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町にいたって特別することはないので、真っ先に寮へと戻った。
しかし寮にいても、やっぱりやることはなかったり。ここは当初の予定通り、読書で時間を潰してしまうべきか。
第一の目的を学校の図書室にして、俺は寮の部屋を出る。
不思議と辺りには人がいなかった。外から部活動の声こそ聞こえるものの、直接目にする人影はない。統括局に行って帰ってのお昼時、学生にすればまだまだ活動できる時間だが。
「今日、なんかイベントでもあんのかね?」
そう決め付けたくなるぐらいの、不自然さ。
事態は直ぐに解明した。
何となく足を運んだ食堂。そこに、何人もの生徒が倒れている。
「お、おい!?」
駆け寄って声をかけてみるが、反応はない。
幸いにも、何者かに襲われて意識を失ったわけではなさそうだった。食堂には血の一滴すら流れておらず、倒れた生徒を覗けば平穏そのもの。
別に医療の知識は無いので、俺に出来るのは人を呼ぶことだ。
廊下にある受話器を取って、すぐに学校へ連絡する。救急車を呼ぶのも忘れない。
直後。
「っ!?」
姿勢が、膝からガクンと崩れた。
しかし大した異常ではなく、軽く息を吸ってる間に持ち返す。
「こ、これ、魔力酔いか……?」
少なくとも今の感触は、昨日の洞窟と同じだった。
でも何だってこんな場所で? 神霊石が出来るような魔力の溜まり場は、人工物が密集している地帯に出来にくい。魔力は人工物を避ける性質があり、弾かれたように自然地帯へ集まる。
学校にも緑はあるが、溜まり場になるほどの深さはない。
「……原因は他か」
独り言のあと、考えてはいけない結論にたどり着いた。
俺は予感を振り払おうとして、かぶりを振る。こんなことはあっちゃいけない。彼女にいったい、どんな負担を背負わせる気だ。
もちろん。
事態は俺達の意思など関係なく、推移していくのだろう。
「誠人君……?」
「み、湊さん!? 大丈夫ですか!?」
「ちょっと酔いが酷いけど、どうにか。他の子たちは……?」
「みんなぶっ倒れてますよ。意識はあるみたいなんですけど――」
湊の次の応答は、床にくず折れることだった。
声を荒げて近寄ってみれば、彼女に起こっている異常が分かる。生徒達と比較しても、格段に悪い病状だった。
竜明と同じ状況。
ごく一部だが、肉体が神霊石に浸食されている。昨日会った時は、こんなもの無かったのに。
「くそっ!」
何に対してか、俺は苛立ちを露わにする。
徐々に騒がしくなっていく外。どうやら寮生の他にも、魔力酔いの症状を出している人物がいるようだ。俺の症状が一時的なのは始祖魔術による耐性に違いない。
頭の中には紫音の姿が浮かんでいる。
この原因が、彼女にあるのではないか――推測は時間を得る度、強くなる一方だ。




