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「……頭のどこかではさ、昔に戻りたい自分はいるよ。あの頃は本当に楽しかったから、忘れようにも忘れられない」
「なら、竜明の更生を期待するべきでは?」
「でも兄貴は、元がああなんだろ? だったらそれでいい。あの人があの人らしくやるなら、俺も俺らしくやるまでだ。――騙された側として、せいぜい被害者ヅラしてやるさ」
過去にはもう、縋らない。
覚悟は固まった。次に竜明が敵として出てくるなら、確実に始末する。その咎を背負ってやる。
「本当に良いのですか?」
「ああ。だって俺は結局、自分の考えを曲げられない。兄貴だってそうだろう。――だから覚悟は決めなきゃいけない。父さんだって昔、言ってたじゃないか」
「……生きることは、他人を征服する行為である、ですか」
始めて聞いたのは子供の頃。世界の仕組み、人の仕組みを分かっていなかった頃だった。
当時は冷たい意見にしか聞こえなかったけど、今は少しばかりの熱を感じる。
自己を貫くだけの精神。道にはたくさんの茨があるだろうが、故に価値がある。他人と流れを合わせて生きていくのは、とても簡単なことなのだから。
相応の責任と、覚悟。
戦うための言い訳と言えばそこまでな、つぎはぎの鎧が作れた。
「分かりました。なら、私もその決断を支えましょう。……ところで他に何か、聞きたいことは?」
「特には。あ、母さんからは何か質問あるか? っていっても、そんなに生活は変わってないんだけどさ」
「なら一つ。恋人は出来ましたか?」
「――」
いい加減にしていただきたい。
だが母には、そんな俺の心情を測れる由もなかった。途端に嫌そうな顔つきをした息子を、不思議そうに眺めるだけだ。
「どうしました? 疲れたような顔をして」
「い、いや、最近そういう質問が多くて。母さんまで聞いてくるとは思わんかった」
「あら、そうですか。――で?」
間のテーブルに身を乗り出す母は、妙な迫力を帯びている。
こりゃあ誤魔化すのは難しそうだ。彼女の場合、子供の将来を本気で案じているのかもしれないし。




