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「――って、珍しいね、君が制服のままだなんて。いつもだったら、私服なのに」
「ちょっと暇つぶしに没頭しちゃいましてね。あ、飯はきちんと食べてるんで問題ないですよ! どんな仕事でもどうぞ!」
「じゃあ君には、妹の下着でも――」
「今日は夜遅いんで寝ますね! じゃ!」
「ええっ!?」
変態に付き合うのは御免である。
しかし家へ戻ろうにも、日暮が腕を掴んで離さない。プライドを捨てて、涙目になりながら待ってくれと訴えている。
「今日の仕事は君がいないと困るんだよ! 頼むから許してくれー!」
「……一応聞きたいんですけど、妹君のことをどんな目で見てます?」
「煩悩まみれに決まってるじゃないか! 失礼な!」
失礼はどっちだ。
ともあれ、俺は改めて外に出る。どうしても一緒に来て欲しい、とは前々から言われていたことだ。トップの変態性で取り下げようとは考えていない。
「ふむ、では出発だ。道中、隠し撮りした紫音の写真を見せてあげよう」
「俺まで犯罪に巻き込むのは止めてもらえませんかね!?」
まあ、言ったところで聞かないだろうけど。
そもそも隠し撮りではない筈だ。日暮は写真を撮るのが趣味で、あくまでも紫音の日常を撮影している。本人が拒否するようなものではない――多分。
「さて、それじゃあ今日の仕事についてだけど」
「運搬物の破壊、でしたっけ?」
日暮の相手をしながら、俺はふと背後を見た。
いつもならいる筈の黒服とワゴン車が、今夜に限っては見当たらない。
監視システムに細工をされたためだ。そう長い時間は持たないが、一人の人間が車に乗って移動することは出来る。
住人の目も、これぐらいの時間になれば警戒する必要はない。
「今夜運ばれるヤツはね、どうも元貴族の魔術師を処刑する物らしいんだ。僕らとしては損失でしかないし、可能なら妨害したい」
「しょ、処刑!? また物騒ッスね……」
「だろう? そもそも政府の方は、20年前から保護という名目で貴族を監禁、監視してきた。君と同じようにね」
「――」
日暮の指摘に、反論すべき点は一つもない。
政府は魔術の実験アンプルとして、貴族の魔術師を保護している。20年前に起こった内戦の被害者、という名目だが、信用できる言い訳ではない。
「……何だって今、処刑を?」
「僕は本人たちじゃないから断定できないけど……ここ最近、僕らのような貴族派の活動が活発らしくてね。お役人様は焦ってるようなんだ」