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「ちょ、ちょっと2号!?」
「アタシだってこれぐらい出来るんだからね!」
視界でも塞ぐ魂胆なのか。紫音は見事に機竜へと乗り移る。
そのお陰か、竜明の手元は狂っていた。俺を殺すことよりも、邪魔が入ったことが心底許せないらしい。
『この出来損ないが! 邪魔をするな!』
「うあっ!?」
勇敢な行動をしたとはいえ、所詮はただの少女。
掴み、投げ飛ばそうとする竜明にはまったく抵抗できなかった。コンクリートの壁に勢いよく叩きつけられ、そのまま床に倒れていく。
『おい』
自分と敵に向けられた激情。
形成を逆転させる火薬としては、十分すぎる。
『!? 貴様――』
『おおっ!!』
紫音に指摘された箇所。
解術装甲の弱点を、ただ全力で打撃する――!
『ぐ、お……!』
手応えあり。竜明の嗚咽が聞こえ、機竜は真っ逆さまに吹っ飛んだ。11号は直前で離脱してしまったが、文句は言うまい。
即座に姿勢を立て直す兄。機体には異常が生じているのか、関節部分がショートしている。
怒りに狩られるまま、俺は眼下の敵に飛びかかった。
『貴様、貴様、貴様あああぁぁぁあああ!』
『好き勝手吠えてろよ……!』
拳を叩きつける。
それだけで機竜の装甲は拉げていた。竜明はパニックから、悲鳴に近い叫び声を上げ続ける。
展開される魔弾は、どこか味気ないものに見えていた。加速する光景の中、隙が明確に理解できる。
俺の接近に伴い身構える竜明だが、もう遅い。
『ぬ……!』
一撃叩き込んで、姿勢を崩した直後。
至近距離の竜砲が、機竜の躯を包み込んだ。
直後に響いた轟音は俺の勝利を確定させる。機竜は直線に作られた通路の奥で、煙を吐き出しながら仰向けに倒れていた。
「が、ぐあああぁ……」
動かなくなった機竜から、竜明は息も絶え絶えの状態で這い出てくる。
その身体には明らかな異常があった。
右腕。まるで石を移植したかのように、光沢と凹凸が彼の肌から生えている。
「神霊石――」
間違いない。
竜明から生えているのは神霊石だ。剣山よろしく、いくつもの石が皮膚を突き破っている。腕としてのまともな機能は、あのままだと期待できまい。
俺は、肉親へ起こった変化に唖然とするだけ。
「くそ、くそっ、くそっ……!」
竜明は逃げようと必死だった。
4号辺りが助けようとするのかと思えば、彼女の姿はどこにもない。……一体何をしに現れたんだろう? ただの援護にしては、機会が少なかった気がするが。
やがて、駆け付けた治安部隊が竜明を拘束する。
「くそっ、お前ら離せ! 離せええぇぇええ!」
「……」
勝った気分になれないまま、俺は事の顛末を見届けていた。




