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魔術都市に支配者は二つある。
一つは貴族の代表とも言える、都市管理部。もう一つは外の世界に属する統括局。
貴族の身柄を拘束しているのは後者だ。彼らは魔術都市の中でも珍しく、外の人間だけで構成されている。業務は外から来た人々の保護と、魔術都市の監視。
そして、影響力が大きい貴族の幽閉。
統括局に閉じ込められている魔術師は、そのほとんどが怪物といっていい。齢1000を超えた者がいれば、魔術師の世界において革命的な術式を生み出した者もいる。
誰もが現状を崩壊させかねない切っ掛けであり、研究に足るサンプルだった。
あるいは変人、狂人の集まりでもあるが。
「元気にしてましたか?」
広々とした空間の中で見る、数年ぶりの母親。
イメージしていたような陰鬱な場所での再会にはならなかった。統括局も都市と同じく、魔術師にストレスを極力与えず閉じ込めている。
お陰で面会の部屋は、ちょっとしたレストランのようだ。人影はほとんどなく、寂れた雰囲気を残しているが。
「ああ、見ての通りだよ。母さんは?」
「私も見ての通りです。最近変わったことと言えば、湊が挨拶に来たぐらいでしょうか」
ふふ、と上品に笑う母は、本当に楽しそう。
彼女と湊は学生時代からの友人らしい。紫音が引き取られてからは、より頻繁に交流するようになったとか。
「……それにしても、大きくなりましたね。前に会ったのは中学校を卒業した頃でしたか?」
「ああ、そうだよ。卒業証書を見せにさ」
「懐かしいですね……ここにいると、時間の感覚がどうもおかしくて。あ、紫音は元気ですか? 湊と相変わらず過ごせていれば嬉しいのですが」
「――いつも通り、変なこと言ってるよ」
そうしてまた、母は笑顔を浮かべていた。
久々に会った所為なのか、会話はそこで途切れてしまう。一年と少しの歳月で、俺は家族の空気感を忘れてしまったようだ。
母は気にした様子こそなものの、こっちは気が気でいられない。
というか不安になる。まるで彼女と、赤の他人になってしまったかのような。……昔通りに振る舞うのがこんなに大変だなんて、始めて知った。
「誠人?」
「う、うん?」
「何か、母に相談したいことがあるのではないですか?」
「――」
透き通るような声と目は、心の奥まで見透かしているようで。
俺は抵抗せず、あっさりと白旗を上げた。




