2
「っ」
携帯が鳴る。
いつも通りの呼び出し人には、胸を撫で下ろしたい気分だった。
「もしもし!?」
『おはよう誠人君。僕だけど、緊急の用件がある。紫音のことなんだけど――』
「魔力酔いとか、神霊石化を発生させるための装置だった、ッスか? こっちじゃもう、それらしい被害者が出てますけど」
『……そうか。ならやることは一つだ、いいね?』
「ええ――」
紫音を取り戻す。
俺の頭には、他のことなんて残らなかった。
―――――――――
『紫音の身体は機竜と同様、魔科学で作られている。つまり、動力に神霊石を使っているわけだ』
「それが学校で起こった魔力酔いの原因ッスか。……でも、俺や湊さんにはもう少し早く症状が出るんじゃありません?」
『君は始祖魔術のお陰で耐性があるだろ? 母さんは……分からないな。ひょっとしたら、神霊石が出す魔力を段階的に上げたのかもしれない。機甲都市とか、第三者の影響下にある可能性は高いんだし』
「……」
敵とその協力者は直ぐに思い浮かぶ。簡単に関われる相手じゃないのは残念だ。
アレからもう一度、俺は統括局を訪れていた。
しかし中には入っていない。正面の入口は、なぜか前回に比べて警備が堅くなっている。まるでこの中に、パンドラの箱があると言わんばかりだ。
俺は静かに物陰から様子をうかがう。周囲に市民の目もあるので、怪しまれないようにする努力も欠かさない。
『はあ、僕もそっちに行ければよかったんだけどね。こうも急じゃ、動きようがない』
「連絡とってくれるだけでも大助かりッスよ。ついでに局の中へ入る方法も考えてくれれば」
『正面突破が一番じゃない?』
やっぱりか。
警備が堅いとはいえ、魔術師が10人近くいるぐらいだ。全員万全の装備とはいえ、竜化すれば簡単に制圧できる。
問題はその後。敵の逆鱗に触れるような真似をして、無事に紫音を救えるのか。
天を突くような、統括局の高層ビル。
この中には怪物と称すべき魔術師が何人もいる。もしかしたら、中には局と手を結んでいる者だっているかもしれない。
未知の領域。色々と噂は聞いても、俺が実際に知っているのは母と面会した場所だけだ。紫音が捕らわれている詳細な場所も、どれだけの警備が待ち受けているかも分からない。
でも。
「……行きますか」
携帯の向こうにいる日暮へ、軽く決意を口にする。




