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幸い、襲撃による死者はいなかったらしい。
ただ怪我人はいるとのこと。俺も紫音もその怪我人で、病院へ運ばれて治療を受けることとなった。
始祖魔術の影響により、大きな負傷はほぼ完治している。残っているのは掠り傷ぐらいで、これなら世話になる必要はないと思うのだが――
「あのねえ、普通の人間だったら死んでもおかしくない怪我だったのよ? 魔術があるからって、過信はしないように」
と、湊から釘を刺された次第。
生まれてこの方、デカイ病気をしなかった所為なのか。俺は医者を前にして、まったく気分が落ち着かなかった。
紫音や竜明のことが気になっているのもあるんだろう。特に紫音は、普通の医者に見せられる身体じゃないし。
まあその辺りは湊を信じるしかあるまい。他に事情を知っているのは彼女だけだ。
「……あの、兄はどうなってますか?」
なので、もう一つの疑問を晴らしたかった。
パソコンの画面を見ている中年の医者は、質問に対して苦い表情をする。
「まだ詳しいことは分かりませんが……始導院さんのお兄さんは、神霊石に浸食されている可能性が高いです」
「し、浸食? 神霊石って、寄生とかするんですか?」
「いえ、そうではなくてですね。竜明さんの場合は、体内に神霊石が発生しているんですよ。重度の魔力酔いが原因ですね」
「魔力酔い……」
とすると、機竜に入っていたことが原因か?
一抹の不安が脳裏を過る。敵に対して同情するなんて、如何なものかとは思うが。
「ああ、別に誠人さんの所為ではありませんよ。彼はどうも、以前から重度の魔力酔いを起こしていたようで。詳しい原因はまだ、調査中だそうなのですが」
「……そうですか」
あとは、医者から自分の怪我について軽い説明を受けるだけ。
一礼して部屋を後にすると、直ぐに待合室へと辿り着く。ショッピングモールが襲われたためだろう、忙しい雰囲気が広がっていた。
「あら、誠人君」
「湊さん……あの、紫音は?」
「正体についてはバレなかったわよ。不思議なぐらい無傷だって、お医者さんも驚いてたわ。今は車の中で待機してる」
「そうッスか、良かった。――ところで、兄貴について何か聞いてます?」
「いいえ。まあでも、ああいう症状には少し詳しいわよ? 詳細、聞く?」
「……ぜひ」
表に出られる身内は俺ぐらいなものだ。せめて、聞くだけのことはしておきたい。
湊に誘われて、空いている彼女の隣に座る。




