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『マヌケが! 喰らえ!』
攻撃が無力化された隙を突き、敵の拳が滑り込む。
しかし予想していた展開だ。何の驚きもなく、蜻蛉を切って回避する。
数メートルの間合いを作って、本物と機械は睨みあった。
『ああ、最っ高だねコイツは! 私の思い通りに動く、私の願いを叶えてくれる! 機甲都市の連中なんぞ馬鹿ばかりと思ったが、やれば出来るじゃないか!』
『……アンタ、向こうと繋がってんのか?』
『さて、どうだろうねえ。私はお前に答えてやる義理なんて無いし――相手をしてやる義理も、ないんだよねえ!』
直後。大型機竜と同じく、竜明は魔弾を展開した。
その照準は避難している人々へ。
『おい、止め――!』
『はっ、聞くとでも思ったかぁ!?』
下品な笑い声を混ぜながら、容赦なく叩き込む。
俺は即座に射線へと立ち塞がるものの、すべての魔弾を捌くことは出来ない。一発ずつ両腕で弾いていく中、確実に被害が積もっていく。
敵は攻撃を止めない。躊躇いもない。
他の機能を失ったかのように、延々と笑い続けるだけだ。
『いいぞ、いいぞ! やはり凡俗な連中はこうでなければ! 道化として泣いて、喚いて、楽しませてくれないとなぁ!』
『この……!』
どうにか反撃に移りたいが、弾幕は一方的に濃くなっていく。俺が移動すればどうなるか、結果は火を見るよりも明らかだった。
半ばパニックに陥り、脱出することだけを目指していく人の群れ。
誰かに止められることもなく、俺は背中を晒し続けた。
「はい、隙ありー」
『ぐっ!?』
背後からの痛烈な衝撃。姿勢が崩れ、魔弾が俺の元に殺到するまで一瞬。
光の瀑布が、人々の絶望に花を添えた。
『無様だなぁ、後継者の癖に!』
『――!』
挑発に誘われて顔を上げれば、自分が二階に叩き込まれたことを理解した。
幸か不幸か、辺りを通っていた者達は進路を変えている。絶対とは言い切れないが、戦闘に巻き込む可能性は低そうだ。
でもその前に。
『偽物か……!』
「む、ちょっとそれ酷くない? 二号だって偽物なんだからさぁ。あ、アタシは4号ね。折角だから覚えてくれると嬉しいかな」
『そうかよ!』
身体が跳ねる。
自称・4号は無防備に突っ立っていた。先ほどの攻撃は魔弾だろうが、それを再度展開する様子もない。
行ける。
そう思ったなり、
『馬鹿が!』
『ごっ――!?』
勢いに乗った回し蹴りが、腹に容赦なく叩き込まれた。
軽々と飛び、無人となった店舗へ頭から突っ込む。まるで学校での出来事を、攻守逆にしたかのような展開だった。
『っ、く』
全身が重い。解術装甲の効果により、ドラゴンの身体をすり抜けたからだろう。
始祖魔術による変化は、肉体そのものを変える行為ではない。例えるなら大きめの鎧を着ているのと同じだ。
それを貫通された。
生身の人間に鉄塊がぶち込まれれば、どうなるかは自明の理。
だがそんな状態でも、俺の肉体は機能を維持していた。痛みだけはまったく薄れないのに、生きるための能力はフル回転している。
《先輩! 先輩!》
頭の中に響く声。
確かめるまでもなく、俺が知っている紫音だった。




