呆気なく竜砲を拡散させた。また周囲に被害を及ぼしているんだろうが、そんなことに構っている余裕はない。
戦場は件の広間。高さも横幅も、十分な余裕がある。
『……!』
誰かも知らないドラゴン。しかし瞳に込められた敵意は強く、即座に姿勢を立て直して反撃へ移る。
攻撃手段は、突進による轢殺だった。
普通だったら目を見張るほどの神速。砕けとばかりに踏み下ろされた足は、広間全体を揺さぶっていた。
始祖魔術で補強された動体視力は、しかと敵影を捉えている。
すれ違いざまの一瞬。
ナイフさながらの爪は、確かな手ごたえと共に敵を裂いた。
しかし。
『む』
倒れない。
ドラゴンはバックリと割れた右半身から血を流している。口の方も同じだ。竜砲を無理やり閉じられたため、衝撃が内側で拡散したんだろう。
お陰で分かることが一つある。コイツは始祖魔術による竜化ではなく、野生のドラゴンらしい。
『た、助け、て……』
絞り出すような声。
望んだ力と姿を手に入れたのに、彼は悲しそうだった。




