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「っ」


 携帯が鳴る。

 いつも通りの呼び出し人には、胸を撫で下ろしたい気分だった。


「もしもし!?」


『おはよう誠人君。僕だけど、緊急の用件がある。紫音のことなんだけど――』


「魔力酔いとか、神霊石化を発生させるための装置だった、ッスか? こっちじゃもう、それらしい被害者が出てますけど」


『……そうか。ならやることは一つだ、いいね?』


「ええ――」


 紫音を取り戻す。

 俺の頭には、他のことなんて残らなかった。



―――――――――



『紫音の身体は機竜と同様、魔科学で作られている。つまり、動力に神霊石を使っているわけだ』


「それが学校で起こった魔力酔いの原因ッスか。……でも、俺や湊さんにはもう少し早く症状が出るんじゃありません?」


『君は始祖魔術のお陰で耐性があるだろ? 母さんは……分からないな。ひょっとしたら、神霊石が出す魔力を段階的に上げたのかもしれない。機甲都市とか、第三者の影響下にある可能性は高いんだし』


「……」


 敵とその協力者は直ぐに思い浮かぶ。簡単に関われる相手じゃないのは残念だ。


 アレからもう一度、俺は統括局を訪れていた。

 しかし中には入っていない。正面の入口は、なぜか前回に比べて警備が堅くなっている。まるでこの中に、パンドラの箱があると言わんばかりだ。

 俺は静かに物陰から様子をうかがう。周囲に市民の目もあるので、怪しまれないようにする努力も欠かさない。


『はあ、僕もそっちに行ければよかったんだけどね。こうも急じゃ、動きようがない』


「連絡とってくれるだけでも大助かりッスよ。ついでに局の中へ入る方法も考えてくれれば」


『正面突破が一番じゃない?』


 やっぱりか。

 警備が堅いとはいえ、魔術師が10人近くいるぐらいだ。全員万全の装備とはいえ、竜化すれば簡単に制圧できる。

 問題はその後。敵の逆鱗に触れるような真似をして、無事に紫音を救えるのか。


 天を突くような、統括局の高層ビル。


 この中には怪物と称すべき魔術師が何人もいる。もしかしたら、中には局と手を結んでいる者だっているかもしれない。

 未知の領域。色々と噂は聞いても、俺が実際に知っているのは母と面会した場所だけだ。紫音が捕らわれている詳細な場所も、どれだけの警備が待ち受けているかも分からない。

 でも。


「……行きますか」


 携帯の向こうにいる日暮へ、軽く決意を口にする。


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