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「い、いきなり聞かれても……まあ罰を与えることには反対しないよ。ただ、生死に関わるような内容だったら、止めたいかな」
「もうチョイ詳しい理由を」
「んーと、やっぱりその人の人生を考慮して、かな。死んだって何にもならないでしょ? 罪を償うとか本気で考えるなら、ちゃんと生きて償うべきだと思う」
「なるほど」
一般論といえば一般論。が、だからこそ納得する意味もある。
そうだ、それが当たり前なんだ。もし兄の更生を望むなら、事態をこのまま放置しておくわけにはいかない。
本人にその気持ちがあるかどうかなんて、俺にはちっとも分からないけど。
「先輩はさ、どうなの? やっぱりお兄さんには消えて欲しい?」
「……一概には言えないな。多分、今の兄貴は本性を剥き出しにしてるんだろうし。俺が知ってる優しい人は、演技か何かの類だったんだろうよ」
「悲しいね、家族なのに」
「なのかね……ま、とにかく注視するしかないな。機甲都市だって、何かしらの動きを起こすかもしれんし」
「昨日みたいなのが、またあるってこと? 嫌――ん?」
動きが止まったかと思えば、紫音は携帯電話を取り出した。
その場で話し始める彼女の口調からして、相手は湊辺りだろう。こんな朝早くから、一体何の用だろうか?
会話は意外と短く終わる。肝心の紫音は、とても晴れやかな顔つきだ。
「どういう用件だったんだ?」
「ん? 今日はお休みだから、買い物にでも行かないかって。この前も言ったけど、新しい下着が欲しくてさー」
「あ、ああ、そうか。……俺も一緒に行くか? 何かあったら大変だろ?」
「さ、さすがに恥ずかしいかな……あ、でも、好みの色とかあれば教えて! 先輩もそっちの方が嬉しいでしょ?」
「や、止めろそういう話は!」
根本的に否定できないのが辛い。
紫音も勘付いたんだろう。悪魔のような笑顔は、思わず目を逸らしたくなるほど魅力的だ。
「黒、白? どっち?」
「……」
「ふうん、答えないってことはどっちも好きなのかな? 先輩も欲張りだねっ」
「言わない、絶対に言わないからな……」
「ま、アタシの能力で頭の中は簡単に覗けるんですけど?」
やっぱ黒かあ、と身の毛のよだつ独り言が聞こえてきた。
俺は複数の意味で驚くしかない。好きな色ぐらいは知られてもいいが、兄妹であることを知られるのは駄目だ。
確かサキュバスは、頭の中で思い描いている情報を覗くらしい。
なら考えないようにするべきだ。――こう思っている時点で、手遅れのような気はするけれど。